亜美と村木
村木はアドレス帳から目的の番号を探し、電話をかけた。
「もしもし亜美ちゃん? 今いい」
「村木くんか。どうしたの」
「悪いんだけど、あした鐘山さんの様子を見にいってくれないかな。俺が行ったら嫌われそうだから」
「え、無理だよ。私だって予定あるもん。そんな急に言われてもさ」
「……ずっと宿題手伝ってあげてたのに」
「うっ」
亜美は気まずそうな声を出した。
「夏休みの宿題だってほとんど俺が教えてあげたよね」
「うう……そんな昔のこと引き合いに出さなくてもいいじゃん……」
「じゃあ、最近のことを話そうか。彼氏と揉めたときだって……」
「もー、わかったよ! 行ってくればいいんでしょ」
亜美は不満げではあったが承知した。
「そういや、桃子ってやつ、どうなった?」
「ちょっと進展があったのかもしれない。鐘山さんが何かやったみたいなんだ」
「さすがベルちゃん。攻撃力が高い」
「俺としては心配だけど」
「大丈夫でしょー。玖路山くんのほうはどう?」
「心配いらないよ。桃子が玖路山くんに何かすることは二度となさそうだ。そもそも余計なお世話だったのかもしれない」
「玖路山くん気が強いしね。でも、昔のこともあるしさ。無理やり迫ってくる相手にトラウマとかあるかもだし。これで良かったんだよ」
「まあね。このこと玖路山くんには言ってないよね?」
「言ってない。言えないよ……そんなこと」
「玖路山くんは、鐘山さんと二人だけの秘密だと思ってるからね……」
少しの沈黙。忘れたくても忘れられない過去を振り返るのには数秒あれば十分だった。
「私、あのときのこと、今でも後悔して夢に見るんだ」
「うん……」
「どうして動けなかったんだろう、どうして助けにいってあげられなかったんだろう。怖くて見ていることしかできなかった……、そんな自分が情けなくてさ」
村木は唇を噛んだ。後悔しかない、小6最後の記憶。
「村木くんは悪いと思ってないの? 玖路山くんからベルちゃんを取り上げて罪悪感ないの?」
亜美の責めるような口調に、村木は視線を落とし、
「罪悪感はあるよ」
とつぶやいた。
「だから3年我慢した。その後には桃子も引き受けた」
「……そうだね、そうだったよね。ごめん。ちょっと感情的になってた。昔のことを思い出すとつい暴走しちゃう」
「うん、わかるよ」
「……明日、ベルちゃんの様子見てくる。夜に連絡するね」
それで通話が切れた。
<つづく>
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