十九日目
泣きつかれて眠りについた幼子を、そっと布団に横たえる。
何しに来たんじゃい。
そうツッコミを入れない俺は某お薬レベルの成分で出来ていると言っても過言ではないだろう。早すぎたんだよ、きっと。
「……ふーーーん」
中途半端だったお昼寝を続行させるレフェリーの後ろで、獄卒はかくやとばかりにバットを床に付きバランスを取る獄卒オブ獄卒。
獄プロやね。つまり獄道。
何が珍しいのか部屋の中をキョロキョロ。もうそれちっこいのがやったから。お前の何千倍も可愛かったから。
フォンと弧を描いて持ち上がるバットが不穏。
思わずビクリと反応してしまった兄に気付く捕食者。
しまった?! 見つかった! テレレッ(発見され音)!
「なにその体勢?」
耐防御耐ショック姿勢。首と心臓をガードするのがマストなんだそうだ。殺気出したら意味無いらしいよ? だから抑えよう?
「あんたさぁ……小さい子には優しいとかどうなの?」
「ハハハ、なにをバカな」
心外ですよ。この場合は心害。やめろよ! 傷付くだろ! 俺は紳士勢じゃない!
やれやれ困ったとばかりに首を振る兄に、困ったもんだとばかりに息を吐く妹。どっちも困ってるってことで相殺されればいいのに。
フラフラと歩いたと思わば突然机の引き出しを開ける不審者。
「いや何してん」
思わず関西まで飛んじゃう俺の口。
「なによ? 別にいいでしょ」
いい訳が無い。
「おい! 人の部屋だってのに勝手に家探しするのがいいわけないだろ! どういう教育受けてんだ!」
「あんたに言われたくないんだけど……」
残念。俺は教育を放棄したので例外。
止めようにも止まらない妹にやきもき。だって奴は物凄く長い鈍器を所有してる。次々と開けられる引き出しに「そこは?!」「はんがぁー?!!!」などと叫ぶ。ハンガー?
――――なんてな?
バカめ! 貴様が何を探してるのかなんて釈迦の手の平ばりに分かっておるわ? 布団をピラっと捲ったことによって確信。どうやら兄の弱みを握りたいらしい。
こっちは妹の所持する下着の柄ぐらいしか知ろうとしなかったというのに……信じられない。等価交換を知らないのか? 兄の下着で満足すべきだ! 性癖というのはその人の核といっても過言ではないんだよ? そんなところを握ろうとするのは息子がいるお母さんか召喚術師ぐらいなものかと思っていたのに……!
さすがは女性! これがやがては母へと至る生物かっ……!
しかしこちらも隠すことに特化したプロ。
しかも俺なんて世間から自分まで隠してるんだから、妹程度に負ける訳がない。
ありきたりなところに隠すのはニュービー。
取り出しにくくとも難易度が高いところに隠すのが中堅。
全てここに、と言いながら頭を指で叩くのが
しかしこちとらマスタークラス。くくくく、いくら探そうとも無駄だというのに、愉悦愉悦。
声を張り上げながらも妹を下に見ていると、物理的にしゃがんでいた妹がポツリ。
「パソコンか……」
ひィやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!!!?!
常に起動させていたことが裏目に。妹が布団の前に置いてあるパソコンへと目を向ける。
「マインちゃん」
「放して」
いや掴んでもないけど。声掛けただけだけど?
「今、なんか欲しいものとか困ったこととかないかな? お兄ちゃん、マインちゃんが心配で力になってあげたくて……」
「キモい」
引き出したいのは本音ではなく譲歩なんだけど!
「落ち着くんだマインちゃん。パンドラさんって知ってる? あの人並みに後悔すると思うんだ」
俺が。
「だから引き返そう。ここがきっと分水嶺だよ! やったね!」
「何言ってんの?」
ほんとにね!
「大変なことになる……そう、マインちゃんの中の兄像がメタメタになってしまうかもしれないんだ! 底の底、地の底、を這いつくばるかのように……」
血の底を這いつくばるのは間違いがなく……。
「それなら大丈夫。既に限界よりも下だから」
なら安心だね。――とはならないんだけど?!
カタカタとパソコンを操作するマインちゃんに不整脈。ヤバい。殺される?! どうする?! 実力行使か?! バット! 一つ一つ開かれるフォルダがカウントダウン。ダメだ! 仕方ない! 魅せてやるぜ、俺の実力を!
「勘弁してください! どんな願いでも一つだけ叶えてあげますからぁ!」
全力土下座、祈りを添えて。である。
するとどうだ。鬼の手もピタリ。見たかよ。これが実力さね。
「……なんでも?」
「あ、同じ人を蘇らせるのは無理」
「一回はデキるみたいに言わないで」
そりゃ本場じゃないんだから。
ドキドキしながら雨乞いよろしく祈っていると、考え事してますとばかりに唇に指を添えていた妹がニヤリ。
ピーンと走る嫌な予感。
「なんでもね?」
引き籠もりが可能な範囲で、って付け加えてもいいかなぁ?
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