第六話 さらばパチモン巫女、また会う日まで!
「――最っ悪だっ!」
寝覚めの悪い夢を見て跳ね起きた。
なんか悪魔の毒毒血みどろ地獄ツアーみたいな夢だったはずなのだけど、
「というか……あれ?」
なにか、奇妙な違和感。
どこか
ここは、ひょっとして……
「おー、目ぇ覚ましたか。悪運がつえーなぁ、おまえはよぉー」
正面のソファに、女性が大きく足を開いて腰掛けていた。
彼女はニヤニヤと笑みを浮かべ、愉快そうに手を叩いてみせる。
気のない拍手だった。
「
「
頭の先からつま先まで、悪趣味な黄色いスーツで着飾った、
友好的な態度程度では
つまり、ここは。
「春原組の事務所?」
「ご
「え?」
その言葉で、あたしはようやく違和感の正体に気がついた。
視野が、広いのだ。
反射的に左手を顔の横に持ってくる。
……見える。
「目が、治ってる?」
「目だけじゃねーよ。闇医者に
「健康……」
「あと、虹になったな。
「は?」
意味がわからないと首をかしげれば、姐さんはこじゃれたコンパクトを差し出してくれる。
見れば、あたしの左目が虹色になっていた。
なんで!?
「これじゃあ売りもんにならねぇなぁー」
「…………」
思い当たる節は……ある。
夢の中で見た、あの〝うつくしい〟色彩が、確か虹色で。
「太陽に
姐さんが、突然そんなことを口にした。
架城日華という名前と。
虹色の瞳で。
〝
「どうだ、学があるだろう、アタシは?」
「…………」
「
「…………」
呆然とする。
なぜ、こんなことになっているのか、記憶をたどる。
あたしは確か、拳銃で撃たれて、そして。
そして――
「藍奈は!?」
「あン?」
「仕事仲間だった巫女は、彼女はいったいっ」
「……さぁね」
心霊バイトについては、オーナーとの取り決めで口出し無用だからと、彼女は肩をすくめてみせた。
「そっか……」
姐さんは口をへの字に曲げて。
「まあ、生きてはいるんじゃねーか」
気休めのように、そう言ってくれた。
しばしの沈黙。
「そんなツラすんなって。ほらよ。これはおまえさんの取り分だ」
投げつけられたのは、やけに分厚い
「
「ドーモ……」
「はン」
とても中を確認する気になれず封筒を
そうして姐さんは、あたしから興味を無くしたらしく、テレビのスイッチを入れる。
昼時だったのか、ニュース番組が流れはじめた。
あたしは、無気力に画面を
――
『――
画面に映る都市の、その中央に
それは、
あの――〝ひとりばこ〟で。
……きっと、あたしだけが知覚できていた。
変わってしまったこの目だから解った。
肥大しきった箱の中に――みっしりと、人間が隙間無く詰まっていることを。
「マジ最悪だな……」
「おい。おい寝るんじゃねぇ。次の仕事が待ってんだぞ、
あたしは、どうしようもない
§§
結局、藍奈がどうなったのかは解らなかった。
彼女の安否とは別に、生き延びてしまった以上、あたしは借金は返済しなくてはならない。
だから危険なバイトを続けていた。
そうして、
「おやぁ、以前もいらっしゃいましたねぇ。リピーターは珍しいんですよぉ」
受付の中年男性が、
また書類を作成していると、彼は小さな紙片を押しつけてきた。
『命を無駄にするな 次はない』
顔を上げれば、やはりニコニコと彼は笑っていた。
「こちらの住所を
言われるがまま、指定された喫茶店へと向かう。
「はぁ」
ため息とともに、太陽のない空を見上げ、物思いにふける。
いまだ山ほどある借金の、返済めどはついていない。
また臓器を売ればいいかと考えていたら、姐さんには怒鳴りつけられた。理不尽だった。
でっかく稼げる心霊バイトは悪くない。
けれど、同時に恐ろしくもあった。
巫女は
心が死にかけていた頃ならなんと思わなかったのに、あの巫女とほんの数時間旅をして、あたしはすっかり己の在り方を取り戻してしまっていた。
胸を張って生きていたい。
やりたいことを、完遂したい。
このバイトは、それを許してくれるだろうか?
「……ん」
いくつかの
喫茶〝人間椅子〟。
店名の奇抜さとは大違いな、アンティーク
ウェルカムベルが、
「――
目を
驚いた。
びっくりした。
だって、だってそこには――
「……ひとつ、謝らなければならないことがあります。回復してすぐに
相変わらずの
激安量販店で売っていそうな、安っぽいサテン地の巫女服を身につけて。
無表情にこちらを見詰めてくる
それでもどこかうれしそうに、こう言った。
「それにしても
「
あたしは、気がつけば彼女の手を取っていた。
ゆっくりと、巫女もまた握り返してくれる。
なにがあったのかなんて、どうでもよかった。
ただ、彼女を助けられたのだという事実が、あたしに生きる
今日を生きる意味をくれた。
「感動の対面ですからね、
パチモンじみた格好の巫女が、告げる。
「さっそく心霊バイトの時間と
「問題ないね。だってあたしと藍奈は、最っ高のパートナーだから!」
「悪しき、そのような事実はありません。ああ、いや」
彼女は、そっと
「
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