第6話 復讐しか頭にない悲しい生き物

 治癒魔法による療養で3日で宮本の傷は完治した。だが精神的な傷は癒えるどころか深くなる一方だった。

 療養後、全身に50キロの重しをつけて彼は訓練を積んでいた。その目は憎悪の炎で血走っており、近寄りがたい雰囲気を出している。


「駄目だ……こんなんじゃ全然だめだ! あいつをぶっ殺すにはまだまだ強くならねばならない! もっと激しい訓練をさせろ!」


「これ以上の訓練ですって!? 危険です! 身体が壊れてしまいますよ!」


「うるせえ! 俺の身体なんてどうでもいい! 力だ! 俺にはもっともっと力が要るんだ! あの野郎をぶっ殺すにはまだまだ力が足りないんだ!」


 俺は負けた。あのワタルに、俺は負けた。あの取るに足らないゴミそのものなオタクなんかと戦って……負けた。それも無様で完璧なまでの、圧倒的大敗だ。

 その傷は完璧で何一つ欠けるところがない宮本の精神をズタズタに引き裂き、ゴミクズのボロ雑巾になるまで徹底的に、地獄の底よりも深い傷となって彼の心に刻まれていた。




「宮本君、本当に大丈夫? とてもじゃないけど大丈夫そうに見えないんだけど……」


 宮本を含めて残り7名となった勇者の1人であるクラスメートの少女が声をかける。


「大丈夫だ。俺が大丈夫だと言ったら大丈夫なんだ」


 その目の下にははっきりとクマが見え、誰がどう見ても大丈夫そうには見えなかった。




 訓練を終え、虫も寝静まる頃……。


「……ああああああ!」


 宮本はベッドから飛び起きる。その目は憎悪でギラギラと輝いていた。


「畜生! 眠れん!」


 ワタルの事があまりにも憎過ぎて眠れない日々が続いた。自分を汚物程度にしか見ていないあの目がどうしても忘れられない。

 食事中も入浴中も、もちろんベッドに入って寝ようとしても、いつもいつも、常にあの目がそばにあって離れない。




「ええ!? まだ睡眠薬が足りないって言うんですか!? そんなにも薬に頼ってると身体に毒ですよ!?」


「うるせえ! 勇者様の命令だ! よこせって言ってんのが分からねえのか!?」


「……分かりました。お渡ししましょう」


 渡された薬を水と一緒にがぶ飲みする。そうしてようやく眠気が来たのか彼はベッドに倒れるように寝た。




「まず話し合いするために立って話をしようか? 立てよ」


「テ、テメェ! 足をどけろ!」


「はぁ~? 何言ってんのかさっぱり分かりませんね~? もっと大きな声で言ってもらわないと」


 ……畜生。




「足をどけろっつってんのが分かんねえのか殺すぞボケ!」


「うるせえ黙れ! 耳障りだ!」


 ……畜生! 畜生! 畜生!




「いじめ? そんなことはやらないさ。いじめなんてやったらお前と同類になっちまうじゃねえか。借りを返してるだけだよ……『利子をたっぷりと』つけてな」


 畜生! 畜生! 畜生! 畜生! くっしょちっくしっようちくしょうちくしょちくしょちっっっくしょう畜生ーーーーー!!!


「クソがああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 宮本は自分の怒号で目が覚めた。寝汗で肌がぐっしょりとぬれている。


「お、おはようございます……ミヤモト様。最近毎日のようにうなされていますが、お体は大丈夫でしょうか? きちんと休めているでしょうか?」


「……俺は大丈夫だ。大丈夫と言ったら大丈夫なんだ、それより朝食の手配を頼む」


「は、はい。かしこまりました」


 宮本の様子を見に来たメイドに一応は冷静を装いながら頼みごとをする。




 ワタルに負けて以来、毎夜必ずあの日の光景が夢として再生されている。そのたびに彼は屈辱と憎悪で胸がブチ壊れそうになるほど滅茶苦茶な最悪な気分になる。

 起きている間も、寝ている間も、ワタルをこの手で殺さないと安心出来ない……許せん。絶対に、許せん。


 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、高いコミュ力、生徒会長……全てにおいて完璧な宮本に、

 あろうことか最底辺の虫けら未満であるスクールカースト最下層に所属するワタルに付けられた傷は、あまりにも大きかった。そして、あまりにも深かった。


 少なくとも全ての存在に優越感を抱く宮本を復讐の大鬼に変える位には。今日も彼は憎悪に満ちた牙を研ぐ……もはや彼の心の中には復讐以外に何もなかった。




【次回予告】


人類連合軍の首脳国への武力侵攻。ここを攻め落とせば連合軍の連携を崩せるだろう。負けられない戦だった。人類にとっても、彼にとっても。


第7話 「王都制圧戦」

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