第五話 蒼次郞と日華の共通点、あるいは恋バナ
村にやってきて四日目。
信者の入れ替わりが激しいのだろうか?
全国区の新興宗教だというし、あちこち手広くやっていて人員が足りないのかもしれない。
「
本日のノルマを終えたところで、
相棒に視線をやると、
「こちらはまだ仕事が残っています。行ってきなさい」
と、送り出されてしまう。
仕方なく、
村はずれまで歩くと、
どうやら彼が、あれこれと秘密に使っている場所らしかった。
中に入ると、ぬるい麦茶を出される。
ありがたく貰っていると、蒼次郞さんが口を開いた。
「
なんとも
「なんであたしに聞くの?」
「おまえが言い出したんだろう。おれとおまえは、似てるって」
「あー」
なるほど、
だったら、こっちも腹をくくるべきだろう。
「なら、おれも腹を割って話す。教団のやつと辰美の話は出来ない。村の連中に聞かせれば弱みになる。だから、消去法でおまえしかいなかっただけだ」
「消去法でも光栄だね」
しかし、辰美さんに惚れた、か。
「どのくらい踏み込んでいいの?」
「逆に、おまえはどこまで解っている?」
解っているかと問われれば、正直なにも解ってない。
でも。
「なんで〝雨の恵み〟は、辰美さんに雨乞いをさせてるのか、それは疑問だったりする」
「……教団は……いや、
「蒼次郞さんのママ?」
「
「それは、親の七光りで、自分の力じゃなかった?」
「ああ、そうだ。
「うん。恋は盲目だからね」
「……話を戻すぞ。教祖様が
え?
それは、なんかおかしくない?
だって〝雨の恵み〟は。
「そうだ、百パーセント雨を降らせる宗教団体。それが〝雨の恵み〟教団だ。だからなおさら、
彼の言葉で、疑念だったことがストンと
雨雲だ。
辰美さんが舞を踊るようになって、突然
つまり。
「彼女には
「察しがよくて助かるぜ」
つまり、教団の
一番上――教祖自身が、話に一枚かんでいるからだ。
「……じつはな、こんな風なのは初めてじゃない」
「初恋じゃなかったってこと?」
「違う。やめろ、人をまた、うぶなやつみたいに言うな。……おれの思い通りにならないことがだ」
それは。
「人生はそういうものだってか? まあ、それはそうだ。だが、教団なんて閉鎖空間にいると、
彼は言う。
閉じた権力構造を持つ宗教団体という場所にいると、自分のやりたいことというのが、見えにくくなる。
なぜなら、教義というものが最優先になるからだ。
それは、社会でも同じだ。
お金を稼ぐこと、地位を得ること、目先のことに終始する必要に駆られて、だんだんとなにがやりたいことなのか解らなくなる。
「かわりに、やるべきことを押しつけられる」
「……経験者かよ」
「すこしは知ってるだけだよ」
でも、だからこそ言える。
あたしだから、教えられる。
「〝やりたいこと〟と〝やるべきこと〟が重なるとき、ひとは世界の中心に立つ」
「どういう意味だ、それは?」
「誰だって必要なとき、主人公になるって意味だよ」
「…………」
だから、惚れたというなら、それでいいんだと思う。
周りがどうこうというのはあるし。
許されない恋路というのだって、当然あるけど。
「それでも、してあげたいことをしてあげればいい。一緒にやりたいことを、すればいいんだよ」
「……おまえ」
なにさ。
「意外と話せるな。それに、むやみに
「じょーだん」
「ああ、そうだろうな……いや、有り難く
うん、それがいいと思う。
あたしは、そんな風に彼へと告げて、麦茶を飲み干した。
§§
翌日から、蒼次郞さんと辰美さんが一緒にいるところを、よく見かけるようになった。
「あれはデキてますね。恋愛経験豊富な私が言うのですから間違いありません」
「藍奈、経験人数は」
「黙秘します」
などとヴァージン巫女と軽口を叩くぐらいには、二人の様子は
常にふたりを監視するように、信者さんたちが周囲を取り巻いていたけれど、彼らは一向に気にしている様子はなかった。
噂だが、蒼次郞さんは女遊びを、すべてやめてしまったらしく、その本気が見て取れた。
あたしたちが休憩していると、ふたりがやってきた。
つかず離れずの距離で、お互いがあることが当たり前みたいな顔をしていた。
ふふーん、いいじゃんか。
「架城さん、元気でしごとやってるか?」
「そういう蒼次郞さんこそ、元気そうで」
「おれか? おれは……ははは。それより、辰美が話があるって言うんだ」
辰美さんが?
見ると、
たっぷりと間を取ってから口を開いた。
「蒼次郞と
「――ぶっ」
蒼次郞さんが吹き出した。
珍しく藍奈が、食いついたように身を乗り出した。
「む? いや、勘違いするではない。この人の子は、
なんともプラトニックな関係だ。
それで、世の中が変わったというのは?
「うむ。かねてより、この地は竜が治めてきた。豊かな水源を
彼女は言う。
ゆえに、もはや竜の
「水害も、
「おいおい。竜なんて、お
蒼次郞さんが、おかしそうに笑う。
辰美さんもつられたように微笑んで。
「ああ、お伽噺であるべきなのだ、このようなものは」
と、さびしそうに言った。
「だからこそ。
「あれ?」
「ああ、あの過剰な
供物。
「……辰美。その、供物ってのはなんだ? おれにはさっぱり――」
彼がそこまで言いかけたときだった。
鼓膜が壊れそうなほどの爆発音が響いた。
全員が、ハッと村の方を見る。
燃えていた、赤く染まっていた。
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