第5話 罠

鈴、こちらに来なさい


はい、大奥様


実は殿が悩んでいるのじゃ


何をでしょうか


殿が私に打ち明けてくれてな

近く、敵国が攻めてくるのだが

鈴のことを強く想うために

戦に集中できぬと

最近の殿の様子はどうだ


とても楽しそうにしておりますが


きっと、鈴の前では明るい表情をしていても

殿は辛い思いをしているはずじゃ


そうなのですか

私はどうすればよろしいでしょうか


夕食を持っていく回数を減らすのだ

殿は必ず理由を聞いてくるはず

鈴は体調が悪いといいなさい

表情も暗い顔をするのだ

鈴は殿のことを想っておるのだろう


はい、もちろんです


殿のためなら

何でもできるだろう


はい


辛いだろうが

殿のためなのだ

どうだ


わかりました

それで殿の辛さが消えるのなら

そうしましょう




殿、実は言いにくいのですが


どうした、定


鈴は、密かに想っている人がいるような気がするのです


なんと

それは誰だ


それは私の勘違いかもしれませんが

殿が大事にしていて

位の高く優れた武将ではないかと思います


なぜだ

そう思うのだ


城に頻繁に入って武将が鈴と会っているのを

奥方達が見たそうです

実は私も・・・

いえ、見間違いです

鈴に限って・・・


なんだと

そいつは打ち首にする

誰か聞いてこい


直接、鈴に聞かれたらどうですか

私も何度も聞くのですが

固く口を閉ざしております

なんだか悩んでいるのかもしれません


そうか

私は鈴を愛している

直接、聞くことは辛いな


でも、私の思い違いでしょう


そうか


きっと思い違いです


そうだといいが


殿の魅力に勝てぬ者はおりませぬ

やはり、殿がおっしゃられるように

直接に聞くのはやめて

様子を見られるのがよろしいかもしれません


そうだな

そうするとしよう



お殿様、夕食を持って参りました


鈴、顔色が悪いぞ

何かあったのか


いえ、お殿様こそ

何か悩んでいる様子


いや、気のせいだ

今日は一人で食べる


わかりました




今日も顔色が悪く

元気がありません

私が夕食をつくることはやめた方が

いいのではないでしょうか


いや、鈴の顔を見られるだけでもよい

最近、戦のことで悩んでいてな

それで疲れているんだ


やはり、そうですか


なぜ、そのようなことを言う


いえ、そうではないかと思いまして


鈴はどうかしたのか


いえ、何もありません


そうか

それなら良いが



大奥の間ににて


鈴、来なさい


はい、大奥様


最近の殿の様子はどうじゃ


はい、元気がなくて

理由を聞きましたら

戦のことで悩んでいるとのことで


やはり、私が言ったとおりだろう


はい

その通りでした


鈴、お前は殿のことを想っているだろう

殿がこのままだと、この国は滅びてしまうだろう

お前を可愛がってくれた人達も死ぬことに


それは


それ以上に殿を苦しませる気か


いえ、それだけは


悲しいが、方法がないわけではないぞ


どのような方法でしょう

お殿様が元気になるのであれば

何でもいたします


ただ、辛いぞ


大丈夫です


わかった

良く考えてみなさい

鈴がそばにいるから、殿が悩むのだ

これ以上言わなくともわかるだろう


わかりました

私がこの城から出ていけばいいのですね


残念だがそれしかないだろう


そうですね

でも、どこに行けばいいのでしょうか


ここから、隣の国へ行かなければ見つかってしまうだろう


そうですね


私の知っている者に

国について詳しい者がおってな

隣の国に行く裏道を知っておる

わかったな


はい

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