第95話 決戦の朝

1945年6月5日


 米重爆部隊による妨害を受けながらも第1機動艦隊及び木村艦隊は台湾沖(台湾の西側)に展開した。


 台湾9カ所の飛行場に分散展開している陸海軍の基地航空隊も既に臨戦態勢に入っており夜明けから多数の偵察機を全方面に放ち、米軍の発見に努めていた。


 現地時間午前6時頃


「敵機動部隊発見、空母3隻、戦艦1隻、巡洋艦・駆逐艦多数」


「敵機動部隊発見、空母2隻、戦艦1隻、巡洋艦・駆逐艦多数」


 以上の2つの敵艦隊発見の報が海軍所属の「彩雲」より全軍に通知された。


 1機艦司令部と陸海の基地航空隊の各司令部は発見した敵部隊をそれぞれA1、A2と呼称し「彗星」「天山」「天河」などの攻撃機を有している11航艦はただちに攻撃隊を発進させる準備を開始した。


第1次攻撃隊

11航艦・第8飛行師団

疾風    100機

零戦33型 100機

彗星     40機

天山     60機

天河     56機


1機艦

零戦33型  96機

彗星     96機


第2次攻撃隊

11航艦・第8飛行師団

疾風     50機

零戦33型 100機

彗星     40機

天山     60機

天河     56機


1機艦

零戦33型  96機

彗星     96機


 上記の攻撃隊参加機が午前6時30分頃から順次発進した。索敵機からの続報により敵艦隊も台湾に向けて攻撃隊を発進させつつあるということが判明し、完全な先制攻撃とはならなかったが、午前7時10分には全機の発進・発艦が完了した。


 米軍よりも日本軍の方が攻撃隊参加機が多く、攻撃隊の発進に時間を食ってしまったため、攻撃隊が来襲するのは米軍の方が早かった。


「敵大編隊発見。高度4500、機数約200」


 主に陸軍機が展開している台南の飛行場に警報が鳴り響いた。


 攻撃隊に参加しなかった飛燕、鍾馗などの陸軍機が次々に離陸を開始し、台中・台北の飛行場からも海軍機が台南の飛行場を援護するために出撃していった。


「ここであったが100年目だよ。米軍よ」


 「飛燕」75機の統一指揮を執る山田俊男少佐は南の空から接近してくる米軍機の大群に対して闘志を剥き出しにした。


「『飛燕』隊かかれ!! 狙いは敵戦闘機だ!!」


 山田が「飛燕」の機上レシーバーを通して膝下全機に指示を出し、指示を受け取った「飛燕」隊が中隊ごとに分かれて敵編隊に向かって突撃していった。


 突撃してくる「飛燕」に反応したかのように敵編隊からF6Fが分離し、艦爆を守るべく「飛燕」に挑みかかってきた。


 「飛燕」とF6Fの機銃がほぼ同時に光り、何十条もの火箭が両軍戦闘機に殺到した。


 被弾した飛燕・F6Fが損傷・墜落し、戦闘機同士の戦いは直線的なものから乱戦へと移行していった。


 山田が乗っている「飛燕」が率いる小隊がF6F2機編隊の後ろを取ることに成功した。この乱戦の序盤で敵戦闘機に対して背後を取られる当たり、このF6Fに搭乗している搭乗員は若手なのだろう。


 どうやらベテランパイロットの不足に悩んでいるのは日本軍だけではないらしい。


 F6F2機が急降下時の加速によって飛燕を引き離そうとするが、最高速度590キロメートル/時を誇り、機会各部の大幅な強化によって急降下時の速度も鍾馗と比べて大幅に増加している飛燕を引き剥がすことは出来ない。


 急降下によって飛燕を引き離せないことを悟ったF6Fが慌てたように機体を左右に振るが、そのときにはもう山田は機銃の発射ボタンを思いっきり押していた。


 飛燕自慢の12.7ミリ機関砲が火を噴き、4条の火箭がF6F2番機に殺到した。


 12.7ミリ機関砲は海軍の零戦が装備している20ミリ機銃よりも威力が控えめのため山田機がF6F2番機を撃墜することは出来なかったが、後続機が続けて射弾をぶち込み、4番機が射撃を終えたときそのF6Fは力尽きたかのように墜落していった。


「いいぞ『飛燕』!!」


 山田は「飛燕」のコックピットで喝采を叫んだ。そして次は山田機の少し上の空域を飛んでいたF6Fに目をつけた。そのF6Fは乱戦の中で僚機とはぐれてしまったのだろう。編隊を組まず単機で飛行していた。


 山田が操縦桿を手前に引き「飛燕」の機体が上昇し、後続機もそれに続いた。


 小隊とF6Fがお互いに向き合うような形となったが、彼我の相対速度が1000キロメートル/時を突破していたということもあって、お互いに機銃を発射するタイミングを逃した。


 たった今、1機のF6Fを仕留め損なってしまった訳だが、山田の意識は既に次のF6Fに移っていた。このような乱戦の中では1機の目標に固執することは極めて悪手だと言われており、山田もその教えに従ったのだ。


 不意に山田の背中に悪寒が走った。


 山田が体を捻って後ろを見た瞬間、山田機に鈍い音と共に衝撃が断続的に走り機体が大きくよろめいた。


「くそっ!!」


 山田は今度は自分がF6Fに後ろを取られてしまったことに気づいたが、「飛燕」の防御力が物を言い、致命的な事態にはならなかった。


 辛くも虎口を脱した山田はかなり下の空域を飛んでいたF6F4機編隊に目を付けた。数は同等だが高度上の優位はこちらが占めていた。


 山田機が三度加速し、F6Fに襲いかかった。


 戦いはまだ始まったばかりだった。






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