第3話 建艦計画
1942年7月5日
艦政本部で今後の建艦計画と新装備に関する説明が行われていた。
「では、艦政本部のほうから改マル5計画、航空本部のほうから電探などの新装備に関する説明をお願いします。」とこの会議の進行役を努める海軍省次官長沼利明中将が言った。
「110号艦、111号艦は建造中止。110号艦の出渠予定日は9月15日とする、111号艦は解体して他艦に資材を流用する。」と艦政本部長の岩村清一中将が言った。
「110号艦についてはかなり勿体ないですが、いたしかたがない処置ですな。」と連合艦隊司令部から出向してきていた清藤歩中佐が言った。
110号艦、111号艦は昭和14年に計画されたマル4計画で建造が承認された艦で、大和型戦艦の3番艦、4番艦に当たる。順調に工事が進めば、前者は昭和19年の春頃、後者は昭和20年の夏頃に「大和」「武蔵」と共にその巨体を大洋に浮かべて居るはずだった。
しかし、戦況が圧迫しているこの現状で6万トンを遙かに超える巨艦を何年もかけて建造する余裕はないという意見で艦政本部は一致したのだ。
110号艦については、開戦時点で舷側の装甲は設置が完了しており、下甲板の工事も終わっていたため、建造を続けるべきだという意見も多数に上ったが、最終的にはこのような結論に至った。
「130号艦についてはどうなりましたか?」と航空本部長の片桐英一中将が岩村に聞いた。
「この度、110号艦、111号艦の建造中止を含めた改マル5計画を策定したのでご覧ください。」と岩村が言った。
改マル5計画
・戦艦 110号艦、111号艦 建造中止
・超甲型巡洋艦 6隻 建造中止
・改飛龍型航空母艦 6隻 建造予定
・阿賀野型防空巡洋艦 4隻 建造予定
・駆逐艦甲型(改夕雲型)全艦建造中止
・駆逐艦乙型(秋月型) 12隻 建造予定
・護衛駆逐艦(松型) 56隻 建造予定
・近海用潜水艦(丸型) 32隻 建造予定
・その他 海防艦(鯱型)、駆潜艇 各88隻 建造予定
補足
①改飛龍型航空母艦はこれまでの有力候補であった艦政本部案を退けて、航空 本部案を正式採用する。
②マル4計画で建造が承認されて、現在建艦中の130号艦(大鳳)、136号艦(大淀)、137号艦(仁淀)については、大幅な建造予定の前倒しを図る。
③防空巡洋艦の建造と並行して、既存の巡洋艦の防空巡洋艦への改装も行う。
*改装対象の巡洋艦は青葉型4隻
④これらの艦の建造と並行して、戦時標準船(輸送艦)の建造も推し進める。
*戦時標準船の建造目標は年200隻
「まさしく、今次大戦で主力を担っている航空兵力を増強するための戦備計画ですね」と清藤が少し興奮しながら言った。
「艦政本部が、ミッドウェー海戦の戦訓も取り入れて今回の戦備計画を立案してくれたので、連合艦隊司令部としてもありがたい限りです。」と清藤が続けて言った。
「何かこの計画についての質問はありますか?」と岩村が言った。
次の瞬間、「質問あり!」「お伺いしたい!」と言った声が会場の何カ所からか聞こえてきた。
岩村が「どうぞ」と一番手前の佐官を指さした。
「軍令部課長の早倉だ。この計画表には、1ヶ月前のミッドウェー海戦で大破以上の損害を被った『赤城』『扶桑』『山城』の3艦の処遇について全く触れられていないのだが、この3艦の処遇についてお伺いしたい」と佐官が言った。
「まず、一番被害がひどかった『扶桑』については、連合艦隊からの要望により、連合艦隊旗艦の任に堪えられるように改装を施します(主に通信系統の装備を強化)。そして『赤城』『山城』に関しては準装甲空母への改装を予定しています。」と岩村が答えた。
「『赤城』はともかく『山城』の空母化には時間が掛かりすぎるのではないのですか?」と早倉が質問を重ねた。
「『山城』に関しては空母改装案の他に防空戦艦案なども存在しましたが、空母の数がこれからの戦いで必要になっていくことは明白なので、艦政本部では多少時間が掛かっても『山城』を空母化した方が良いという結論に達しました。」と岩村が言った。
この質問のあと、さらに何個かの質問があり、その質問に対する回答が終わり、話は電探などの新装備に関する話題へと移っていった。
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