第6話 居眠りのはずが……

「そっかー。それで心優ちゃんたちは付き合い始めたんだ」

「そうなの」

「改めて聞くとなんだか恥ずかしいな」


 3人でカフェオレやキャラメルマキアートを飲んで、俺たちがどうやっていつから付き合い始めたのかを話していると、外はすでに雨が上がっていた。


「お! 雨が上がってる」

「ほんとだ。これで帰れる」

「そっか。二人はそろって傘持ってきてなかったのか」

「そうなの」


 結局学校のカフェで2時間近く珈琲を飲んで姫嶋先輩と話していたら、さっきまで土砂降りだった雨が嘘かのように晴れている。

 雨がやんでよかった。あのまま雨がやまなかったら時間的に今の時間が限界だから、心優と二人そろってびしょ濡れになって家に帰らなくてはいけなかった。

 飲み終えたコーヒーカップと姫嶋先輩がおごってくれたシフォンケーキのお皿を返却口に持って行って、生徒玄関から駅に向かって学校から駅に続く坂を歩いていく。


「奏先輩は今日の夕飯は何にするんですか?」

「ん~。わかんない。買い物に行かないといけないからな。——二人は何にするの?」

「今日はミートドリアにしようかなって思ってる」

「お! ミートドリアか」

「そうだよ。一樹好きでしょ。私が作るミートドリア」

「好き。美味しいから」


 中学の時、心優の家でミートドリアを作ってくれることがあって、そのミートドリアがとっても美味しくて心優が作るミートドリアが好きになった。


「私も今日ドリアにしようっと」


 学校の最寄り駅から横浜駅まで乗って、横浜駅から別れて家に帰る俺たちとスーパーに寄って買い物をする姫嶋先輩に分かれて各自家に帰る。

 家に帰って寝室で制服から部屋着に着替える。

 家に帰って時計を見ると、もう夜の19時になっていた。


「すぐにご飯にするね」

「手伝うよ。もうこんな時間だから」

「ありがとう。じゃあ、スープを作ってくれる?」

「了解」


 二人で朝のように台所に立って料理をして、夕飯の準備をする。

 夕飯に二人で台所に立って料理をするのは凄く久しぶり。朝は一緒に朝食を作って朝ご飯を食べているけど、夕飯は心優に夕飯を任せている。

 と言うのも、同棲を始めた最初の夕飯の時は夕飯を「一緒に作るよ」と言ったら「夕飯は私に任せて」と言ったから夕飯は心優に任せることにした。

 準備に時間がかかる料理の時は準備を手伝っている。でも、今日の夕飯自体は工程がそんなにあるわけではないけど、さすがに時間が遅いから一緒にご飯を作る。

 一緒にご飯を作って、心優お手製のミートドリアを食べるころには時間が20時を回っていた。


「学校で私たちが付き合い始めた時の話をしたでしょ」

「したね。恥ずかしかったけど」

「話してて思ったけど、一樹って中学の時と違ってかなり周りの人と接するようになったな~って思って」

「確かにね。あの時は人と関わろうとしなかったから」

「ね~。でも、それを考えると進歩だと思うよ。多分私は中学の時の一樹のことはよく知ってると思うよ」


 たしかにそうかもしれない。

 実際、中学生時代まともに話したのは心優が最初で最後だった。

 だから中学で長い間話した人は心優だけ。

 光一と話してはいたけど、正直ここまで話したのは心優だけ。光一とファミレスに行くことはあったけど、家に遊びに来たのは心優だけ。


「俺もそう思う」

「私のことも一番知っているのも多分一樹だと思うよ」

「そんなことはないと思うけどな。今の心優だったらそうだと思うけど、中学生の心優は俺より知ってる人はいると思う」


 中学の2年から付き合っていると言っても話しているのは帰りと家で一緒にご飯を食べているときぐらいだから、常に学校で常に話している人たちの方が心優のことは詳しいと思う。


「それはない」

「なんで?」

「だって中学の友達は本当の私を知らないし、私が本を好きなのは一樹しか知らないよ」

「そうなの⁉」

「そうだよ。だから私のことをよく知っているのは一樹だけ」

「それを聞くとなんだか嬉しいな」

「なんで?」

「だって私の本当の姿を知っているのが一樹だけって思うと嬉しくて」


 実は俺も口に出さないけど、正直本当の俺のことを知っているのが心優だけって考えると嬉しい。

 元々俺は俺のことを他人に話すことはしない人で、ここまで自分のことを公にしているのは心優に対してだけ。

 夕飯を食べ、台所の片づけをして日課である紅茶を飲みながらソファーで隣同士になってテレビを観る。

 大体この時間はバラエティー番組かドラマをやっている。

 俺たちはいつも通りバラエティー番組を見る。時期によってはこの時間はドラマを見ることもあるけど、今の時期は面白そうなドラマが無かったからバラエティー番組を見ている。


「ふぁ~」


 俺の隣であくびをする声がした。


「眠いの?」

「うん。……すごく眠い」

「寝ていいよ。お風呂が沸いたら起こしてあげるから」

「ありがとう」


「おやすみ」と言いながらおもむろと俺の膝に頭を乗せてきた。

 膝に頭を乗せてきた心優にソファーに掛けてあるブランケットを心優の体の上に掛けてあげる。

 膝の上に頭を乗せてすぐに心優は寝息を立てながら寝始めた。

 相変わらず可愛い寝顔だな。この寝顔を見ていると心優と同棲することが出来てよかったって感じる。

 心優と付き合い始めたころは同棲すると思ってなかったし、ここまでお互いの事を深く知るとは思ってなかった。

 心優の寝ている顔を見ながらテレビを観ていると徐々に俺までも睡魔が襲ってきた。


 ・・・・・・


「ふあ~」

「お! 起きた?」


 心優を起こそうと思っていたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。

 寝ていた頭を起こしながら閉じていた目を開けると向いている向きが横になっているような気がする。気のせいかと思っていたけど気のせいではなかった。

 俺が寝ている間に立場が反対になっていた。

 最初は心優が俺の膝の上で寝ていたはずなのに、俺が心優の膝の上で寝ている状態になっていた。


「今何時?」

「2時」

「へ?」


 驚いて時計を見ようと頭をあげようとすると心優が手で押さえてきた。


「急に頭を上げちゃ駄目。寝起きだからくらくらすることがあるよ」

「はい。本当に2時?」

「うん。ほら」


 心優がスマホの待ち受け画面を見せてくれた。

 たしかに待ち受けには2時18分と表時されている。

 しまった。5時間近く寝てしまっていた。

 居眠りのつもりでいたのに完全に睡眠になってしまった。


「起こしてくれよ」

「ん~。最初は起こそうかなって思ったけど、起こすのがかわいそうだなって思ったから起こさなかった。それに一樹が私の膝の上にいるなんて滅多にないから」

「そんなことを言われると何にも言い返せない」

「本当の事だからいいでしょ」


 膝の上で寝ている俺の頭をなで撫でながら言った。


「あんまり撫でないで」

「照れてるの?」

「そういうわけじゃないけど…」

「隠さなくてもいいんだよ」

「隠してない」

「可愛いな。顔を赤くして」


 心優が「可愛い」なんていうから撫でられる以上に恥ずかしくなる。

 恥ずかしいから心優の膝から頭を上げようとすると俺の体を押さえてきた。


「まだ駄目。もう少しここにいて」

「でも…」

「なに。私に膝枕されるの嫌なの?」

「嫌じゃないけど…」

「けど?」

「恥ずかしい」

「知らない」

「知らないって」

「あと5分だけこうしてて」


 心優に膝枕されながら「あと5分」と思っていたら結局15分程度話していた。

 目を覚まして心優と話していると時間が3時になろうとしていた。

 こんな時間になると完全にほぼ睡眠だな。

 これからお風呂に入ったら4時だな。

明日と言うか、今日も平日で学校があると言うのに。これは授業中眠くなるな。

 何時間も前から沸いていたお風呂に入って寝間着を着て寝室に行く。


「これから寝る?」

「こんな時間だからな」

「今から寝ても1時間くらいしたら起こされちゃうしね」

「確かに。あんまり眠くないんだよね」

「じゃあ、ゲームしない? 昨日出来なかったから」

「いいよ」


 寝室に5分程度いたけど、リビングに行って朝になるまでパズルゲームで勝負をして過ごした。


 結局、今日の授業の4限は若干寝てしまった。

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