第21話 トラック航空邀撃戦⑤

「迎撃隊、敵機を完全に阻止することが出来ません!」


「ヴァル(99艦爆)・ケイト(97艦攻)約70機輪形陣の中に侵入してきます!」


 2つの報告がTF51に所属している空母「サラトガ」の右舷側を守っている軽巡「アトランタ」の射撃指揮所にもたらされた。


「新型艦戦のF6Fをもってしても完全に防ぎきる事は出来なかったか・・・」

軽巡「アトランタ」砲術長レイ・ノイズ少佐は悔しそうな声を出した。


 今回の迎撃戦は新型艦戦F6Fの記念すべき初陣であり多数の敵機を落とすことが本機には求められていたが、まだ前線に配備されて日が浅く今回の作戦ではエセックス級空母の「エセックス」「ヨークタウン2」各20機が搭載されているのみだ。


 そのため、200機前後の大編隊の全てを撃退することは出来なかった。


 しかし、アトランタの艦上からノイズが見ていた限りではF6Fはジーク(零戦)に対して終始有利に戦闘を進めていたように見えた。


 F6Fを始めとする戦闘機隊の奮戦に報いるためにも空母を守り抜かなければならない。


「左舷見張りより報告!敵雷撃機は3隊に分かれ移動中、その内1隊は本艦の左舷を通過する模様!」


「敵爆撃機隊加速します!『サラトガ』『プリンストン』が目標らしい!!」


 ノイズが射撃指揮所の窓から外を見てみると、敵雷撃機30機以上が海面スレスレの高度で突撃してくる姿が確認でき、多数の艦爆がアトランタの上空を通り過ぎようとする光景も見られた。


 アトランタに装備されている5インチ連装高角砲6基12門・40ミリ4連装機銃・25ミリ機銃多数が上空を通過しようとする敵艦爆の編隊に向かって一斉に火を噴き、おびただしい数の火箭が突き上がった。


 大中小3種類の砲・機銃が発射されたときの発射音は艦自身が発する機関の音がかき消されるほどの砲撃の凄まじさだった。


 アトランタ上空を通過しようとした敵艦爆が1機、2機と火を噴いて墜落していった。


 凄まじい対空火力を誇るアトランタを脅威と見たのか敵艦爆の1部が目標を空母からアトランタに切り替えた。


 その敵機に向かってアトランタの火力が殺到する。アトランタに急降下した敵5機の内1機がひとたまりも無く撃墜されたが、残りの4機はアトランタの火力に臆すること無く突っ込んできた。


「不味い。全員伏せろ!」


 ノイズがアトランタの被弾を予感して叫んだとき不意にアトランタの艦首が右に振られた。アトランタ艦長カール・ベッド中佐はこのような事態になることを予め予測しており早めに舵を切っていたのだろう。


 敵艦爆4機が投弾し爆弾が遙かなる高みから落下してきたが、ベッド中佐の早めの判断が奏功しアトランタに命中した爆弾は皆無だった。


 しかし、アトランタが回避運動に専念したため輪形陣に一時的に穴ができた。


 敵の艦攻隊がその穴を通り輪形陣の中心部に侵入した。回避運動終了後アトランタは直ぐさま射撃を再開したが、敵機との距離が徐々に離れていっていることもあり撃墜出来た機体は皆無だった。


 輪形陣の中心部に侵入した敵機に向かって「サウス・ダゴタ」「アラバマ」「ワシントン」の3隻がアトランタと同等以上の射撃を浴びせるが、空母が視界に入ってきた敵艦攻は投雷寸前だった。


 敵艦攻を防ぎきる事は不可能と判断したのか、TF51旗艦「サラトガ」が面舵を切り始めた。


 しかし熟練揃いの敵艦攻は「サラトガ」の動きに余裕で追随してきた。


 敵艦攻が投雷し7本の魚雷が海面下から「サラトガ」に追いすがり、その内3本が「サラトガ」の巨体に吸い込まれた。


「ダ、ダメだ・・・!」


 ノイズが「サラトガ」の破局を確信した直後、「サラトガ」の右舷艦首に1本、左舷艦尾に2本の長大な水柱が立ち登った。ごく短時間の内に凄まじい打撃を受けてしまった「サラトガ」は大きく身震いをしながら停止した。


 そして、半身不随となった「サラトガ」に追い打ちをかけるように敵艦爆の編隊が「サラトガ」に止めを刺すべく急降下を開始した。


「『サラトガ』にこれ以上の損害を与えていかん。全機叩き落とせ!」とノイズが怒声混じりに指示をだし、「アトランタ」がそれに答えるかのように咆哮するが「サラトガ」の被弾は避けることが出来なかった。


 5発の爆弾が投下され、3発が「サラトガ」の飛行甲板に容赦なく命中した。


 命中した爆弾の内2発は被害が飛行甲板で止まったが、残りの1発は飛行甲板をぶち抜いて格納庫で炸裂した。


 格納庫内で発生した火災は乗員・機体・燃料などを一切区別することなく平等に貪欲に飲み込んだ。


 この一撃が決定打となってしまい「サラトガ」は空母から海上に浮かぶ燃える鉄塊へと変貌してしまった。


 この時ノイズの視界には入っていなかったが、同じくTF12旗艦51に所属していた「ホーネット」「プリンストン」も爆弾・魚雷をねじ込まれ炎上していた。


 爆弾2発、魚雷2本を喰らった「ホーネット」は飛行甲板が発着艦不能となったが、航行不能とまではならなかった。


 しかし、爆弾4発、魚雷1本を喰らった「プリンストン」は元が軽巡で防御力が貧弱だったということもあり、既に艦体が横転し沈没していた。


 結局、日本軍の第1攻撃隊によってTF51は正規空母1隻、小型空母1隻沈没・正規空母1隻中破の大損害を被ったのだった。





















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