第20話 トラック航空邀撃戦④
1943年6月18日 トラック環礁東方200海里地点
TF51(第51任務部隊)から発進した米軍第1次攻撃隊が失敗した約30分後、日本海軍第3艦隊から発進した日本側の第1次攻撃隊も米機動部隊を視界に捉えていた。
日本側の第1攻撃隊は零戦95機、艦爆48機、艦攻48機の合計191機で構成されており、ミッドウェー海戦時などの攻撃隊の編制と比較すると攻撃隊全体に占める零戦の割合が著しく増加している。
このような編成の裏には「攻撃隊に占める艦爆と艦攻の数が多かったとしても投弾・投雷前に撃墜されたのでは意味が無い。ならば、戦闘機の割合を従来よりも増やし艦爆・艦攻を守った方が良い」という第3艦隊司令部の考えがあった。
今のところこの措置は奏功しているように思われる。第1次攻撃隊は目標の30海里からF4F60機前後による迎撃に晒されたが第1次攻撃隊に随伴している零戦がよく艦爆・艦攻を守り、今のところ艦爆・艦攻の被害は僅少なものにとまっている。
「艦爆隊・艦攻隊共に機体間隔を密にすることを心がけ、敵機の攻撃による被害を最小のものとせよ」
「『翔鶴』『瑞鶴』『飛龍』の艦攻隊はこれより高度を下げて進軍する我に続け。全機宛送信」
第1次攻撃隊の総指揮艦官を務めている「翔鶴」艦攻隊長村田重治少佐は通信員に2通の電文を送る事を命じた。
村田が前方を注視していると新たな敵戦闘機が20機程現れた。
その戦闘機を牽制するために「翔鶴」「瑞鶴」「飛龍」の艦攻隊に随伴していた16機の零戦が動いた。
村田の脳裏にはF4Fよりも優れた性能を誇る零戦がF4Fを牽制し、F4Fが艦攻隊に指一本触れることの出来ない光景が浮かんだが現実は違った。
零戦隊と敵戦闘機隊がすれ違った直後、敵戦闘機を1機撃墜するものの零戦隊は返り討ちに遭い3機の零戦が火だるまになって墜落していき2機が黒煙を噴き上げた。
零戦隊の動きが慌てたものに変わり、敵戦闘機の射弾を躱すために大きく散開した。
零戦の旋回性能の高さを活かして敵戦闘機と格闘戦に持ち込もうとする零戦もあれば、急降下で敵戦闘機を振り払おうとする零戦もある。
しかし、敵戦闘機はそういった零戦の動きを嘲笑うかのように零戦との距離を一瞬で詰めた。
零戦との距離を十分に詰めた敵戦闘機が凄まじい量の弾量を放った。凄まじい量の射弾が零戦に殺到する様子はさながら零戦を捕まえようとする投網のようだ。
その投網に2機の零戦が捉えられた。被弾した2機は機体のあらゆる所を穴だらけにされ力つきたように落ちていった。
僚機の被弾・墜落をみても零戦隊は全くひるまず敵戦闘機を牽制してくれているが戦況は敵戦闘機の方が優勢だ。
零戦の牽制を振り切った敵戦闘機4機が村田が直率する「翔鶴」艦攻隊に殺到してきた。
「機体を左右に振って敵の射弾を躱せ!!」と村田が操縦員の山形京介少尉に指示を出した。
97艦攻は機首に機銃を持たないため正面からの攻撃には機体を振って躱すほかない。
敵戦闘機の影が猛速で村田機の上空を通過する。村田機は辛うじて被弾を回避するが、「翔鶴」隊の艦攻が1機被弾した。
「?」猛速で通過した敵戦闘機を見た村田がその姿に唐突に違和感を感じた。
F4Fは零戦とは対称的なごつい外見をもつ機体だったが、今通過した機体は明らかにそれ以上の凄みがあった。大きさも明らかにF4Fよりも大きく、羆さながらの凄みがあった。
「F4Fじゃない。新型の敵戦闘機だ!!」と村田が叫んだ。まだその真偽は明らかではないが、その可能性しかありえなかった。
村田機の操縦員を務めている山形が、なおも不規則に操縦桿を左右に振り未知の戦闘機から放たれた射弾を躱す。
村田機が射弾を回避している間にも、「翔鶴」「瑞鶴」「飛龍」隊の艦攻は次々に被弾・撃墜されていく。
3隊合わせて13機が落とされた時点で未知の戦闘機からの攻撃は唐突に止んだ。
F4Fと渡り合っていた零戦が艦攻隊の救援に駆けつけたのだ。
「村田隊長。まもなく敵艦隊上空に突入します!!」と山形が興奮を抑えきれない声で報告した。
「敵機動部隊甲部隊だな。」と村田が敵部隊の種類を判別した。
午前7時に第3艦隊が発見した米空母部隊は全部で2群あり第3艦隊司令部はそれぞれに「甲」「乙」の名称を与えられていた。
第3艦隊司令部の計画では第1次攻撃隊が敵「甲」部隊を、続く第2次攻撃隊が敵「乙」部隊を攻撃する手筈になっていた。
「敵艦隊発見。突撃体勢作れ」
「『翔鶴』『隼鷹』隊目標、敵空母1番艦。『瑞鶴』『飛鷹』隊目標、敵空母2番艦。『飛龍』隊目標、敵空母3番艦。全機宛送信せよ」と村田は通信員に再び指示を送った。
村田が出した指示に従って艦爆隊・艦攻隊が陣形を組み替えた。
村田機も残存10機の「翔鶴」艦攻隊を引き連れて海面すれすれの低空に舞い降りた。
「全軍突撃せよ!」
村田が通信員にみたび命じた。
目標の米空母はもう目前まで迫っていた。
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