第六話 目覚める竜の逆鱗
何度も何度も、爆発音が響く。
あたしたちが
あちらこちらに黒服の男たちの姿が見とれて、それが
ただ、奇妙なこともあった。
お得意の
彼らはむしろ、火の手に追われる村人たちを逃がして回っていたのだ。
「おーう、架城日華じゃねーか! やっとみつけたぜ」
彼女はあたしを
どうやら、子どもを助けていたらしい。
「
「あン? 見て
「ちゃんと説明して」
「……周りをよく見てみやがれ。逃げてるのは誰で、
火の手から逃げ回っているのは、村人たち。
それを導いているのは、黒スーツ。
そして、火炎瓶を投げて回っているのは――
「うそ、だろ……」
村の人たちを襲っているのは――
〝雨の恵み〟の、信者たちだった。
§§
「母さん――教祖様が
蒼次郞さんは、携帯であちこちと連絡を取り、そう結論づけた。
「なんてことだ……」
あたまを抱える蒼次郞さん。
その側に寄りそう辰美さん。
「なんだか知らねぇが、
「テメェらもさっさと逃げちまえ。ろくなもんじゃねーぞ、ここは」
と、姐さんは言い捨てていった。
「ともかく、原因を探るしかない。近衛たちはおれの言うことなんか聞かない。どこかに教祖様がいるはずだ。それを見つけだして、直接問い詰める」
立ち上がった蒼次郞さんは決意を
しかし、探すといってもこの一帯は広大だ。
村はこの有様だし。
滝壺には、いなかったみたいだし……
そんな風に迷っていると。
藍奈が、ピクリと身体をふるわせた。
そうして、すさまじい勢いで背後を振り向く。
「なにものですか!」
鋭い
炎の影から、数人の人物が姿を現した。
中心に立っていた人物が、
白装束に糸のように細められた眼。
張り付いた笑顔。
〝雨の恵み〟教団教祖――
「
「はぁい。わたくしが井森ですよー。それではみなさん、単刀直入に申し上げますね」
彼女は。
彼女の取り巻きたちは、懐から拳銃を取り出し、こちらへと突きつけながら、
「あなたがた全員、
§§
判断は。
全員が、早かった。
藍奈が辰美さんの手を引いて走り出す。
あたしと蒼次郞さんは、銃口が狙いを
倒壊寸前だった建物が、一気に教祖たちへと向かって
「――逃がすな! とくにあの、黄金眼の娘は確実に〝
余裕をかなぐり捨てた教祖の
無数の銃声が響く中、あたしと蒼次郞さんは身をひるがえす。
「よかったの?」
「親離れは子のつとめだろう?」
「違いない!」
ともかく、隠れる場所が必要だ。
すぐに藍奈たちに追いついたあたしたちは、
あちらにも信者たちいるだろうが、森や
走って。
走って。
走って。
とにかく森へ逃げ込めと走り続けて。
「っ」
あたしは、慌てて足を止めた。
目前に広がっているのは、弱々しく流れる
ここは――滝の真上だったのだ。
「
「いや、おまえたちは地理に
「だったら引き返すしか――え?」
きびすを返そうとしたあたしの背中を。
誰かが。
突き落とした。
「ニッカポッカ!」
藍奈の悲鳴じみた
あたしは、滝壺へと
最後に視界に入ったのは。
辰美さんを
「最悪だ」
あたしは。
そのまま頭から、落水した。
§§
沈んでいく。
沈んでいく。
どこまでも、深き、
口の
けれど身体は、どこまでも沈む。
水が重い。
だから、あたしは
〝青〟。
滝壺は、地の底まで続くがごとく深かった。
もっと深く、暗い場所に、巨大な
〝竜〟。
死んだように動かない、
よく見れば首元、逆さになった
そうか、これが封印なのかと、
竜の周囲には、いくつもの死体が
そのどれもが、教団の白装束をまとっている。
死者の
生け贄の、群。
〝雨の恵み〟がなにをしてきたのか、理解しようと
口元からゴポリと、生きる
光に向かって、
死ぬのか。
こんなところで?
やるべきことも。
やりたいことも。
まだ、なにも
――嫌だなぁ。
手を、光へと伸ばさせた。
ガシリと、なにかが手を
それは、すごい強さで
水面が割れる。
身体が大気の中に飛び出す。
肺が、酸素を
「げほっ、ごほっ!!」
「ニッカポッカ! 生きていますかニッカポッカ!?」
耳元で叫ぶのは、なじみ深い声だった。
砥上藍奈。
相棒の巫女が、あたしを支えながら、
「なん、で」
「悪しき! なんでもへちまもありますか! こんなところでは、お互い死ねないでしょう?」
「……それは、そう」
弱々しく頷きながら、あたしも泳ぎ出す。
二人してひーこら言いながら上陸し、一命を取り留めた
荒い息のなか相方を見やれば、彼女もこちらを見詰めていた。
「生き抜きますよ」
「
手を取り合って立ち上がる。
脳みそは既に、生きるための
とかく、姐さんと合流すれば活路が開けるだろうか?
そもそも、教団の狙いはなんだ?
なぜ村を荒らし、この滝壺に生け贄を投げ込んだ?
「
藍奈の言葉にかぶりを振る。
巫女は上唇をペロリとなめて。
「澪標は、
「――――」
「いいですか、ニッカポッカ。雨乞いにも、パターンがあります。大きく分けて二つ。ひとつは、
「それは、ずっと簡単なことですわ。そう――竜が
なにものかが大声を張り上げた。
心当たりなど、ひとつしかなかった。
見上げる。
滝上で、教祖が。
井森大明神が、蒼次郞さんと辰美さんを近衛の部下に
彼女の手には、一振りの日本刀が――殺竜丸が握られていて。
「だから! 封印を解くのです……!! 目覚めよ、
彼女は。
そいつは。
滝壺が爆発した。
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