第12話 新たな力①

1943年1月10日


 佐世保海軍工廠の大型ドックに入渠していた空母「赤城」、戦艦「山城」は大きく様変わりしつつあった。


 特に「山城」の艦容の変化は顕著だ。


 現在「山城」は主砲や艦橋などの上層構造物を取り外す作業が行われており、「赤城」は既に飛行甲板を従来に木張りの物から、60ミリのCNC甲板に張り替える作業が始まっていた。


 2艦は飛行甲板の装甲化と並行して対空兵装も大幅に強化することになっており、高角砲は最新式の65口径10センチ連装高角砲が各艦6基12門搭載され、25ミリ三連装機銃、単装機銃も多数が装備される予定だ。


 更に、艦橋は日本空母としては初めて煙突と一体化した巨大なものとなる予定であり、電探も最新式の空2号電探が取り付けられる事も決まっている。


「赤城」は1943年の9月、「山城」は同年12月に改装工事が完了する予定である。


 両艦とも搭載機数は約60機と翔鶴型よりも少ないが、1944年以降の日本海軍機動部隊の中核を担っていくことが確実視されている。


 1944年になると、米海軍は多数の正規空母、小型空母を竣工させている事が予想され、それに対抗するためにも一日でも早い両艦の戦力化が望まれていた。


「それにしても、『山城』が準装甲空母になってしまう日がくるとはな、あの不細工な艦橋が懐かしいわ」と佐世保鎮守府長官の東司中将が言った。


 東は海軍大佐の時に戦艦「榛名」や戦艦「山城」の艦長を務めた経験を持っており、時代の変化に少しだけ寂しい思いを持っていた。


「時代の流れという物でしょう。 大艦巨砲主義から航空主兵への転換ですね」

「昨年、110号艦と111号艦の建造中止も決定しましたし、この流れが変わるようなことはないでしょう」

と東の言葉に副官の庭田正三少将が頷いた。


「今年の後半以降、ここの工廠だけでは無く、他の工廠でも戦時急増型の正規空母や防空巡洋艦が多数竣工する。1944年には米艦隊を十分に打ちのめすことができるな」


「来年まで大海戦が起こらないという保証は何処にもありませんし、艦の建艦スピードは日本よりもアメリカのほうが遙かに早いですよ」と東の楽観主義に対して庭田が注意喚起をした。


「確かに副官の言う通りだな。 だが、そう考えるとこの戦争の雲行きはますます怪しくないか?」


「政府の上層部が何を考えているかは分かりませんが、このままいくのは確かに不味いかもしれません」と庭田が東の質問に答えた。


 正直、庭田は日本がアメリカに勝てるとは思っていなかったが、海軍将官がそのようなことを口が裂けてもいうことは出来ないので表現を弱めたのだ。


「ただ、この戦争が起こったことによって臣民が逼迫していることは間違いありません」と庭田は一番気になっていたことについて言及した。


 現在、国内に入ってくる資源の大半は軍需向けに配当されており、民需は極度に圧迫されている。内地に住んでいる民衆は碌に衣服もそろえることが出来ない有様であり庭田はこの現状に対して非常に憂慮していたのだ。


「海上護衛総隊が最近かなり活躍しているから民需も上向いてきているのではないかね? 現にこの工廠に配分される資源の量も増えてきている。」


「自分の友人に海上護衛総隊の者がいたので、この前いろいろと海上護衛総隊が運んでくる物資について聞いてみたのですが、やはり軍需向けが大半のようです」


「折角南方まではるばる行くなら砂糖やバナナのような甘い物をしこたま運んでくれば良いものの。 若者たちがいくら愛国心にあふれているからと言っていつまでも褒美なしではきついだろうに」


 東と庭田がこのような会話を交わしていると、突如、地を揺るがすほどの大爆発が聞こえてきた。


「何事だ!!」と東が怒鳴った直後、一人の佐官が息を切らして東と庭田のもとに近づいてきた。


「長官、副官、大変です! 佐世保工廠第4ドックにて戦艦『陸奥』が大爆発を起こした模様です!!」


「何だと!!」


「取りあえず、この爆発によってどれくらい死傷者が出たのかと、『陸奥』の現在の状態を正確に報告しろ 急げ!」

と東が指示を出した。


 2時間後、東と庭田の元に以下のような報告が上げられた。


本日14時頃、戦艦「陸奥」大爆発


爆発原因不明


死者16名、負傷者74名


「陸奥」の第3、第4主砲全壊、高角砲3基爆砕


「取りあえずこの事を軍令部と海軍省に報告しろ。あと、「陸奥」の復旧にどれくらい掛かるかの調査を最優先で進めてくれ」


「分かりました」


 東の指示を庭田が即座に請け負った。


 これから更に忙しくなりそうだった。







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