顔料の猫はすべてにピースする



 家中の箸などをすべて隠され仕方なくボールペンを使ってカップ麺を食べたという小説があったことを急に思い出して同じことをしてみたら普通にまずかったし中の青いインクが溶け出て体に良くないんじゃないかと完食してから青ざめもしたがそもそもこんなことをした意味もなにもかもすべてがわからなかった。仕事をやめて部屋から出なくなってもうかなり経つ。家族とも、もうずいぶん顔を合わせていない。ドア前に食事が置かれるので、生きてはいるはずだ。

「何様だよ」

 生かしてもらっているのは僕のほうなのに。いなくなりたい。さっきのペンのインクが毒だったらよかったのに。視界がかすんでいく。



 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。はっと顔をあげると、突っ伏していた机の上にペンと同じ青色をした猫の落書きがいた。縦棒二本とωで表現された顔で「まだいける」と言ってピースをしている。


 テレビをつけると時代劇がやっていた。本来なら寝る時間だが、猫に笑いかけ、たっぷり迷って僕は部屋を出た。階下から、朝食の準備をする誰かの気配がする。





(お題……文房具)


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