高1 デート服ってどんな服
9月のある日。私は凛兎ちゃんに頼まれてショッピングモールに来ていた。
「凛兎ちゃんはどういう服が好きなの?」
「シンプルで動きやすい服が好きかな。あんまり派手じゃないやつ」
確かに今日の凛兎ちゃんも派手じゃない。無地のシャツにジーンズ、スニーカーというシンプルで動きやすそうなスタイルだった。
「なるほどー。でも、デートだから、ちょっと冒険しちゃう?」
「う……えっと、どうしよう」
凛兎ちゃんは困ったようにはにかんだ。
彼女は意中の人に告白し、OKをもらい、さっそくデートに行く約束をしたらしいのだ。今日はそのデート服選びにやってきたのだった。
「どのお店がいいのかな」
「凛兎ちゃん、今日は時間あるんだよね。じゃあ、いろいろ見て回ろうよ」
「うん。ありがとう、ベルちゃん」
「あ、見て、あれ可愛いんじゃない?」
「ほんとだ」
私たちは手当たり次第、あっちの店、こっちの店と見て回った。
「ワンピース……スカート……パンツスタイル……」
うーん。凛兎ちゃん的にはどれがいいんだろう?
「どうしよう……」
本人も決めかねているようだ。
「そうだ! あのね、手触りよさそうなトップスを着るとモテるらしいと本に書いてあったよ。思わず触りたくなっちゃうんだとか」
「ベルちゃん、また変な本を読んでるんだ……」
また、とは?
「あとはエロ系でいくか、可愛い系でいくかだよね」
「エロ却下で」
決断が早い。
「じゃあ、手触りのよさそうな可愛い系で見てみようよ」
「モテもいいよ。普通に可愛いのがいい」
普通に可愛いのが一番難しいのよ、凛兎ちゃん。私にそれが提案できるなら、もうとっくに提案してるのよ、凛兎ちゃん……。
一応の方向性が絞れた私たちは、さっき下見したお店の中から、それっぽい店に戻って、あれこれ試着し、結局凛兎ちゃんは可愛い系の中からシンプルなものを選んで購入した。今着ている服とあまり変わらないような。
「結局こうなるっていう」
「あるある。新しい服を買いに行っても、持ってるのと似たような服買っちゃう」
「ごめんね、せっかく着いてきてもらったのに」
「いいよ~。私も服を見られて楽しかったもん」
買い物を終えて、私たちはファストフード店に行くことにした。喉も渇いたし、小腹もすいたし。個人的には書店やアニメグッズ店にも寄りたいところではあったが、凛兎ちゃんは非オタなので我慢した。
ポテトとドリンクをテーブルに置き、席につくなり凛兎ちゃんが尋ねてきた。
「ベルちゃんはデートってしたことある?」
「えっ……どうだろう。したことないかも。腹の探り合いならあるけど」
「ちょっとよくわからない」
「私も」
自分でも何を言っているんだろうと思いながら、ストローでジュースをじゅろろろろと吸い上げた。
「デートって、どういう感じなんだろう?」
「そりゃあ胸がどきどきして、嬉しい、楽しい、そういうやつ?」
「そうじゃなくて、実務的なやつだよ。どんな感じなのかなって」
「じ、実務的なやつ」
それって一体なんだろう。
「ちょっとよくわからない」
凛兎ちゃんと同じ口調で返してしまう。
「相手に任せてしまう感じなのかな。それとも自分が引っ張っていったらいいの?」
「おぅ……そういうやつね。ごめん、全然わからない」
「うーん。あっ、そういえば思い出したけど、ベルちゃんって彼氏いたよね。英高の人。彼との初デートはどんな感じだったの?」
凛兎ちゃんが言っているのは多分玖路山くんのことだろう。校門で私を待っていたから、そういう誤解が生じているっぽい。
「あの、その人ではないよ」
「違う人?」
「うん。……いや、待って。彼氏かな? 彼氏なのかな?」
村木くんって彼氏なんだっけ?
「友だち以上の恋人未満みたいな感じなのかな」
凛兎ちゃんは勝手に納得している。もうそういうことでいいか。
その後、何ら有益なデート情報を提供できないまま、いつしか違う話題になっていった。頼りなくてごめん、凛兎ちゃん。
――
この9月には、人生で忘れられない出来事が起きた。ついに私が待ちわびていた時が訪れたのである。
「バイト募集 学生さん歓迎! あこがれの遊園地で働いてみませんか」
来たぁぁぁぁぁぁぁ!
私は原稿用紙10枚にわたってデアデビルへの情熱を書き綴って送付し、見事バイトとして採用された。それもデアデビルの担当である。やった!
<つづく>
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