第18話 トラック航空邀撃戦②

1943年6月18日

                 

 アメリカ海軍と同様日本海軍もまた敵艦隊発見のため夜明けから多数の索敵機を放っていた。


 午前6時の時点では索敵機から敵艦隊発見の報告はもたらされなかった。


 しかし、午前6時40分頃トラック環礁から発進した索敵機が敵第1次攻撃隊の大編隊を発見した。


 その報告から遅れること20分、第3艦隊の索敵機が見事に敵艦隊を発見し日本軍全軍にその位置が知らされた。


「敵艦隊発見。発見せる敵は空母九、戦艦六、巡洋艦十以上、駆逐艦多数。位置はトラック東方200海里」


「きたか!!」


 敵艦隊発見の一報に第11航空艦隊司令長官の草鹿任一中将が反応した。


「当初の計画通り、基地航空隊はトラック環礁内での迎撃と第3艦隊の上空援護に専念する。迎撃隊発進せよ!!」


「各航空戦隊の陸攻隊は地上破壊をさけるため空中退避せよ!」


 草鹿が矢継ぎ早に命令を下した。


 今回のトラック環礁防衛作戦に先立って第11航空艦隊と第3艦隊では航空作戦の役割分担がなされていた。


 第11航空艦隊:トラック環礁を攻撃してくる敵機の迎撃と第3艦隊の上空援護


 第3艦隊:敵機動部隊の攻撃(迎撃任務も一部参加)


 現在の第11航空艦隊の零戦の保有機数は280機ほどであり今日の迎撃戦ではほぼ全機が出撃する予定だ。


 現在、トラックの各飛行場の滑走路では零戦が次々と発進しており陸軍の第8飛行士団の鍾馗と隼2型も迎撃戦に参加するため迎撃準備に入っていた。


 零戦や陸軍機が離陸してから約30分後、前方の上空に多数の黒点が現れた。


 トラックを巡る日米の戦いが始まったのだった。






「遂に来たか。米機動部隊」と第22航空戦隊指揮官の東海林実少佐が闘志を剥き出しにしながら呟いた。


(敵艦載機の実力はどうかね、空母部隊の連中からF4Fは比較的与しやすい相手だときいているが・・・)


 これまで、東海林を始めとする第22航空戦隊はもっぱら敵重爆の迎撃任務のみを行っていた。


 しかし、米艦隊のトラック来寇によってアメリカ海軍の空母艦載機と戦う機会が巡ってきたのだ。


 今回の迎撃戦(第1次迎撃戦)では東海林の22航戦の他に24航戦と25航戦も参加し、更にそこに陸軍機も加わるため迎撃隊の総数は200機を超えていた。


 敵重爆が150機以上空襲に現れた時ですら200機以上の迎撃隊が発進したことは無かったのでこの迎撃隊の規模は空前と言えた。


「『義経』より『大阪城』。目標発見、機数約150機。今より攻撃する」


「『義経』より22航戦全機へ、目標視認。敵は空母艦載機(戦爆連合) 初手合わせだから慎重にいけ」といつも通り、東海林は指揮所と22航戦の各機に向かって報告をした。


 前方に向き直った東海林の目に複数の梯団に分かれた敵編隊が映った。


 30機程度の梯団が5隊、高度3500メートルから4500メートルの間に展開している。


 機数は日本軍のほうが50機ほど多いが、初対戦の相手なので油断は出来ない。


(トラックの各飛行場を守り切るために防ぎきら無くてはならない。我が身にかえてでも)という思いが脳裏に巡った時、24航戦の零戦隊が突撃を開始した。


 東海林が率いる22航戦48機の零戦が続いて敵編隊に突っ込み、25航戦もそれに続いた。


 敵編隊の動きに変化が生じた。


 一部の敵機が編隊から分離して、22、24、25航戦の零戦隊に突進した。


 零戦と敵機がほぼ同時に発射炎を燦めかせた。


 日米両軍の戦闘機が早くも数機ずつ被弾し、火災煙を上げた。


 搭乗員を射殺されたF4Fは火を噴くことなく墜落していき、弾倉に射弾が命中した零戦は敵に浴びせるはずだった20ミリ弾に自らを爆砕される。


 双方が数機ずつを失ったときには、日米の戦闘機隊は乱戦に入っていた。


「22航戦第1中隊俺に続け!!」と東海林が膝下7機の零戦に指示をだし、自らの機体を左に急旋回させた。


 第1中隊の8機がF4Fの真っ正面から突っ込みF4Fの編隊とすれ違う。


 双方共に被弾機は無かった。


 零戦とF4Fの相対速度は1000キロを超えるため射撃の機会は一瞬であり、命中弾を得ることは容易ではないのだ。


 東海林は300メートル下方に第1中隊の7機を誘導した。


 前半分が異様に大きく後ろが先細りとなっている機体が視界に入ってきた。


 ダグラスSBD「ドーントレス」。


 開戦以来アメリカ海軍の主力艦爆の地位にあり、昨年のミッドウェー海戦でも「赤城」「加賀」「蒼龍」に1000ポンド爆弾を叩きつけた機体だ。


 日本軍にとっては恨み骨髄の機体であり最も憎むべき機体と言えた。


 ドーントレスの近くにいたF4Fが機体を翻して第1中隊に向かってきた。


 零戦8機とF4F4機がほぼ同時に大量の射弾を放ち交差した。


 今度は、F4F2機が火を噴いて墜ちていくが零戦1機が被弾した。


 F4Fを追い払った第1中隊はドーントレス群を肉薄にし大量の射弾をたたき込んだ。


 ドーントレス3機がひとたまりも無く墜落していき、1機が火を噴いて大幅に減速する。


 ドーントレス群を攻撃した第1中隊の上方からF4Fが3機急降下をかけた。


 ドーントレス群の危機を見たF4Fが救援に駆けつけたのだ。


 東海林機は辛うじて被弾を免れたものの不意を突かれた第1中隊の6番機、7番機が撃墜された。


「畜生!!」と東海林が叫んだ。東海林が率いた中隊はたった今、2機の零戦をいちどきに失ってしまったのだ。


「全機叩き落としてやる!!」と東海林が気合いを入れ直した。


 東海林の雄叫びに答えるかのように零戦の中島「栄」二一型エンジンが力強い咆哮をあげ零戦が加速される。


 東海林機は再び乱戦の戦場へと突っ込んでいった。


 このとき、空中戦の戦場は混沌としていたが着実にトラック環礁に近づいていた。





































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