第20話:魔王討伐の命(クロンダイグ王国視点)


 クロンダイグ王国、王城――玉座の間。


「これは……どういうことだ?」


 玉座から降るその低い声には怒りが入り交じっており、ひざまずく二人の王子のうちの一人――ベラノ第一王子が顔を上げた。その手には、最近王都で流れているとある噂について調べた結果が記された紙があった。


「す、すみません父上……ですが、西方の魔物襲撃などに気を取られており……て、てっきりもうあいつは死んでいるものとばかりに……」


 その歯切れの悪いベラノの言葉に、クロンダイグ王が顔を怒りで歪ませた。


「愚か者が……。開拓者に対する始末は貴様の仕事だろうが! なぜそんなことも満足にできん!?」

「そ、それは! まさか影がやられるとは想定外ですし、サリエルドの軍を退けるほどの力があるなんて……」

「国とは……治世とは……そういうものだろうが。なぜすぐに動かなかった? なぜすぐに事実か確かめなかった?」

「……すみません」


 ベラノはもはやそう言って頭を下げる他なかった。心の中では、命令するだけのお前が偉そうに言うなと怒り狂っていたが、顔を出すことはない。


「かはは……兄弟揃って無能と思われたら困る。父上、俺に行かせてください。何、俺の騎士団だけで事足りますよ。魔王だの竜王だのなんて言葉がただの虚言であることを俺の剣で証明してみせます」


 ベラノの隣に立っていた長い金髪の青年――キール第二王子がそう、王へと提案する。


「……駄目だ。貴様には西方に現れた、魔物を討伐を命ずる。なんでも魔物の長も出現し潰滅的な被害が出ているそうだ。全く……忌々しい。やはりあいつが……」

「――はっ、かしこまりました」

「ベラノ、貴様が何とかしろ。軍は好きなだけ使って構わん。さっさとかの地の騒乱を平定せよ」

「で、ですが……仮にも同じ王国内であり、奴は未だに立場としては第三王子です。それを堂々と軍を動かして討つのは大義名分が……」


 そのベラノの言葉を聞いて、王が鼻で笑った。


「お前は愚かだな。考えろ――奴を追放したと同時期に王国内、いや大陸各地に魔物が出現した。そして奴は魔物を率いているという。これから導き出される答えは……」

「まさか……!?」

「都合が良いではないか……奴が魔物の王、魔王と呼ばれているのなら。大義名分がこれ以上必要か? それにあまりこのままの状態が続くと……やがて矛先が我が王家に向かってくるぞ。なぜそんな危険分子を野放しにしているのだ、とな」

「それは……」


 王が立ち上がり、剣を抜いた。


「ベラノに命ずる! 軍を率いて、東方に潜む魔王を討伐せよ! するまでは――帰ってこなくていい」

「はっ!」


 ベラノは唇を噛みながら、まるで追放処分のようなその命令に――静かに怒りを滾らせたのだった。


「アドニス……! 絶対に許さん……!! くそっ! 行くとなると留守の間も問題ないように内部工作をしなければ……くそ! くそ!」


 こうしてベラノはなんやかんや理由をつけて出陣を勿体ぶると、その数週間後に、魔王討伐軍として正式に王都を発ったのだった。


 だが、その行動は――あまりに遅すぎた。

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