笑えばいつか



 人間は愚かだ。すべてのものが、自分たちを中心に存在していると思っている。この路地も例外ではない。さも当然であるかのような顔で彼らはここを通る。道に置かれた室外機や空き缶たちを、不快そうな表情で見つめながら。


 だが、ここに生える苔である私に言わせれば、邪魔なのはどう考えても人間たちのほうだ。この路地は彼らだけのものではない。ゴキブリやハエなどはもちろん、近くの家々から出てきたネズミやハクビシン、犬や猫といった大物もここを利用しているし、ここは私を含めた植物や室外機など無機物たちの生活の場でもある。それを無視して好き勝手に使われるなんて、本当に我慢ならない。

 だから、柱の影から道の端から電線の上から、私たちは人間を笑っている。本気を出せば、お前らなんかあっという間にのしてしまえる。数はこっちが上だ。


「きったねえ」


 道に迷い込んだ酔っぱらいの尿が私に降り注ぎ、近くの地面でネズミが潰れて息絶え、無理に働かされた室外機が悲鳴をあげる。それでも私たちは、人間へ向け軽快な笑みを浴びせ続ける。





(お題……路地)




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