【クリーチャーズ・ハウス】Day2「Good morning,Mr.Sleeping.」
両側から壁が迫ってくる。どれだけ逃げても先が見えない道を必死に走るが、壁は当然と言うべきか待ってなんてくれない。息が切れて走れなくなった瞬間、壁に押し潰されて骨が折れる音と身体が潰れていく音が薄れる意識の中、やけに鮮明に聞こえた。
「………っ!」
目を閉じたのはリビングのソファー。思わず身体を見るがもちろん、どこも潰れてなんてない。…ああ、起きるのはやはりよくない。
やはりずっと眠っていた方が良かった。その時のそり、と大男のジョニーが柱の影から仮面をぶら下げた顔を覗かせる。
「やあジョニー、君もお休みか…」
声を掛けた瞬間、ジョニーの大きな両手でいきなり首を絞められる。かはっ、と浅い呼吸が漏れて、思わず目を覚ましてしまった。目の前にはやっぱりいつもと変わらない笑顔を浮かべたジョニーがいて、「やあ…おはよう、メア。」なんて口にしている。ああ、もう朝か。…また、眠らないと。そんな事を考えながら意識が薄れる。…あ、これって今朝起きてるときに見た悪夢と同じ…
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「おーおー、こりゃヒデェな。眠りの権化が目ェ開けて死んでる。」
燭台頭のローウェルがソファーに寝転がる死体を見やって楽しそうに笑う。死体は「ミスター・スリーピング」こと、メア。ローウェルは好奇心に満ちた瞳でメアの死体をじろじろと眺め、口を開いた。
「首絞められてんなァ、コイツ。一瞬で
意識ブッ飛んで死んでる。」
「…………ローウェル、分かるの。ドクターでもないのに。」
ぞろぞろと集まってきたクリーチャー達の一人、他のクリーチャー達は死体に近付いて眺めたり驚いたりと何らかのアクションを見せているが、椅子に座ったままで死体を見ても眉一つ動かさないマリーナが口を開く。
「…あン?オレ、検死官?だったからよ。あれ?違ったか…ハッ、あんなただのサイボーグのガキがドクター?笑わせんなよ。」
ローウェルはマリーナの言葉を一蹴し、側で狼狽えていたティーポット頭のツヴァイと珍しく外に出て来ていた30代後半の男を見ながら嘲笑する。
「おい、お前ら何ぼーっと突っ立ってんだ。さっさと犯人見つけてこいよ。じゃなきゃ
コイツ、オレが解剖しちまうぜ?」
声を掛けられた二人は一瞬困ったように顔を見合わせるが、ツヴァイはローウェルに向けて恭しくお辞儀をした後に立ち去っていく。もう一人の男は両手にクマとウサギのぬいぐるみを抱えながら「…マリー、パパはローウェルおじさんの言うことを聞くべきだと思うかい?…どうした、エリック。はは、そうかそうか。メアを殺した犯人を見つけてほしいのか。よし、マリーとエリックがそう言うならパパは犯人探しを頑張るよ。」周囲にも聞こえるほど明瞭な声で独り言を呟き、2体のぬいぐるみを抱えたままどこかへと歩き去っていく。
「…アイツはとんだイカレ親父だ。生きてもねぇぬいぐるみの声が聞こえてやがる。」
クリーチャー達はその場を次々と立ち去り、ローウェルのそんな悪態を聞く相手はとうとう動かないマリーナだけになった。
「……………アレックスは、いい人だよ。」
「うるせぇ、黙ってろ人形女!お前は役立たずなんだからとっとと部屋に帰って寝てろ!」
「………………わかった。」
ローウェルの八つ当たりのような怒声にも身動ぎ一つせず、マリーナは関節を軋ませつつゆっくりと椅子から降り、廊下を歩いていく。リビングに一人残されたローウェルは息を吐きながらソファーにもたれかかり、目を見開いたまま死んでいるメアの死体を見ながら笑みと共に言葉を溢す。
「…さあ、とっとと見つけてこいよ。じゃなきゃオレが解剖して食っちまうぜ。」
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