クリーチャーズ・ハウス

匿名希望

【クリーチャーズ・ハウス】Day1「Dolly,Dolly,Dolly?」

「やあ、おはよう…マリーナ。」

不気味な笑顔の仮面をぶら下げ、爽やかな声で朝の挨拶を述べる大柄な男の目線の先には床に座り込む長髪の可憐で小柄で華奢な少女。

「…………」

マリーナと呼ばれた少女は男の方に首を回すと言葉を返す代わりに頭だけぺこりと下げ、関節が軋む音を立てながら足を動かし、腕を動かして向こうの方へと静かに歩き始める。男はそんな様子を何も言わずに眺めていたが、少女が歩き始めると後を追うように彼女の背中を目指してゆっくりと歩き始めた。

リビングには既に数人、先客がいたらしく各々好き勝手な行動を取っていたが少女と男の姿を見るなり全員ソファーや椅子に座る。

革張りのソファーに腰掛けているのは二人。高級そうなスーツに身を包んだ、長身の

ティーポット頭と同じような服装をしたランタン頭。そして肘掛け椅子に座っているのはそれぞれ数人で、ふとストライプのパジャマを着た男が楽しそうに口を開く。

「おや、もう姫君はおねむの時間かい?」

朝日の差し込むリビングにしてはあまりに

すっとんきょうな事を口走るその男を呆れたような瞳で見つめながらキザな雰囲気の男がからかうような調子で言葉を返した。

「いいえ。もう朝ですよ、ミスター・スリーピング。ミス・ドールはおねむではなく

お目覚めなのです。」

「あれ、そうなの?ははっ、起きたんだ。

眠っていればずっと幸せなのにね。」

ミス・ドール。そしてマリーナ。二つの名前で呼ばれる少女はそれを気に留める様子もなくカーペットに座り込み、静かに唇を開いて声なき声を漏らす。彼女が腕や脚を動かすたびに少女の華奢な関節はぎいぎいと耳障りな音を立てて軋む。繋ぎ目も無く、ごく普通の人間の腕や脚であるというのに。

「して…ミスター・サーフィス。貴方がミス・ドールを連れてリビングに来るのは珍しいですね。一体どうなさったのです?」

「うん、実はね…マリーナの関節が錆びてきてるんだ。だから「ドクター」に診せようと思って連れてきたんだよ。」

「おや、それは大変だ!ミス・ドールが錆びておられるのですか!」

気障な男はややオーバーアクション気味に両手を広げ、目を剥いて驚いてみせる。

「ハッ!マリーナが錆びるわけねーだろ。

そいつは人間だぜ、ただのよ。」

冷めたような、嫌味なような口調が気障な男を嘲笑う。声の主は少し離れた場所に座っている、巨大な肉切り包丁を側の壁に立てかけた燭台頭らしい。

「…………ローウェル。私は、人形だよ。」

マリーナは静かに口を開く。今度はきちんと唇から声が溢れ、柔らかく冷たい声が燭台頭へと向けられる。

「…相変わらずつまんねーヤツ。

あー、やめだやめ。オレは戻って寝る。」

燭台頭は面倒臭そうに頭の炎をゆらり揺らすと肉切り包丁を持って立ち上がり、ずるずると引きずりながらどこかへ立ち去ってしまう。

「…マリーナ、気にしないで大丈夫だよ。」

笑顔の仮面をぶら下げた大男は心配そうにマリーナに声を掛けるが、マリーナがゆっくりと首を横に振ったのを見ると安堵したように肩を落とす。

「じゃあ、僕はマリーナをドクターの所に連れていってくるよ。またね。」

大男に連れられ、マリーナはゆっくりとした足取りで廊下の向こう側へと消えていった。

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