玖路山と亜美

 亜美は電話を切り、一息ついたあと、再び電話を掛けた。


 数コールの後、通話がつながった。

「玖路山くん? 亜美だけど。さっきベルちゃんに電話してみた」

「……あー、もう。いいのに」

「ベルちゃん、玖路山くんの気持ちに全然気づいてない」

「知ってる」

 スマホごしにため息が漏れた。

「どうすんの。このままだと村木くんに取られちゃうよ」

「取られるも何も、時子が村木を好きならしょうがないだろ。それより亜美もいつまで時子から逃げ回ってるんだ。話をしてやれ」

「わ、私のことはいいじゃん。時期が来たら話すんだから。でも、玖路山くんは待ってる場合じゃないじゃん」

「僕にできることは事態を見守ることだけだ」玖路山は諦めのにじむ声でそう言った。

「もう、何でそんなにヘタレなのかな。いつも強気なのに、どうして恋愛になったらうじうじするの。告白する、だめなら次にいく。それだけじゃん。考えるな、行け!」

「そんな簡単に割り切れない」

「割り切れ! そうじゃないと青春なんてあっという間に終っちゃうよ!?」

「……耳が痛いけど、どうしようもない」

 亜美は声を潜めて、おどすようにつぶやいた。

「玖路山くん、わかってるの?」

「……何が?」

「もうすぐ10月が終わって、11月がきて、そしてクリスマスが来るんだけど」

「だから何」

「もしもベルちゃんが村木くんと付き合ったら、クリスマスは夜景の綺麗なホテルで食事とかしちゃうよ?」

「いや、高校生でそんなことしないだろ……」

「する。そして、食事のあとは部屋に行ってー」

「待って」

 玖路山は慌てて話を遮ろうとしたが、亜美は構わず話し続けた。

「村木くんに服を脱がされて、恥ずかしそうに微笑むベルちゃんを思い浮かべなさいよ」

「おまえは悪魔か。いや、何の話だよ」

「いいの? その想像が現実になるけど、いいの?」

「……」

「あんなことされて、こんなこともされて」

「やめろよ……死ぬ……」

「朝まで愛し合っちゃうんだよーーー」

「うわああああああああああ!!!」

「叫んでる場合か! 告白してこい! 気持ちを伝えなきゃスタートラインにも立てないんだからね!」

 叫び声とともに電話が切れた。


 亜美は舌打ちした。

「ちっ。ほんとどうしようもねえな」


<つづく>

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