第二章 〝くねくね〟人形供養
第一話 一日一体、人形を祭壇でお焚き上げ
赤々と
村の中央、広場に積み上げられた
船の形をした祭壇が、炎の海へ沈んでいく。
遠巻きに祭壇を
『ぽーたらか、ぽーたらか――いきてくまののみさきにいたりて、ついにとこよのくににいでましぬ――ぽーたらか、ぽーたらか――』
「昨日は女人形でしたか。どちらも私の
などと、一丁前の
こいつは、種類とかゼンゼン知らないのに、解ったような口を利くのがめちゃくちゃうまいのだ。わかるのは
「はぁ、
「なんだよぉ」
「ああいうものは、
「…………」
意地汚い
「悪しき。おきれいに
「それはそう。こんだけ。返さなきゃいけないからね」
ぴしりと指を一本立ててみせれば、我が意を得たりと
結局のところ、あたしも同じ穴の
「
そうやって中身のない会話をしていると、背後から声をかけられた。
「
あたしたちの泊まるところや、ご飯の用意までしてくれている
ずいぶんと痩せこけているのに、背筋は糸で吊ったようピンとしており、まるでお坊さんのような印象を受ける。
「ほら、もう燃え尽きますよ」
彼が指さした先を見ると、確かに祭壇が燃え落ちるところだった。
「ん」
炎の中に消え行く人形が、
けれど。
「お疲れ様です。今日の仕事は終わりです。夕飯までは、ゆっくりしていってください」
綾釣さんから
§§
限界集落の
それが今回のバイト内容だった。
「まあ、それはいいんだけどさ。なんで藍奈とセットでこき使われるんだろう? あたし、藍奈以外に心霊バイトやってるひと知らないんだけど……」
「それは不平不満ですか。それとも純粋な疑問ですか。前者ならおまえ、今度寿司を
「ペナルティーの主導権が藍奈にあるのおかしいと思うなー! 寿司なんて回る方ですら五年は食べてない」
いつぞや、最高のパートナーなどと勢いで口走ったことを後悔しつつ。
夕飯まで、とくにやることもないあたしたちは、
すでにこの村にやってきて、四日ほどが
「田舎の臭いというのは、慣れないものですね」
「独特なものがあるよね。肥料の臭いだったり、家畜の臭いだったり、あとは……ほら、畑の近くには肥だめもあるし」
「
相も変わらず感情が読めない顔で、ゆろゆると首を振る藍奈。
焼き畑ね。
「そういえば、人形を毎日一体ずつしか焼かないけど、なんか理由があると思う?」
「儀式としては珍しくもないでしょう。定められた期間は続ける、それだけでは?」
「……じゃあ、あとどのくらい、あたしらはこの村に
「…………」
黙りこくる藍奈。
それもそのはずで、今回のバイト、期限が切られていない。
雇用主である綾釣さんは「
「給料は日数分出す、だったよね」
「一日あたり六十万ですよ。この
「地域振興費とかじゃないの?」
「おまえは本当にアンポンタンですね。この村に、村おこしをするほどのものがありますか?」
ずいぶん失礼な物言いだったが、
人形のお焚き上げが観光の目玉――なんて有り得ないだろう
なにせ、そんな
「もっとも、見るべきもの自体はありますよ。たとえば」
藍奈が、前方を指さした。
村の入り口にある、赤い
「この村には
「興味がある?」
「巫女なので」
「パチモンじゃん」
「巫女に資格など要らないので! 姉上ですら神社には所属していなかったので!」
「他にもあります。たとえば、村の周囲の
「そうかな」
あたしは、道ばたに生えていた草を茎ごとちぎって、口に入れる。
シャキッという歯ごたえと、それなりの酸味が広がった。
「
「……無駄に詳しいですね、おまえ」
「食べられる草とヤバい草だけは解る。いまなら見れば〝青い〟からよりわかりやすい」
「青い……そういえば〝ひとりばこ〟の一件からこっち、おまえは、やたらとものを色に例えますね? まるで姉上のようです」
「藍奈のお姉さんも、そうだったの?」
厳密には違いますが……と、なんだか弱々しく言葉を濁して。
彼女はあたしの左目をじっと見る。
「虹色では、ありました」
「ふーん……食べる?」
「いりません」
酸葉を差し出すと、藍奈は無表情で押し返してきた。
そうして、ペロリと上唇を舐める。
「さて、話の腰を折られましたが、おまえの言うことも解ります。たとえば……四方にある山は、どれも中腹から大岩が突き出しているでしょう? 立派な
神奈備とは?
「巨石などを神の
「あー、なるほどー」
「しかし、これには違和感があります。
「人工物?」
まさかこの巫女、山の上に誰かが岩を運んだなどというつもりだろうか。
だとしたら、いくらなんでも
妄言である。
「悪しき。おまえの想像力が貧困なのがいけないのです。
彼女がまたぞろ、くどくどしい
そのときだった。
「――っ」
急に、左目が強く痛んだ。
ひとりばこの一件で、あたしの全身は健康体になっていた。
だが、この目――
そうして、そういうときは決まって。
「藍奈」
あたしは小さくうなり、
ありもしない太陽が西に沈むとき、村の四方にある大岩が〝赤く〟輝いていた。
そうして、大岩の根元ではくねくねと、くねくねと、ナニカが――遠すぎて
「……ニッカポッカ。どうやら今回も、それなりの
危機感地能力だけは異様に高い藍奈が。
何故かこのとき――悪しきとは言わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます