第43話:早すぎる再会と別れ
「ん? あれは……誰だ?」
カグツチの視線の先。アドニスの背後に見知らぬ影が突如現れた。
そして次の瞬間、アドニスの結界が膨張すると、触れていた炎剣がまるで幻だったかのように消えた。
「な……ゼ?」
残火の騎士王のその呟きと共に、カグツチがありったけの炎と魔力を込めたその首へと叩き込んだ。
「ゴアア&%#$&%#$&%アア&%$&%$アアアア!!」
カグツチの斬撃によって爆炎が爆ぜ、残火の騎士王の首が深く切り裂かれた。立っていられず、思わず地面へと膝をつく残火の騎士王だったが、まだその火は消えていない。
「アドニス君!」
肩から離れたカグツチの叫びと同時に、門の上のいたアドニスが困惑気味になりながらも飛翔。その杖をまるで剣のように掲げると、その先端に岩で出来た斧のような巨大な刃が生成される。
「はあああああああ!!」
巨大な岩の大斧を振りかぶったアドニスは、落下する勢いのままそれを残火の騎士王へと振り下ろした。
轟音と共に、残火の騎士王が大斧に押し潰され――沈黙。ついにその火は消え、巨体が灰になり崩れていく。
「倒し……た?」
杖を未だ構えるアドニスの下にカグツチが声を掛けた。
「多分な……だが、アドニス君、さっき、君の背後にいたのは誰なんだ」
「……分からない。気付いたら後ろにいて、でもすぐに消えたんだ……」
「助けて……くれたのか?」
「それも分からない。けどあの子が何かしたせいで、あの炎剣を防げたのは確かだよ」
アドニスがあの少女のことをカグツチに説明する。
褐色の肌に肩で切り揃えられた黒髪。身体には露出の多い踊り子のような衣装を着ていて、その上には薄手のローブ。右腕には手甲と一体型になった剣を装備していた。
その特徴は、ドラグレイクの南に位置する〝砂老国〟の民と類似している。
「なぜ……砂老国が?」
カグツチがそうアドニスに問いかけた時、風が吹き、目の前の灰の山が飛ばされていく。
「嘘だ。そんな……」
その灰の山が崩れていくのを見たアドニスが、驚きのあまり杖を手から落とした。
なぜなら、灰の中から首が千切れ、身体を何かに押し潰された死体が出てきたからだ。
頭には王冠が乗っており、苦悶の表情の張り付いたその顔は――まさにハルヴェイ・クロンダイグその人だった。
☆☆☆
東門より少し離れた屋根の上。
「感動のご対面ですなあ」
意地の悪い笑みをアゥマが浮かべた。彼の秘術によって魔物と化したハルヴェイとアドニスの戦いは、まさしく彼によって仕組まれたものだった。
「しかし……思ったよりもずっと竜王が強い。困りましたな……姫様にどう説明したら良いのやら」
そんな独り事を言っていると、アゥマの左腕がブレた。それは視認出来ないほどの速度で、何やら文字が書かれた札を懐から取り出し後方へと投げた動作だった。
「独り事を盗み聞きとは、感心しませんな」
アゥマが投げたお札が突如見えない壁にぶつかり、火花が散る。
すると周囲の景色が歪み、褐色肌の少女が現れた。少女は剣と手甲が一体化したものをアゥマへと向ける。
「バレていたか」
「周囲の風景を取り込み、それを展開することで、姿を消したように見せるその技術……かつてこの星を支配した超魔導文明の
「そこまで知っているなら話は早い。今度こそ……決着を付けてやるよ
少女が殺気を纏う。
「ふむ……なるほど、先ほど竜王があの一撃を防げたのは其方の力添えがあったからか。しかしこれまでは中立を保っていたくせに……どういう風の吹き回しでしょうな?」
「まだ、竜王を覚醒させるには早すぎるからだ! お前も……魔王も狂っているのか!? こんな無茶苦茶な侵略をして、もしあそこで万が一竜王が覚醒していたら大変な事になるぞ!」
少女が叫ぶが、アゥマはどこ吹く風といった様子だ。しかし、その体勢に隙はない。
「狂気こそ……我らの本懐にて。砂老国までもが参戦するとなると……此度の戦争は愉しくなりそうですなあ」
天を仰ぐ、アゥマの周囲にいくつもの風が渦巻き、それはやがてイタチのような獣に変化していく。その尾は鎌のようになっており、ゆらゆらと風に乗って揺れている。
「刻みたまえ――〝
鎌鼬と呼ばれた獣達が少女へと殺到する。
「くだらん技だ――私はグラッサ! 砂老国の戦士にて、守人である! 貴様らを罰する者だ!」
少女――グラッサが左手で円筒状の柄を腰から抜いた。それは金属製であり、刃も柄頭もない不思議な形状をしているが、アゥマはそれもまた
「ほう……これはこれは……〝
アゥマの目の前で赤光が乱舞する。
グラッサの左手の筒からは禍々しい赤い光刃が伸びており、それと右手の剣の二刀流で、まるで円舞かのように鎌鼬達を斬り刻んでいく。
「素晴らしいですな」
あっという間に鎌鼬を全滅させたグラッサがアゥマへと接近する。
「やれやれ……今日は
その言葉の途中でアゥマが切り裂かれ、白い紙へと変化する。
「めんどくさいのはお前だろうが……」
グラッサが空気を焦がす赤い光刃――〝
「あんな甘ちゃんに星の命運を賭ける事になるなんて……何かの間違いだ」
それだけを呟く、少女が周囲の景色に溶け込むように消えた。
残るのは灰と、僅かな火の匂いだけだった。
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