第13話 新たな力②
1943年2月
1942年10月に生起したラバウル沖海戦が終結した直後、第3艦隊は航空戦力再建と艦隊整備のため内地に帰投していたが、1943年2月、第3艦隊は再びトラック環礁に進出した。
そして、新たな戦力を加えた第3艦隊はその艦隊編成を一新した。
第3艦隊
司令長官 山口多聞中将
参謀長 草鹿龍之介少将
第1航空戦隊「翔鶴」「瑞鶴」「瑞鳳」
第2航空戦隊「飛龍」「龍驤」「龍鳳」
第3航空戦隊「隼鷹」「飛鷹」
第11戦隊「比叡」「霧島」
第7戦隊「熊野」「鈴谷」「最上」
第8戦隊「利根」「筑摩」
第9戦隊「長良」
第10戦隊「阿賀野」「能代」
第4駆逐隊「嵐」「萩風」「野分」「舞風」
第10駆逐隊「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」
第16駆逐隊「初風」「雪風」「天津風」「時津風」
第17駆逐隊「浦風」「磯風」「谷風」「浜風」
第61駆逐隊「秋月」「涼月」「初月」「若月」
追加された艦の中で特筆すべきは2隻の阿賀野型だ。
阿賀野型軽巡
武装
10センチ60口径連装高角砲 6基12門
7.6センチ60口径連装高角砲 2基4門
25ミリ三連装機銃 10基
25ミリ単装機銃 18丁
阿賀野型は対空戦闘に特化した新型軽巡であり、マル4計画で4隻の建造が認められた。(改マル5計画で6隻に変更)
新開発の10センチ60口径連装高角砲が6基12門搭載され、空母の直衛艦として大きな期待を懸けられている艦だ。
「米機動部隊の動向はどうだ? 参謀長」
「現在、米正規空母はハワイに3隻、米本土西海岸に1隻乃至2隻、大西洋に1隻の存在が確認されています。ちなみに大西洋で活動している米空母は旧式の『レンジャー』だということが分かっています。」
「そして、去年の年末から随時竣工し始めた艦隊型の軽巡改装の軽空母も3隻乃至4隻が存在していることが分かっています。」
第3艦隊司令長官山口多聞中将の質問に参謀長の草鹿龍之介少将が答えた。
「米正規空母は珊瑚海で1隻、ミッドウェーで2隻を撃沈して、直近のラバウル沖海戦でも1隻を撃破したはずだ。」
「開戦前の米国の空母保有状況を鑑みると現在の米軍の稼働空母は3隻、多くても4隻ではないのか。数が合わなくないか?」
「軍令部第5課(情報担当)から上がってきた情報によると、米国はヨークタウン級を拡大発展させた新型正規空母を量産中であり、そのペースは1ヶ月半~2ヶ月に1隻のペースらしいです」
草鹿からの報告を聞いて、(おいおい、日本海軍は「飛龍」を簡素化した戦時急増型の空母や、それよりも小さい小型空母の生産ですら思うに任せないのに米国は100機は軽く搭載出来そうな大型正規空母を2ヶ月に1隻のペースで竣工させてんのかよ。ヤバいな)と山口は心の中で思った。
しかし、指揮官がそんなことを口に出したら艦隊の士気が下がってしまうことは明白なので口には出さなかった。
山口は話題を切り替えた。
「航空部隊の訓練状況はどうかね? 航空参謀」
「連日トラックの基地航空隊と合同で猛訓練を行ってはいますが、ラバウル沖海戦で少なくない熟練搭乗員が戦死し、必然的に新人の割合が増えたので点数をつけるとしたら、ようやく60点という所でしょう。」
「しかし、海上護衛総隊が頑張っているおかげで、トラック環礁の燃料の備蓄量が増加してきているのでまだまだ練度の上昇は見込めます。」
「新型零戦の慣熟訓練は進んでいるか?」
「内地で受領した新型零戦の32型甲への機種改変は順調に進んでいます。」
第3艦隊は内地を出発する直前に新型零戦の32型甲を受領したが、正式採用されてまだ日が浅く生産機数が少ないため、現在「翔鶴」「瑞鶴」「飛龍」の3空母にのみ搭載されていた。
零式艦上戦闘機 32型甲
最大速度 561km/時
兵装 20ミリ機銃×2 13ミリ機銃×2
1943年に入り、米軍の新型戦闘機の出現が予想され、これまで無敵とも呼べる強さを誇ってきた零戦も苦戦必至となる。
だが、待望の日本軍の新型戦闘機の開発が完了するまで、今しばらくの時間を要するため、本機を始めとした零戦の改良型がこれからの戦線を支えていかなければならない。そのため、本機には並々ならぬ期待が懸けられていた。
(しかし、よく新型零戦の配備が今回の出港に間に合ったものだ。軍令部の井上には感謝しなくてはな)と山口は江田島の後輩に心から感謝した。
同じ頃、米国本土西海岸で訓練を行っていたエセックス級空母1番艦「エセックス」の長大な飛行甲板に、米海軍の新しい戦力が次々に着陸していた。
F6F「ヘルキャット」
現在米海軍の主力戦闘機であるF4F「ワイルドキャット」の後継機だ。
開戦以来の様々な戦訓を取り入れて開発された本機は2000馬力級の大馬力エンジンを搭載し、時速は600キロ/時を軽く超えている。
次の海戦で零戦32型甲とF6F「ヘルキャット」が激突することは必至だった。
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