きてよ
土砂降りだった翌日は、いつも土手を散歩している。一日中荒天だったぶん、景色が普段よりあざやかに見え、とても気持ちがいいのだ。
土と草の香りを感じつつ進んでいると、眼下の川原になにか落ちているのに気がついた。よく見るとそれは泥まみれになった子供靴だった。そんな、まさか。茶色く膨らむ川面に目を走らせ、岸辺などにあってはならないものが引っかかっていないか確認する。とりあえずそういったものはなさそうだった。でも、こんなものがあるということは、可能性は充分にある。耐えきれなくなり、私はてのひらで口元を覆う。
「あ、あったよ!」
そこで、土手を降りてきた女の子が私の体をすり抜けた。靴を拾い上げ、土手にいる両親へ謝罪を口にする。どうやら一昨日ピクニックをしたとき置きっぱなしにしてしまったお気に入りのものらしい。流されてなくてよかったな。父親が笑いかける。本当にそうだね。よかったね。聞こえない声で私は同意する。
「またすぐ、嵐はくるよ」
女の子が振り返る。てのひらの中で、唇がゆっくりと弧を描いていく。
(お題……雨)
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