第5話 学校の人気者からの告白

 牧之原さんとファミレスに行ってから2ヶ月が経過した。

 最初の1ヶ月は俺のミスで牧之原さんと一緒に帰っていたけど、最近は俺のミスをしてなくても一緒に帰っている。

 特に俺が提案したわけでも牧之原さんが言ったわけでもないけど、待ち合わせをして帰るようになっている。それに毎日家に帰ってからLINEをしあうようになって、両方の両親が家にいないときにファミレスで食べている。

 俺が今まで関わった人、女性の中でここまで積極的にかかわってくる人は初めて。

 最初はLINEを交換して少し牧之原さんと関わった時に思ったのは俺の時間が失われる。そんな風に思っていたけど、なんだかんだ牧之原さんとLINEをしている時間、牧之原さんと帰宅している時間が正直楽しくて仕方ない。

 だから帰るときは割と楽しくて仕方ない。


 今日も牧之原さんと帰っていると思いきや今日は一人で帰っている。

 なぜかと言うと今日から文化祭で行われるクラスの出し物でカフェをやることになり、接客係を決めるときに圧倒的に人気のある牧之原さんは接客係のリーダーを務めることになり、客に出す商品を決めるために放課後を使って決めるために学校にいる。

 たしかに学校で人気の牧之原さんが接客をすれば間違いなく黒字になるに決まっている。

 経営としての政策は間違いなく成功するのは間違いない。

 牧之原さんが学校にいて教室も使えない、図書館も文化祭の出し物で使うらしく今日から教室は使えないから仕方なく牧之原さんにLINEをしてから家に帰っている。

 そう言えば今日ってまた両親がいない日だった。夕飯どうするか決めないと。

 今日の夕飯を考えながら家に帰って冷蔵庫を開けてみると中には何にもなかった。戸棚にはトマト缶とパスタがあった。今日はトマトパスタかな。確かベーコンもあったし。

 部屋で制服から部屋着に着替えて、読み途中の本をカバンから出して本を開こうとすると机に置いてあった俺のスマホが鳴った。スマホを見ると牧之原さんから電話の電話だった。


「もしもし」

『もしもし。一人で帰れた?』

「帰れたよ。いくつだと思ってるんだ」

『あはは。ごめんごめん。怒んないで』

「別に怒ってないけど…」

『けど?』

「なんか馬鹿にされた感じがした」

『ごめんね。帰りに何か買ってきてあげる』

「ありがとう」


 別に何かお詫びが欲しくて言ったわけではないけど、馬鹿にされている感じがしたのは確か。


「てか、なぜ電話してきたの? 普通にLINEにすればよかったじゃん」

『最初はそうしようかなって思ったけど、一樹君はLINEを返すの遅いじゃん。それに今休憩中だから一樹君が寂しいんじゃないかなって思って電話しての』

「別に寂しくはないけど」

『なんだ』

「なんだって。……で、電話してきた理由は?」

『今日って一樹君の両親いないでしょ?』

「いないな」

『私の両親もいないの。だから夕飯をどうするのかなって思って』


 今日の夕飯の話か。

 たしかに牧之原さんの家、電気がついてなかったな。


「俺は今日、パスタにでもしようと思っている」

『いいな。パスタ』

「作ってあげようか?」

『良いの!』

「いいよ。二人分材料あるし」

『嬉しい。じゃあ家に着いたらLINEするからちゃんと気づいてね』

「頑張る」

『頑張って。またね』

「また」


 電話を終えて読もうとしていた本を開いて読み始める。

 今日は牧之原さんが来るのか。牧野原さんの家には夕飯をたべに行っているから家に牧之原さんを入れたことは一回も無いし、呼んだのは今日が初めて。

 と言うより俺が誰か人を呼んだこと自体が初めてだ。

 俺は誰かと関わろうとしないから俺から家に招き入れることはしないし、人を招こうとは思わない。

 でも、牧之原さんだけは下心なしに招こうと思った。


 牧之原さんから電話を受けて2時間すると本机の上に置いてあったスマホに通知を知らせる音が鳴った。

 スマホを見ると牧之原さんから『家に着いたよ。着替えて行くね』と言われて書かれていた。

 本の間に栞を挟んでパスタを作りに台所に向かって階段を下りて行く。

 パスタポットに水と塩を入れてお湯を沸かす。

 お湯を沸かしている間にパスタに入れる材料を切っているとインターホンが鳴った。


「はーい」

『ヤッホー。入っていい?』

「いいよ」


 玄関先で待っている牧之原さんを家に招き入れて俺は料理を続ける。


「お邪魔しま~す。これお土産」

「ありがとう」

「冷蔵庫入れてな」


 牧之原さんが家に入ってきた。

 牧之原さんから受け取ったお土産を冷蔵庫に持っていく。


「お! 料理してる。一樹君って料理出来たんだ」

「うん。まあ、出来ることは隠しているけど」

「なんで? 公にすればモテると思うよ?」

「料理が出来るって言って馬鹿にされるのも嫌だし。仮にモテたとしても周りに注目されるのが嫌だから」

「え、じゃあ私がこんなに近づくの嫌?」

「そんなことはないよ」

「ほんと? それならよかった」


 俺は学校で調理自習があった時も料理が出来ることを隠して授業を受けていた。

 調理自習と時にクラスの陽キャの人たちが「俺は料理が出来るから任せろ!」と言っている人たちが思ったより料理が出来ない人で正直こんなもんかと思ったことがあった。

 自画自賛と言われればその通りだけど、俺からしたら出来ない分類に入ると思う。


「何か手伝うことある?」

「とくには無いよ」

「え~、何かしたい。……あ! サラダでも作ろうか? どうせ作ってないでしょ」

「…まあ作ってないけど」

「作るね。冷蔵庫の中使っていい?」

「好きに使ってもらっていいよ」

「ありがとう」


 俺がパスタを作っている隣で牧之原さんが冷蔵庫から野菜を出してサラダを作っている。



 出来上がったパスタを平皿にレストランに出てくるような感じに盛って、粉チーズ・黒胡椒をかけてダイニングテーブルに持っていく。

 牧之原さんも作っていたボールに作っていたサラダを2枚のお皿に盛って同じようにダイニングテーブルに持ってきた。


「わ~。美味しそう。早く食べよ」


 戸棚から二人分のフォークを持ってきて向かい合わせに座った。


「「いただきます」」



・・・・・・


「いただきました。美味しかった」

「よかった」

「また何か作ってね」


 食べ終えた食器を食洗器に入れてパスタを作るときに使ったフライパンやパスタポットを洗う。


「あ、私も手伝うよ」

「大丈夫だよ」

「私も一緒に料理したから私も片づけする」

「ありがとう。じゃあ、洗ったのを布巾で拭いてくれる?」

「オッケー」


 俺が洗ったフライパンなどを片づけてリビングでテレビを観ていると8時になっていた。


「わー。こんな時間になっちゃった。私そろそろ帰る」

「わかった」


 牧之原さんが自分のバックに今まで出していたスマホをしまって玄関に向かって歩いて行った。


「——あ。私が持ってきたお土産、一樹君のロールケーキだから食べて。とっても美味しいから」

「ありがとう」

「じゃあね」


 靴を履いた牧之原さんが玄関の戸を開けて手を軽く振って帰って行った。


  ・・・・・・


 牧之原さんが家に夕飯を食べに来て5日後俺の通う学校の文化祭が始まった。

 文化祭は2日に分かれていて、1日目は各クラス・委員会で出し物をして来校者を招く日。

 俺はクラスの出し物のどの担当にも所属はしていない。なにせ教室でやるから席数は少なくて済むため牧之原さんがリーダーを務める接客係の人数も少なくて済むし、提供する料理もすでに出来上がっているものだから3人ぐらいで済むから人数も多くいらない。飾りつけもクラスで一気にやってしまったから俺は何の係にも所属していない。

 まあ、牧之原さんがリーダーを務める接客係は大量の男共が群がっていたけど。

 そういうわけで俺は今学校中をうろうろしている。

 午前中で俺が気になっていた出し物はすべて回ってしまったから午後は正直暇。

 本を読みたいけど読める所を探して1日目は終わった。



 2日目は体育館でクラス対抗で演劇やダンスなどで競い合ったり、学校内で誰が一番美人か美男かを決めるベストピープルを行った後少し休憩を挟み、後夜祭が始まった。

 後夜祭はグランドに集まり、巨大なキャンプファイヤーに校長と教頭が日を付け時間が7時になるとグランドの裏で花火が上がった。

 花火が上がって30分くらい経つとクラスの女子が集まっていた所から声がした。


「心優は?」

「トイレじゃない?」

「たぶんそうでしょ」


 女子たちが牧之原さんの話をしてすぐに俺の胸ポケットにしまってあったスマホが通知を知らせる振動が来た。

 何だろうと思ってスマホを開くと牧之原さんからLINEが来ていた。

『裏玄関に来て』とLINEが来た。

 一人で花火を見ていたグランドから離れて学校の裏玄関に行く。


「お待たせ」

「ごめんね。学校なのに呼んじゃって」

「まあ、誰もいないからいいよ」

「ありがとう」


 本当は学校で牧之原さんと二人っきりで話すのはあんまり嬉しくない。誰かに見られてそれが拡散されるのが嫌だから。


「本当は家で言おうかどうしようか迷っていたんだよ」

「と言うと?」

「…単刀直入に言います。……私と付き合ってください」

「……え? お、俺と?」

「うん。一緒にファミレスに行った時より前から気になっていて、あの時に話しかけてLINEや家で一緒にご飯を食べていてどんどん「好き」が込み上げてきて常に一緒にいたいと思いました。……これから一緒にいてくれますか?」

「俺でよければ。……ただ」

「ただ?」

「付き合っていることは今まで通り隠してほしいです」

「わかった。付き合う条件だね。私も一つ条件を言うと、これから学校帰りは一緒に帰って下さい。これが私からの条件です」

「わかった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る