o2「狂気の狼煙」
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宮廷の頂上。バルコニーは松明によって灯されている。
「エリーベルダ様」「予期していた自体が起きてしまいました」
二人の騎士。
姿形見た目は全く一緒。違うとなれば髪を結う場所が違うくらいか。
「リィン・カァラが」「エリーベルダ様の教えを無視し、攻撃へ」
二人の騎士の視線の先には”ドレス姿の何者か”がいる。
「「如何致しましょう」」
「……そうですね」
ドレス姿の何者かは振り返り、二人の騎士に返答した。
「純潔を穢す者は我々の同士にあらず……彼女だけは放っておくわけにはいきません。すでに手は回しています」
赤い月。良からぬことが起きる予兆と言われる不運の空を背に。
「どのような手段を用いてでも、彼女だけは止めるのです……この素晴らしき、新世界の未来の為にも絶対に」
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一目見ればわかる。
貫かれた腹。斬りおとされた首。砕かれた脳天。
「なによこれ……!」
何れも即死だ。少女騎士達の表情からして、予期せぬ奇襲であると思われる。
「何がどうなったのよ!?」
わかってはいる。もう返事など返ってこないとわかっていても、リィンの体は動き出してしまう。一つ一つの亡骸に手を伸ばし揺さぶり続ける。
「何があったの!? 説明しなさいッ!!」
「___ッ!」
虚しい声が響くだけ。屋敷の中の惨状の中、マレナは感じ取る。
「リィンさま! 後ろです!!」
「!?」
リィンの背後で金属音が響く。
ローブが擦れ脱げ落ちる音。それはリィンにとっては“聞き慣れた合図”である。
「マレ、ナ……?」
そっと、リィンは後ろを振り向く。
「気を確かにしてください! リィンさま!!」
脱ぎ捨てられたローブの下はまるでレオタードにも似た戦闘装束。真っ白の髪を靡かせる乙女が特別製のナイフが両手に。
リィンにとっては見慣れたモノ。それは従者“マレナ”の戦闘態勢であった。
「敵は……!」
その戦闘態勢に対するモノ。
“和装の乙女”。刀を振り下ろす純潔領域の組織の一員がマレナと相反していた。
「……これはどういう意味?」
そっと立ち上がり、リィンは剣に手を伸ばす。
「見たままなら……“あなたがやった”と考えていいの?」
威圧。敵意。数分前まで見放しはしたものの、仲間意識だけは向けられていた視線が完全な殺意へと変わっている。
「【歌摺】?」
「それ以外にどう見える?」
その名を呼ぶと、広間の物陰から小さな影が現れた。
「許してとは言わないよ。リィン」
室内でもマフラー。過去に読んだ世界歴史の本の写真と比べると、布地は断然多い“忍装束”の乙女。青髪の麗人、和装の乙女集団の長。組織の幹部の一人“歌摺”が、リィンの前に現れた。
「妙な真似をされると国の秩序が乱れてしまう。これ以上の勝手な行動は考慮出来かねる。エリーベルダ様からの命令だ」
クナイを手に、歌摺と呼ばれた乙女は宣告する。
「あんたもエリーベルダエリーベルダと……信仰者は何処に行っても狂ってるのかしら!?」
「狂っているのは君の方だ」
歌摺が迫る。リィンは迫る彼女を前、舌打ちをしながらも自身の剣へ手を伸ばす。
「リィンさまっ……くっ!!」
マレナはリィンの護衛に回ろうとするが、それを邪魔するのは歌摺が率いるくノ一集団だ。一人、また一人とマレナに向かって飛び掛かってくる。
「名残惜しいがお別れだ。あの世で私の名を呪ってくれ」
「……歌摺ァッ!!」
リィンは剣を鞘から引き抜く。
「黙って聞いてれば! いっつもいっつも同じことばかり呟いて!!」
琥珀色。半透明の刃が姿を現す。
やられたままではいたくないと宣言していた少女だ。この光景を目の当たりにし、敵が例えかつての仲間でも反撃の一つしないはずがない。
「これだけやられて、やり返す事の何が悪いのよ……! 立派な正当防衛! 反撃の狼煙を上げる事に間違いなんてある!?」
住民達にいらない刺激を与えるだなんて考え。あまりにも保守的すぎる。
むしろ今こそ住民達を奮え立たせ、その気になっている“野蛮人共”に一泡吹かせる時でないのかと、リィンは力強く宣言した。
「言っただろう。あの方曰く、純潔であるからこそ我らの存在に意味がある」
「……言っておくけど、私にその気はないわよ?」
純潔。美しき者であれ。この国の教えそのものに異を唱えるリィン。
「これ以上続けるのなら、例え歌摺でも容赦しない……アンタを殺してでも、私は私がやるべきことをやりにいく。私の希望を壊させはしないわ……!」
「頑固な子だ。そういうところは嫌いじゃなかったけどね……!!」
退くつもりはない。歌摺も宣言する。
「ああ、そう! アンタみたいな臆病者なんか、もう知らない!!」
今、この瞬間。絶交だ。離別の瞬間を迎えた。
「だったら」
少女の剣。琥珀よりも更に輝かしい、黄金の光を放ちかける。
「宣言通りアンタを殺して、」
___しかし、だ。
「……ッ!」
___光とともに。
「……ッ?」
___“戦火は降ってくる”
「ッ!?」
その場にいる乙女達の者とは相反する者。
それは“この純潔領域という美しき世界を汚す愚かな野蛮人風情”。
「歌摺様! 外から敵がっ……あぁああッ!?」
イレギュラー。乙女誰一人として、予想もしていないタイミングの形となって”それは”現れる。
突如、館の外から報告に現れた和装の乙女。しかし、入口の扉を開いた矢先のその少女は爆炎により吹き飛ばされる。手足はあらぬ方向に折れ曲がり、リィンの騎士たちの亡骸の元へと倒れ込む。
「敵襲なのか!? どうした!?」
歌摺は外で待機させていた部下たちの元へと向かう。
「……ッ!?」
外に出ると、その正体を目の当たりにする。
___気が付けば、屋敷の外は火の海になっていた。
『_______』
___三メートル近くはある巨体。人肌など一つもない鋼の肉体。
___巨大な人型火器兵器が数体屋敷に銃器を向け、睨みつけている。
「リィンっ! 外に出ろッ! 中は危険だ」
「……!?」
まだ屋敷の中にいるリィンは状況をつかめずにいる。歌摺の声が聞こえようとも、まだ反応が追い付いていない。
「リィンさま!」
だが事の重大さに気づいたマレナは、歌摺の部下たちの猛攻を潜り抜け、あっけにとられる少女の手を引き走り出す。
『『『____________』』』
瞬間、人型兵器は一斉に炎を放つ。
「……ベストタイミングに兵器の射出。バックアップの提供は契約通りで助かる。これで高値の報酬が得られるものだから助かるぜ」
人型兵器の群れの中。声が聞こえる。
低音。それは紛れもなく、純潔領域の中では聞くはずもない“種族の声”。
「しかし、参ったな。さすがにやりすぎだ、これ」
深く帽子をかぶる茶髪の男。黒いTシャツ姿にボロボロのジーンズ。見るからに仕事着な格好の人物が冷や汗をかいている。
「幹部の命一つ奪って来いと命令こそされたものの、こんだけ派手にやっちまうと遺体が残ってるかどうか分からねぇ。まずいなぁ、未遂で終わっちまうのは」
やれやれと両手を広げて、男は困ったと呟き続けていた。
「こんだけ派手にやったとなれば、後で俺らがやったってバレれば面倒なことになるんじゃないの、これ? そうはならないようにするけどさぁ……ハァ、やべぇやべぇ。まずは、ボチボチ探すとするか」
人影一つ見当たらない。炎の海の中、人型兵器の群れを置いて青年は燃え盛る屋敷へと向かっていく。彼曰く“少女の遺体を探すために”。
「首の一つでも見つけておけば、問題ないし? そのまま誰にも見つからずに帰ることが出来れば俺も平和万々歳、」
「“悶え死ね”」
耳元、死神のささやき。
「……ってわけにはいかねぇかッ!!」
慌てて振り返り、男は片足を振り上げる。マレナだ。突然、男の真後ろに現れたマレナは首元目掛けてナイフを振るっていた。
「運が良いのか実力か! どっちかなァアッ!?」
それに対し男は振り上げた“足”で反撃する。咄嗟の自衛行動にしても、無謀としか言いようがないこの光景。ぶつかり合う、刀と片足。
(なっ……!?)
特別製のナイフは、その片足を“斬り落とせない”。
(固い……!?)
想像以上の硬度を前にマレナは困惑している。
「ハハッ……!」
男も口を開く。
「……その見た目でなんだそのパワァアアーーーッ!?!?」
___そのまま、吹っ飛んでいく。
ハンマーで吹っ飛ばされたかのよう。男の体は燃え盛る館の屋根裏部屋へ。遥か上部へとボールのように突っ込んでいった。
「……え?」
マレナは呆気ない敵の最後に唖然としていた。
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