十八日目


 エンタングル!


 余りのフィット感に叫んでしまった。これは仕方ないな。仕方ないね。


 久々に戻ってきた布団との再会に、体が喜びに打ち震えている……。僅か三時間でも長旅だった。人は一生に於いて一番永い時を布団の上で過ごすとかそんな話はどうでもいいぐらいにリラックス。硬かろうが柔らかかろうがこの上がベストプライスなんだよ。体の問題じゃなく心の問題なんだよアンダスタン?!


 ゴロゴロと猫が臭いをつけるように離れていた時を取り戻すべく布団の上に転がり枕で顔をワシャワシャ。癒やし、ここにありました。


 昼寝が必要だという怠惰な生モノをソファーに寝かしつけて妹に丸投げするミッションをこなした警備員。俺の優秀さからスカウトが来るかもしれない。ごめん。俺、ここを捨てるなんて出来ない!


 サッと部屋に籠もって鍵を掛ければ妹も子供から目を離せないと追い掛けてきたのは文句だけ。ニヤリ。それにしても子供ってのは昼も寝て夜も寝るというのだから初耳。どういう構造してんだろうね。不思議。


 丁度いい疲労と満腹感から恋に落ちるより素早く眠りに堕ちる。サッとしてパッだ。


 サッとして……、


「あああああ!! ブエエエエエ〜!! あげでぇ〜〜!!」


 パッ……。


 おかしいな? 僅かばかり瞳を閉じただけだというのに、時計が2、3周……じゃなくて。


 引っ被ってた布団を除けて音の通りを良くすれば、パスパスというやけに軽いノック音と共に、泣き声がキンキンに響いてきやがる。


 くぅ〜、生き返るぅ。


 いや死んでいたかったよね。何故蘇らせたのか。死に戻りは何も良いことばかりじゃないんだよ?


 ゴロリと転がり立ちを決めて扉の前へ。


「ああああ!!! うあああああああん!!!」


「おっと、そこまでにして貰おうか?」


 ガチャリと一瞬にして三重のロックを外した警備する側。


 扉の前には驚いた表情のマインちゃんと驚きで泣き止んだ子供。なんだよ? 用があるならあくしろよ。


「うっく、ひっく」


 ダッと体当たりをかましてくる好戦的な生物に微動だにしない俺は力士の才能も備えているというのか? 天は俺に何物も与えたもう。でもこれはいらない。返します。


 体当たりからのサバ折りという将来が心配になりそうなコンボをかます女の子。そこは脚だから関節があるんだよ。無駄だよ? と論理的な説明で論破してやろうかとも思ったが、フッ。そこまで大人げ無くはない。


 頭ワシャワシャで勘弁シテやろう。


「なっ……! あ……」


 口をパクパクさせてるマインちゃんはどうしたのだろう? 鯉の真似かな? 新しい芸かな?


 その隙にグリグリと涙と鼻水を俺のハーフパンツで拭く子供。なるほど。そういう作戦か。やはり乙女だな? 侮り難し!


 新しい芸なら注目せねば気が済まないという籠もり人の習性を利用したトラップ……! やってくれる!


 そんな奴はこうだ!


 子供の脇に手を入れて再びの宙吊り。ふははは、何も出来まい! 重いからだっこに移行。すると今度は服にグリグリ。


「よせ。争いは何も生まない」


「うーうー。……ん〜」


 了承かな?


 それで? なに? なんなの君ら?


「あ、にぃ、兄さんが部屋のドアを開けるとか……」


 うん、マインちゃん。話し合おうか?


 どこに驚いているんだよ。そんなん割と開けるっちゅーねん。


 危険が無ければ。


 妹様単体なら無理だが、幼児というリミッターが存在することで危険水域は下がってると判断したのだよ。



 だから手に持ってるバットは置こうか?



 内心で幼女アーマーを装備した自宅の守り手は滝汗ですよ。どうするつもりだったん? それ?


 ノックかな。バットだもんな。


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