五日目
例え自宅だろうと、部屋の外は危険だということなんだろう。
パッチリと開いた目は覚醒を表している。おはよう。
なんてことだ…………もう1日が半分以上終わってるじゃないか! くっ、やはり昨日の激戦の疲れが出たようだ。抉るようなコークスクリュー打ってきやがった。テニス部。
無言の抗議のつもりで巻いた包帯を外す。ちょっと多め。やはり全身に巻くのはやや演出過多だったかもしれない。次はプラカードも装備してバランスを取ろう。
静まれ、俺の右腕! 用の包帯だったが、どこで役に立つか分からないものだなあ。ただ残念なことに部屋から出なかったため、妹に見せつける機会がなかったことだけが悔やまれる。
昨日の古傷が痛むため、今日は太極拳はお休みです。
扉を開いてアイテムをゲット。冷えた天丼を手に入れた。
しかし妹めっ。いつからあんなに可愛いげがなくなったのやら、兄は将来の嫁の貰い手が心配です。
モグモグと立ったまま天丼を頂きながら妹への仕返しを考える。最近では
これは妹への矯正だからセーフ判定。薄い本のモデルにしてやろうか。嫁さんにしたいって方が増えて将来も安心。やったね。
食べ終えたプラスチックの容器を丁寧に床に置く。それにしても他に器はなかったのかね? まるで買ってきたお弁当みたい。
つまりうちの母さんの腕がプロ級ということですな。
バタリと扉を閉めてガチャリと鍵を掛ける。
セーフティ。
家の中なのにこの防犯意識の高さよ。そのうちCMの依頼とか来ちゃうんじゃない?
まいったな……撮影は部屋の中で頼むぜ。
さて早速リベンジに取りかかろう。
スケブを取り出してエロい絵を描く。
モデルは妹。
犯罪ではない。フィクションだ!
くらえ! こうしてやる! こうしてやる! こんなこともしてやる! ええっ?!
大体の
ではペンを入れようとしたところで、ハタと気づく。なんてことだ。
下着の……細部が、わからない……だと?!
「なら見せてもらおう」
解決。
おっと、変態で紳士な俺だ。まさか妹に直接頼むなんて野暮はしない。ボコボコにされてまう。
こっそり部屋に忍び込む。ただそれだけさ。
そう決まれば善は急げだ。こんなに急ぐのだから善いことで間違いないだろう。誰だよ扉に鍵なんて掛けた輩は!
解錠して部屋を飛び出し階段を駆け降りる。まずは玄関で靴のチェックだ。オーケー誰もいないな。俺がいるんだ、安心して出掛けるといい。
素早く妹の部屋へ。
急いでいたから玄関チェック時の姿勢のままだ。四つん這い。這いつくばって進んだ。四足歩行の方が速いらしいからな。俺の急ぎ度が善行を突き抜けて徳に達せんばかり。
ああ、神よ…………あなたは何を望んでいるのですか?
妹の下着だ。
グッとドアノブを回してみる。開かない。シット! 自宅の中なのに鍵なんて掛けやがって! 常識ないんじゃないの?
ポケットからピッキングツールを取り出す。
バラリと扇状に展開。瞳の前でキュピーン。
ガチャガチャガチャリ。
この技の冴えよ。自分の才能が怖い。将来が有望過ぎてなんの職につくか分からないまである。
グッとドアノブを回す。開いた。なんて無用心な奴なんだ。
妹にはこの失敗から学んで欲しいため、ここは心を鬼に顔を笑顔にして部屋へ入る。
ちぃ! なんだこの匂いは! メス臭い匂い出しやがって! ビッチめ!
妹の部屋は、なんとかとか言うお香の匂いがした。テーブルの上にあるキャンドルがそうだろう。妹の将来を考えて没収。
部屋には、タンス、机、テーブル、ベッド、パソコン、本棚、姿見と置いてあった。俺の部屋は押し入れだけだが、こっちにはクローゼットがついている。
生意気にベッドだとお? こうしてくれる! こうもしてやる! ええ、こんなことまで?!
掻いてない汗を拭って、つけてないベルトをカチャカチャと締め直す振りも忘れない。
次に取り掛かったのはパソコンだ。
ヴーンという独特な音を出して立ち上がる。俺のより最新式なのか立ち上がりが早い。
真っ先に出たのはパスワード画面。
ふむ。
「いざよう空や人の世の中」カタカタカタカタ
開いた。
『乙女心と秋の空』辺りにしとけよ。捻りたくなったのか中学生。
とりあえず隠しフォルダを出しておこう。恥ずかしい写真がないかチェックだ。やましい意味じゃない。参考資料だ
おっと日記がある。後でじっくり読むためにコピーしていこう。
USBを差してコピーしつつ本命に取りかかろう。
まずはクローゼットからだ。ド本命はタンスだが、勝負的な何かが隠されているかもしれない。
ガパーっとクローゼットを開く、漁る、擦り付ける。
普通だ。真面目か。
ちょっとギャルっぽい見た目のくせに普通だな。露出が激しいのもない。
ぺっ。
さあ本命はタンスだ。
下の段から引くのが通だ。上からだと一々閉め直さなきゃならん。上から奥に落ちたとしも気付く。
グッと下の段を引いてみる。
宝の山、もといデッサンのための資料をゲットだぜ!
なってない。黒だとか赤だとかレースだとか紐だとか、紐があるんだが? なっちゃいない。
求めてるのは清純なんだよ! 真っ白な心なんだよ! あくまで心ですからええ。
しかしリアリティーを求めるためにスケッチしておこう。
丸まって入っているから、一つ一つ丁寧に床に並べた。仕方なかった。白や縞々もあった。よくやった。
しかし描き始めて、走る衝撃。一つの閃き。
そう。
リアリティーがないじゃないか……?! これでは只のパンツの絵だ!
なんてことだ……つけているところが見たい! できればポーズもとってほしい……!
だが、仮にも紳士と名がつく俺がそのようなことを直に頼めようか? 無理だ! あくまで芸術的観点からだが相手の気持ちも考えてみろ!
「ここまで…………ここまで、なのか……?」
悔しさのあまり下着をグッと握りしめる。転げ回る。
せめて模型があれば! 頑張ってラブな模型を買っていれば!
「無いものは無い。仕方ない。諦めよう」
下着の上を転げ回っていた体を止めて起き上がる。ふと姿見が目に入る。そこに映っている姿を見て愕然とした。
……なんてことだ。
「ああ、なんで気付かなかったんだ…………俺はなんてバカなんだ!」
モデルならここにいるじゃないか!
ハッハッハッハッ、まあ落ち着きたまえ。俺が下着を履くとでも思ってるんだろう? それは間違いだ。いくらなんでもそんな事しない。おいおい変態じゃないんだぜ?
俺がするのは、こう!
広げたパンツを頭に被った。
リアリティーの追求のために丸みが欲しかったのだ。なんという発想の転換。世界は俺を待っていた。
姿見で確認しつつスケッチを再開。フンフン、なるほどぉ、と唸りを上げる俺は芸術家になれるかもしれない。目指せ壁配置。
ッポイこともしておこうと、鉛筆の先を片目を瞑って眺める。
姿見に映るのは、パンツと俺と瞳の輝きが消えた妹。
超ホラーだぜ。
振り向きたくても振り向けない俺。これが金縛りってやつだろう。助けて神様。
ドサッという音が響く。鏡から覗いた光景では、妹が持っていた鞄を落としたようだ。意図せず落としたのか妹の視線がフラフラと鞄へ。
「違うんだ」
声はやけにスムーズに出た。火事場の馬鹿力だ。
ジィーっという音を鳴らして妹が鞄を開く。ゆっくり、非常にゆっくりと妹はラケットを取り出した。
姿見の中で妹はラケットを俺に向ける。あれ、そっちは面じゃないよ? やだなぁ~、それじゃあ球を打ち返せないぞ?
両手で振りかぶったそれは、とてもサーブのスタイルには見えなかった。
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