第19話 トラック航空邀撃戦③

1943年6月18日


 米機動部隊から発進した第1次攻撃隊と11航艦の零戦隊が激しい空中戦を繰り広げながらトラック環礁の近づいてくる様は、トラック環礁の上空で待機していた陸軍機の機上からも確認できた。


 150機前後の零戦隊が目まぐるしく敵編隊の周りを飛び回り激しい銃火を浴びせる。


 零戦が放った射弾に絡め取られたF4F・ドーントレスが次々と火を噴く。


 火災煙をまといながらも辛うじて離脱する機体もあるが、体勢を立て直すことが出来ずに墜落していく機体もある。


 零戦隊にもF4F・ドーントレスの必死の反撃を喰らい被弾損傷・墜落していく機体がある。


 弾倉に敵弾の直撃を喰らいひとたまりもなく爆発する機体もあれば、搭乗員が落下傘で脱出する機体もある。


「接近している敵機は戦爆連合と推定。海軍の零戦隊が多数を撃墜破するものの約90機健在!!」という報告が陸軍第8飛行師団飛行隊長神崎繁少佐が搭乗する「鍾馗」の機上レシーバーに届けられた。


「戦爆連合約90機か。4,50機は艦爆だな」と神崎が冷静に敵戦力を分析した。


 鍾馗隊が動くのよりも先に隼2型で編成された部隊が動いた。今回の迎撃戦では鍾馗隊と隼隊の指揮権がそれぞれ独立しているため、隼隊の指揮官は自身の判断で迎撃を開始したのだ。


「神崎1番より鍾馗隊全機へ。目標前方の敵編隊、艦戦よりも艦爆を優先して叩け。かかれ!!」と神崎が膝下27機の鍾馗に指示を出した。


 第8飛行師団の鍾馗には盟邦ドイツからの技術導入によって新開発された新型の無線機が取り付けられていた。そのため、鍾馗隊の命令伝達は比較的スムーズに行われた。


「第1中隊ついてこい!!」


 無線機で2つの命令を出し終えた直後、神崎がエンジン・スロットルを全開まで開き鍾馗が急加速した。


 神崎が率いる鍾馗隊が右前方を飛んでいたF4Fの編隊に向かって突撃を開始した。


 陸軍機の出現に不意を突かれたF4Fが急降下によって離脱を試みるが鍾馗とF4Fの距離は離れるどころかみるみる近づいていった。


 二式単座戦闘機「鍾馗」の最高速度は時速605キロメートル。米海軍の主力戦闘機であるF4Fよりも50キロ以上優速だ。


「くらえ!!」と神崎が叫び機銃の発射ボタンを押した。


 鍾馗の機体から12.7ミリ弾2条、7.7ミリ弾2条、合計4条の火箭が噴き伸びてF4Fに殺到した。


 10ぱつ以上の射弾を浴びたF4Fは機体後部を穴だらけにされ火を噴くこと無く墜ちていった。


 神崎機以下の第1中隊の各機も次々と青白い射弾を放ちその火箭の網にさらに1機のF4Fが絡め取られた。


 最初の敵編隊と交錯したときには既に次の敵編隊が迫っていた。


 F4F4機が射弾を放った。大量の射弾が活火山ながらの勢いで神崎機の上下左右を通過した。


 F4Fは1機当たり6丁の12.7ミリ機銃を装備しているため1度に放つ弾量がとても多く感じられるのだ。


 数発が神崎機をかすったのか神崎の乗っている鍾馗が不気味な音を立てる。しかし、陸軍機は海軍機に比べて防弾装備が充実しているため射弾が数発かすった程度で火を噴いて墜落することはない。


 このとき神崎機の機首から射弾がほとばしる事は無かった。自機と敵機が接近しながらの場合だと相対速度が大きすぎ射撃の機会を得る事が出来なかったのだ。


 神崎機は上昇を始めた。ドーントレス群に対して陸軍機得意の一撃離脱戦法を仕掛けようとする動きだ。


 神崎機は急降下に転じた。


 神崎機を含めた第1中隊の8機がドーントレス8機編隊に対し攻撃を仕掛けた。


 ドーントレス8機の内3機が落ちていき、3機が火を噴いた。


 急降下を終えて再び上昇しようとする神崎の体に強烈なGがかかった。


 Gによって一瞬視界が暗くなるが、上昇に転じるころには視力は回復していた。


 視界が回復した神崎の目に戦場の様子が映った。


 トラック環礁の上空ではF4F・ドーントレスと鍾馗・隼2型が激しく入り乱れ空戦が今なお続いていたが、F4F・ドーントレスの総数は2機種を合わせても50機を大きく割り込んでいた。


 鍾馗隊、隼隊が大いに奮戦し多数の敵機をトラックの海に叩き落としたのだ。


 神崎機はなおもドーントレスに追いすがる。狙われたドーントレス群は緊密な編隊形をくみ、後部の旋回機銃を同時に発射して弾幕を形成する。


 ドーントレスが装備する後部の旋回機銃は7.7ミリ機銃であり脅威にはならないと思われがちだが、多数が命中すればさすがの鍾馗といえども撃墜されてしまう。


 その7.7ミリ弾の弾幕に第1中隊の5番機が引っかかるが、その時には多数に射弾がお返しとばかりにドーントレス群に殺到していた。


 主翼に12.7ミリ弾をたたき込まれたドーントレスは主翼が折れあらぬ方向に墜落していき、風防ガラスに直撃した7.7ミリ弾はドーントレスの搭乗員を貫きコックピットの中を血の泥濘に変える。


 神崎がとりついた梯団だけではない。


 他の梯団・編隊にも多数の鍾馗・隼2型がとりつき射弾を浴びせていた。


 被弾したF4F・ドーントレスが次々と墜落していき米軍の第1次攻撃隊は劇的に数を減らしていった。


 最終的に被弾した飛行場は皆無だった。































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