第18話:第一次ミルムース防衛戦その2(ざまあ)


「どうなってやがる!?」

「分かりません!? ですが――後続は全滅したかと……」

「有り得ん……くそ、村についたら全員皆殺しだ!!」


 ビスが残り数騎まで減った部下を見て、激昂する。


「ビスさん見えてきました!」


 部下が指差す先には――村の入口を示す粗末な門があった。


「突破するぞ!」


 ビスがそう言った瞬間――門から矢が飛んでくる。


「舐めるなよ村人風情が!!」


 飛んでくる矢をビスが斬り払い、突撃。部下達も盾で塞ぎつつその後についていく。


 だが、矢の狙いが段々と下へと向かっていき――


「っ! まさか馬を!?」


 ビスがそれに気付いた瞬間、矢が馬の目へと突き刺さり、転倒。


「ちっ!!」


 部下の馬にも次々と矢が刺さり、全員が咄嗟に馬から飛び降りた。


「くそ!! ただじゃ済まさねえぞ!!」


 ビスが憎悪を滾らせて、腰の剣を抜いて疾走。それに、部下達も続く。


「――ったく。ティアマトめ、撃ち漏らしがいるじゃねえか」


 そう言いながらも、嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべて門の中央で仁王立ちしていたのは――グラントだった。


 その背後には、槍と盾で武装した自警団が控えていた。


 グラントを見た、ビスがすぐに、それが只者ではないと察した。


「――あいつは俺がやる。お前らは村人を皆殺しにしろ。次期に北から頭領が来る。それまでに仕事しとかねえと俺らが代わりに串刺しになるぞ!!」

「はい!!」

「てめえの相手は俺だ!!」


 ビスが剣をグラントへと振りかぶった。


「強い奴が残ってて良かったぜ。このままここで待ちぼうけだと格好が付かねえからな!」


 それをグラントが両手にぶら下げた片刃の曲剣で受けた。


「よお、一応、名前だけ聞いといてやるよ」


 グラントが挑発するようにそう言うが、ビスがそれを鼻で笑った。名乗りなど前時代的なことをするなど馬鹿らしいとばかりに。


「貴様のような猿に、名乗る名などない!!」

「ああ……そうかい!! なら死ね、名も無き雑魚が」


 グラントが左右から斬撃を放ちつつ、自警団の奮闘を横目で見ていた。


 彼等は堅実に、剣を盾で塞ぎ、先端を尖らせた木槍を突き立てた。


「ぎゃああ!!」

「なんだこいつら!!」


 部下が次々やられていくが、ビスは気にせずグラントの猛攻を防いでいく。見た目に反して、軽い攻撃にビスが笑う。


「その図体は飾りか? 軽すぎてあくびが出そうだ!」

「その余裕、いつまでも続くといいな!」


 グラントが気にせず、連撃を叩き込む。器用にそれを受け流すビスだったが――


「……?」


 速度は同じだが――なぜかその一撃一撃がだんだんと重くなってきていることに、ビスが気付く。


「しまっ――」


 それが、スキルの力だと気付いた時には――ビスの剣があっけなく弾かれた。


「じゃあな――」


 そう言って、グラントが右手の剣でビスの首をあっけなく斬り飛ばした。


 それと同時に、最後の兵士が自警団にやられ、沈黙。


「……勝った……勝ったぞ!!」


 自警団がその勝利に震えようとした瞬間に、しかしグラントが檄を飛ばす。


「まだだ! まだ終わっていない! 次が来るかもしれない! 油断をするな!」

「……! すみません! おい、矢を補充しろ!」

「おう!」


 自警団が再び気を引き閉めて補充を行う中、グラントはジッと西方を見つめた。


 だが彼は分かっていた。おそらく、ここまで攻め込まれるのは――今のが最後だと。



☆☆☆


 ミルムース村南方。


「……これ、私の出番ある?」

「あはは……ないんじゃないかな? ユグの〝人食い森マンイーター〟から脱出できるのはよっぽど運の良いやつだけだよ」


 スコシアの目の前には――鬱蒼とした森が広がっていた。その中から、この南側へと回り込んできた部隊の悲鳴が聞こえてくる。


「はあ……ほんとあんた達って規格外ね。一体どれだけの魔力があればこんな芸当が出来るのかしら」

「人間の魔術は効率が悪いんだよ。全部、自分の思い通りにしようとするから。そうじゃなくて、魔術の方をそういう風に動かすんだよ」

「……難しい話ねそれ」

「理解できた人間は歴史上でも一握りだけだよ」


 なんて会話していると――指揮官らしき男がボロボロになりながら森から出てきた。


「で、出られた! た、助けてくれ! あ、俺は使者のラルドだ! 戦場に無理矢理連れられてきたんだ!」


 そう、その男――ラルドが叫ぶのを見て、スコシアとユグドラシルが顔を見合わせた。


「だってさ。どうするスコシア」

「そうねえ……使者は殺すなって言われてたけど……」


 その様子を見て、ラルドは愚かにも剣へと手を掛けていた。


 相手は子供に、接近戦に弱い女魔術師。剣の腕にさほど自信はないが、接近戦なら女子供には負けないと踏んだのだ。


 だから、助けを乞うフリして近付き……


「馬鹿め!! 死ね!!」


 剣を抜いたのだが――


「――スピアルーツ」

「――フレイムランス」

 

 ユグドラシルが手を払った瞬間、ラルドの足下から木の根がまるで槍のように飛び出し、その身体を貫通――、


 絶妙に急所を外しているせいで、激痛に苛まれながらもまだ息のあるラルドへと――無情にもスコシアの魔術による炎の槍が命中。


 爆炎が木の根ごとラルドを炎上させた。


「あぎゃああああああ!! あああ!! ああ……」


 その場に残ったのは、黒い灰と剣、そして骨だけだった。


 やがて、森から悲鳴がやみ――南へと展開していたサリエルド軍が全滅した。


 残るは――北側のガシンジャのみとなった。

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