第4話 学校の人気者とファミレス

「あ、ノート忘れた…」


 学校を出て10分くらい歩いて気が付いた。

 ノートを持ち帰らないと今日の課題が出来なくなってしまう。


「戻るか」


 課題が明後日提出なら明日忘れないように持っていけばいいのだけど、この課題は明日提出で意外と時間が掛かりそうな課題だから取りに戻らないと。

 10分かかってもと来た道を戻って俺も教室である2年B組に戻ると教室で一人本を読んでいる少女がいた。

 あれはたしか牧之原さんだよな。珍しいな一人でいるの。

 いつもは必ず誰かといるから牧之原さんがこうやって一人で本を読んでいるのがなんだか新鮮な感じがする。

 中に誰かいるとは思わなかったから入るかどうするか少し迷っている。

 俺は基本誰かとは何か用事が無いと話さない。


「何してるの? 入ってきていいよ」


 教室の前で入ろうか迷っている俺を察して本を読みながら声をかけてきた。

 声が掛かってきたから俺は恐る恐る教室に入って、自分の席に行って引き出しからノートを出してリュックに入れて教室を牧之原さんの読書に邪魔にならないように出ようとすると…


「もう帰るの?」

「帰りますよ。帰って課題をやらないといけないので」

「ここでやれば? 私も一緒にやってあげるから」


 本を閉じて牧之原さんが自分の課題の道具を出して隣に座るように促してくる。


「いや…、でも……」

「私と一緒に課題するの嫌?」

「嫌ではないですけど…」


 この人は自覚無いのか?

 牧之原さんは俺が通っている中学の中で一番有名で学校の彼氏と言ってもいいくらいの人。

 だから牧之原さんと教室で一緒に課題をやっているところを見られるとどんな噂が流れるかわからない。

 牧之原さんと課題をやることに対しての抵抗は無い。俺は自称この学校1の陰キャ。とにかく目立つことが嫌。だから全く関係ないことで関係ない噂が流されて注目を浴びたくない。


「教室が嫌なら場所を変えてもいいよ」

「まあ、それなら…」

「ほんと⁉ じゃあ行こうか」


 牧之原さんが今まで読んでいた本をカバンにしまって席を立った。

 そして生徒玄関から学校の外に出て、俺が来た道と違う方向に向かって行く。


「あの…、どこに行くんですか?」

「ん? ファミレス」

「……ファミレス⁉」

「うん。ファミレス。…大丈夫、学校の人はほとんど来ないから変な噂話立たないよ」


 まさか牧之原さんが噂を気にしていることを気づいていたのか。

 もしかしたら自分が学校で人気なのを利用して俺をからかっていたのかも。

 牧之原さんと20分くらい歩いてファミレスに入店して、店員に窓際の4人席に案内された。


「何にする?」


 牧之原さんがメニュー表を開いて聞いてきた。


「俺はドリンクバーだけでいいです」

「え~、いいの? お金は私が出してあげるから」

「じゃあ、カレーリゾットを」

「カレーリゾットね」


 牧之原さんが右にある呼び出しボタンを押して定員を呼んで、少ししてオーダーを取りに来た。


「えっと、カレーリゾットとフライドポテト、マルゲリータ―ピザ、ミートグラタン、シーフードサラダとドリンクバー2つをください」


 定員が注文したのを復唱して去って行って、俺たちはドリンクを取りに席を立った。


「ん~、どうしようかな」


 ドリンクバーに着いてグラスを取るなり機械の前で何にするか牧之原さんが悩み始めた。


「私ってこういうの何にしようか迷うんだよね」

「優柔不断なんですか?」

「そんなことないと思う。光一君は迷わないの?」

「あんまり迷うことは無いです」

「良いな~。私もそうなりたいよ。…よし、今日はこれにしよ」


 そう言いながらアイスティーをグラスに入れた。

 一方迷うことは無いと言っていた俺はカフェオレをコーヒーカップに入れて席に戻った。

 席に戻るとシーフードサラダが台の真ん中に届いていた。それを牧之原さんがサラダと一緒に届いていた取り皿に丁寧に半分ずつ分けてくれた。


「ありがとうございます」

「いいえ。私こういう料理を取り分けるの得意だから」


 取り分けたシーフードサラダとフォークを渡してくれた。


「「いただきます」」


 取り分けてくれたシーフードサラダを食べているとフライドポテトとマルゲリータピザが届いた。


「マルゲリータとフライドポテトは私が注文したけど自由に食べてね」

「ありがとうございます」


 シーフードサラダを食べながらフライドポテトとマルゲリータピザを食べてカレーリゾットとミートグラタンが来るのを待つ。


「そういえば、さっきから気になっていたけど一樹君はなんで敬語なの? 私はため口でもいいよ」

「牧之原さんと一緒のクラスだけど、話さないのでため口で話すのがちょっと気が引けて敬語なんです」

「へぇ~。じゃあ、ため口で話す人っているの?」

「同じクラスにはいないです」

「それなら私とため口で話したらクラスで私が初めてってことか」

「そういうことになりますね」

「じゃあ、今から私とため口で話してね」

「え……」

「だめ?」

「……いいですけど」

「ほんと! じゃあ、決定!」


 何か強引に牧之原さんとため口で話すことになってしまった。

 正直同い年以上の人とため口で話すのは少し苦手。同い年でもそれなりに話したことがあって、その人と慣れればため口で話すことは出来るけど、牧之原さんみたいな学校のトップカーストのしかも学校の彼女とも言われている人だと余計気が引けてしまう。


「あ! それと次から私を名前で呼んで。「牧之原さん」じゃなくて「心優ちゃん」とか「心優」とかで呼んで。「心優さん」も禁止」

「今度から「さん」付けで呼んだら一緒に帰ってもらうからね」

「せめて「心優さん」は許してほしい」

「だめ。距離を感じる」


 まじか。せめて「心優さん」は許してほしい。

一緒に帰るのはまあまあ気にしないけど、牧之原さんと一緒に帰っている所を誰かに見られでもしたら何が起きるかわからない。


「距離って。どんな」

「ん~、なんか友達からため口で話す同じクラスの人みたいな感じ」


 俺と牧之原さんはいつから友達になったんだ? まあ、確かに友達なら敬語では話さないよな。

 フライドポテトとマルゲリータピザをつまみながら牧之原さんと話しているとカレーリゾットとミートグラタンが届いた。

 この時間にこんなに食べたら夕飯いらないな。


「心優さんはなんで教室で本を読んでいたの?」

「ん? なんて言った?」


 あ。早速やってしまった。


「もう一回言って?」

「心優ちゃんは、…なんで教室で本を読んでいたの?」


 すごく恥ずかしい。

 女の子を「ちゃん」付けで呼ぶの小学生以来だし、ほぼ初対面みたいな人だから。


「少し顔赤いよ」


 バレてしまった。


「私、本当は本が好きなんだけど、中学に進学したとたん周りに人がたくさん集まるようになったから、全然本が読めなくなったの。でも、あの時間ならみんな帰るか部活中だから教室には誰も来ないから教室で本を読んでいたの」

「図書館で読めばいいと思うけど…」

「図書館は常にだれかいるでしょ。誰もいないところで本を読みたいの」


 たしかに誰もいないところで本を読みたいと言う気持ちはわかる。


「一樹君も本好きでしょ? 何かおすすめの本があったら教えて欲しいな」

「今度また教えるね」

「ありがとう。そういえば今日は何か本持ってる?」

「持ってはいますけど…」


 持ってはいるけど、俺が持っているのラノベなんだよな。

 牧之原さんにラノベを見せたたら引かれるかもしれない。俺と話しかけて来なくなるきっかけを作るにはいいタイミングかもしれない。


「今はこれを…」


 カバンから本を1冊出して牧之原さんに渡す。


「ラノベ? 私ラノベって読んだことないの」


 俺から本を受け取ってパラパラと本をめくった。


「面白そう。これ読んだら貸して。読んでみたい」


 ラノベを読んでいることを引かれるどころか食いついてきた。


「読み終えたら貸すね」

「ありがとう」


 今まで読んだ本や家で何をしているかを話して、牧之原さんがデザートを食べると言うから俺も一緒になって食べ、2時間が経過していた。


「わ~。もう外暗いね」

「ほんとだ。もうこんな時間になっていたとは」


 今から外を歩いていたら確実に補導されるだろうな。


「もう帰ろうか」


 荷物を持って会計をしに行く。


「半分出すよ」

「大丈夫だよ。今日誘ったのは私だから私が出す」

「ありがとうございます」


 会計を済まして外に出る。


「家まで送ります」

「いいよ。きっと家反対でしょ? こんな時間だから家まで来てもらったら家族が心配するでしょ?」

「家族はまだ帰ってこないので大丈夫」

「ほんと? じゃあ、家まで送ってもらおうかな」


 ファミレスを出て学校の近くを通らないように歩いていく。きっと牧之原さんが気を使って学校の近くを通らないようにしてくれているんだろうな。

 ファミレスから30分近く歩いて俺の家の近所の公園が見えてきた


「あれ? この公園って」

「知ってるの?」

「いや、俺の家ってこの公園の近くなんです」

「そうなの? 私も近くだよ」


 え? どうゆうこと。牧之原さんの家って近くだったのか? なにせ一回も合わないから気が付かなかった。

 公園の前を通過して数分行くと、


「着いた。ここが私の家。牧野原家」

「え? あ! 牧之原だ」

「そうだよ。ちなみに隣は上条家。一樹君の家でしょ」


 なんてことだ。お隣さん家のことを何も気にしないでいたから隣が牧之原家だとは気が付かなかった。

 しかも牧之原さんが隣の家の人が俺だと知っていたなんて。


「びっくりした。今まで合わなかったから」

「そうだね。登校も下校も時間がバラバラだからね。…今日はありがとう。ごめんね、課題をやるために誘ったのに課題をやらずに帰ることになって」

「いや、俺の方こそお金を全額出してもらって」

「気にしなくていいよ。バイバイ」

「おやすみなさい」


 家の前で別れて玄関の戸を開けようとすると、


「あ! 一樹君。LINE交換しよ」

「良いよ」


 別れた場所に戻ってお互いスマホの画面を見せ合いながらLINEを交換して今度こそ別れた。

 さて、夕飯を食べたようなものだから課題をやるか。

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