第3話 先輩と雨宿り

 ザーー。

 5限目の日本史の中盤に急に雨が降ってきた。

 天気予報では午後は曇りだった気がする。降水確率を見ていなかったから何とも言えないけど。

 今日傘持ってきてないな。折り畳み傘も持ってきてないから学校で雨が止むのを待つか濡れて帰るかしないと。きっと心優も持ってきていないだろうし。

 雨が降り始めて20分くらいして日本史の授業が終わった。

「雨降ってる」「傘持ってきてない」「私も」と教室にいるいろんな生徒が話始めた。


「うわ~。今日は部活が無くなったのは嬉しいけど、傘持ってきてないんだよな」


 運動部の外で活動をしている人は雨の日は休みになるから嬉しいんだろうな。人によると思うけど。


「俺も持ってきてなよ。」

「え⁉ 一樹も持ってきてないの⁉」

「持ってきてないよ」

「え~。どうやって帰るの」

「濡れて帰る」

「え~、やだよ」

「じゃあ、どうやって帰る?」

「……まつ」


 待った方がいいような気がする。さっきより雨の量が増えた気がする。もはや土砂降り。

 外に出たら一瞬でびしょ濡れになりそう。


「少し弱くなるまで待った方がいいだろうな。光一はどうするんだ?」

「6限が終わったら親に電話して迎えに来てもらおうかな」


 家に家族がいると電話してこういう時に迎えに来てくれるからいいよな。

 電話しても俺の実家は遠いから学校まで迎えに来てもらうわけにはいかないもな。何時間かかるかわからないし。


「私たちはどうする?」

「図書館かカフェで弱くなるのを待つかな」

「俺も一緒に待とうかな」

「彼女が持っているんじゃないのか」


 光一はサッカー部の2年のマネージャーと付き合っている。


「たぶん持ってないな。持ってなかったら一緒に待つわ」

「了解」

「ダブルデートだ‼」

「光一の彼女が傘を持ってなかったらな」


 10分の休憩の後6限目の加藤先生による適当なホームルームが終わって放課後の時間が始まった。

 6時間目の雨は相変わらず土砂降りの状態。

 いつものようにゆっくり帰りの支度をして学校内にあるカフェに移動していく。

 カフェでコーヒーを注文して席に座っていると光一とその後ろに光一の彼女、姫嶋ひめじまかなで。俺たちの一つ先輩で光一の所属しているサッカー部のマネージャー。


「こんにちは。奏先輩」

「ヤッホー。心優ちゃん」


 そう言いながら奏先輩が手を振った。


「お待たせ」

「姫嶋先輩も傘を持ってなかったんですか?」

「私は持っていたけど、光一が迎えに来るまで心優ちゃんと一樹君とカフェに行くって言うから付いて来たの」

「浮気防止ですか」

「そうだよ。光一が心優ちゃんと浮気しないか心配だから」

「え~、私は一樹を生涯愛し続けると決めたから駄目だよ」


 隣で生涯愛し続けるなんて言われるとすごく恥ずかしい。

 恥ずかしいと言っても俺も心優を生涯愛し続けると決めているから心優を手放すつもりはない。


「本当にラブラブだね」

「だって一樹のこと好きだもん」


 俺の肩に心優が頭を乗せてピッタリくっついてきた。



 光一と姫嶋先輩と珈琲を飲んでいると光一の両親が迎えに来て光一は帰った。

 光一が帰るときも相変わらず外は土砂降りの状態。いつになったら帰れるのやら。


「奏先輩は一緒に帰らなくていいんですか?」

「光一の家と私の家は遠いから」

「どこにあるんですか?」

「駅から電車を使って30分行ったところにあるよ」

「そうなんですね」


 ? 学校から30分って俺たちの家の方かな。


「もしかして横浜ですか?」

「そうだよ。なんでわかったの?」

「俺たちも横浜に住んでいますし、電車を使っているって言っていたので」

「そういうことか」


 横浜から高校に通っているのが俺たちだけかと思ったけど、まさか姫嶋先輩が横浜から通っているとは思わなかった。

 そもそも俺たちが通っていた中学の人は俺と心優、光一以外の人は通っていない。多分。

 俺と心優がどこの高校に通っているか中学の人は恐らく知らないと思う。


「珈琲買ってくるね」

「私も行く。光一は?」

「俺も行こうかな」


 コーヒーカップに少し残っている珈琲を一気に飲み切って、コーヒーカップを持ってカウンターに行く。

 何にしようかな。さっきはブラックだったし……。


「二人はどれにするの?」

「私はカフェオレにしようかな。それとシフォンケーキも」

「俺も同じのにしようかな」

「カフェオレ2つとキャラメルマキアートとシフォンケーキを3つください?」


 姫嶋先輩が俺たちの分も注文を取ったからあわてて財布を出した。


「あ! いいよ。私が出してあげる」

「いや、さすがにそれは……。」

「気にしなくていいよ」


 俺たち二人分を姫嶋先輩に出してもらうのは少し気が引けるけど、姫嶋先輩の押しに負けて有難くおごってもらうことにした。

 注文した商品を受け取ってもといた席に戻って姫嶋先輩におごってもらったカフェオレとシフォンケーキを取った。


「姫嶋先輩。いただきます」

「いえいえ。こういう時しか誰かにおごれないから」

「そうなんですか?」

「うん。光一とレストラン行っても光一が何にも言わずに出してくれるから」


 光一は昔から一緒に飲食店に行くと絶対お金を出してくれた。

 光一は中学で唯一の友達で、学校でイベントがあるとその放課後に一緒に飲食店に行っていてほとんど出してくれていた。

 きっと光一は誰かにおごることが好きなんだろうな。


「優しいね」

「光一は昔からそうだったから」

「そうだったんだ。……私、一人暮らしだから食費が浮いて助かっているんだよ」


 姫嶋先輩って一人暮らしだったんだ。

 姫嶋先輩は毎日部活にも出ているし、お弁当を持ってきているからてっきり実家暮らしかと思っていた。


「奏先輩は一人暮らしだったんですね」

「うん。3月からね」

「じゃあ、バイトもしているんですか?」

「バイトはしているけど、親が家賃と光熱費を払ってくれているからあんまりシフトを入れてないけどね」


 俺たちとはちょっと違うな。


「本当は少し出してあげたいんだけど、絶対に断るんだよ。だからたまにプレゼントをあげてるの」

「ラブラブだね」

「からかわないでよ。2人の方こそラブラブじゃん」

「そんな事ないですよ」

「嘘だ。付き合って1年ちょっととは思えないほど仲良いと思う」

「そんな事は無いと思いますよ」

「なんか2人って毎日一緒にいるような感じ」


 一緒にいるような感じじゃなくていつも一緒にいるんだけどね。


「……もしかして同棲してる?」

「………はい」

「え⁉ ほんとに⁉」

「同棲してます。二人で」

「まじか…。……光一は知ってるの?」

「知らないですよ。言ってないですから」

「そうなんだ。いつから同棲してたの?」

「高校に入学した時から」

「付き合って1年もたっていないのに同棲ってすごいね。……私も同棲したいな」

「すればいいじゃないですか」

「したいけど、私は両方が高校を卒業してから同棲したいなって思っているから」


 たしかにその方がいいような気がする。

 姫嶋先輩の考えは高校生のときは勉強に集中してお互いの進路が決まってからってことなのだろう。

 

「それに同棲してなくても昨年まで遠距離恋愛をしていたから学校で会えいてるし、会おうと思えばすぐに会えるから毎日一緒にいなくても我慢できるんだ」

「え? 昨年まで遠距離だったんですか?」

「そうだよ。私、中学2年の時に名古屋に引っ越すことになって……」


 姫嶋先輩は俺たちと同じ中学に通っていたらしい。でも、姫嶋先輩が2年生の5月に両親が名古屋に転勤になってそれに伴って姫嶋先輩も名古屋の中学に編入した。編入する前から姫嶋先輩と光一は付き合っていて、姫嶋先輩と光一は遠距離恋愛になってしまった。

 姫嶋先輩が名古屋の中学を卒業して高校に進学するときは光一に新しい彼女が出来ず、姫嶋先輩も彼氏が出来なくてまだお互いに両想いで高校から横浜で一人暮らしをしながら高校に通っているらしい。

 

「奏先輩も私たちと同じ中学に通っていたとは思わなかった」

「私も光一から聞いてびっくりした。それに一樹君が付き合っているのが中学で有名で全校の彼女的存在だった心優ちゃんが付き合っているなんて知らなかった」

「俺も心優と付き合うなんて思っていなかった」

「私は少し気になっていたよ」

「え? 二人はどうやって付き合い始めたの?」

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