第5話 気持ちいいわコレ

「……またやられたか!」


 魔族の侵攻で人類の領土と29人の勇者は数を減らす一方。既に9人が散華さんげしている。

 人類をまとめ上げる連合軍首脳陣には頭を痛める毎日が続く。頼みの綱である勇者はあと20名、それも大半がまだ訓練を要する未熟な者たちだ。


「大丈夫。俺がいます」


 首脳陣に混じって勇者代表として参加していた宮本が名乗り出る。




「ミヤモト……やってくれるか!」


「ええやります。勇者として最善を尽くします」


 召喚された勇者の中でトップの成績を残し、なおかつ戦に出ても生還している期待のエースが自信ありげに宣言する。


「お前ばかり働かせてすまない……でも、もうお前だけが頼りなんだ。必ず生きて帰ってきてくれ」


「承知しました。必ずや大義を果たして見せます」




 フォルセネス国陥落から1ヶ月。早くも隣国を制圧するために魔族軍が動いた。やはり今回の戦も3倍以上の兵力差があり、一方的な試合で終わるのは誰もが目に見えていた。


「ハァーア、めんどくせえな。人類ってどうしてこう、往生際が悪いんだろうなぁ? さっさと降伏しちまった方が良いのにどーしてまた徹底抗戦するんだか」


「まったくだ。どう考えたって挽回のチャンスは無いってのによくやるぜ。俺にはよくわからん」


 ここ2~3年の人類と魔族との戦争は兵力差などで戦う前から魔族側が「勝って当然」な物ばかりなため、正直前線の兵はだれていた。

 そんな「だれた」兵相手でも負ける戦しかできない人類は既に「崖っぷち」どころか「崖から突き落とされて空中を落下している」状態だった。




 あとは遅かれ早かれ滅亡を待つばかりの人類。その切り札である勇者と、魔族に伝わる予言の子。2人が戦場を介して交わった。


「また会ったな、宮本!」


「ククク……会いたかったぜワタル。ぶっちゃけあの時は油断してた。正直、お前の事をめてかかってたよ。今度はしくじらねえ……全力でブッ潰してやるぜ!!」


 宮本が襲い掛かってくる!


「かえんぎり!」


 彼が炎をまとった刀身でワタルを斬りつける、その瞬間!




 ピコーン!




 ワタルの頭に電球が灯る。


「かえんぎりを見切った!」


 ワタルは鮮やかな動きで宮本の「かえんぎり」を回避する。


「!? な、何だ!?」


 ダメージを与えることができなかった……偶然か? 宮本は再度魔力を込めて剣に炎を宿らせる。


「かえんぎり!」


 再び宮本はワタルを斬りつけるが、再び彼は回避してしまい、かすりもしない。




「くそっ! ならば……」


 宮本は秘策を繰り出す。


「メタルぎり!」


 メタル製の魔物や、金属製の鎧を着た兵士にも致命傷を与える強烈な一撃が放たれる。が……




 ピコーン!




 ワタルの頭に再度電球が灯る。


「メタルぎりを見切った!」


 これで3度目。ワタルは見事な動きであっさりと回避してみせた。そしてそこから流れるような動きでジャンプして宮本を斬りつけた……『強撃きょうげき』だ。

 慌てて勇者は防御の態勢をとるがその防御をムリヤリこじ開けられ、致命傷ではないが左腕が使えなくなる程の重傷を負う。


 次いで『重鉄じゅうてつ』製の大剣で宮本の胴体に向かって横にぐとアクセル全開で走行中の車にぶつかりはね飛ばされたかのように彼の体が宙を舞い、地面を転がり大の字になる。

 重たい何かで殴られたような衝撃で、体の感覚に違和感を抱いている。




「!? 何が、起こっているんだ!? なぜ攻撃が当たらないんだ!?」


「冥土の土産に教えてやる。こいつは『見切り』だ。1度見切りさえすればどんな技でも相手の技を100%の確率で回避できる。今さっきかえんぎりとメタルぎりは完全に見切った。何度出してこようが俺には通じない」


 そう言いながらワタルは宮本の顔面を全体重をかけて踏む。




「まずは話し合いするために立って話をしようか? 立てよ」


「テ、テメェ! 足をどけろ!」


「はぁ~? 何言ってんのかさっぱり分かりませんね~? もっと大きな声で言ってもらわないと」


「足をどけろっつってんのが分かんねえのか殺すぞボケ!」


「うるせえ黙れ! 耳障りだ!」


 ワタルは宮本の顔面を思いっきりる蹴りつけ、再び踏む。




 最高だ。


 


 圧倒的な力で弱者をいいようにいたぶるのは最高にキモチイイ。それも長年の恨みつらみをぶつけるとなおの事最高だ。もちろんやったことはないがヘロインをキメてもここまでの快楽は無いだろう。


「いや~楽しいわ。これってメチャクチャ楽しい。お前がハマる理由分かるぜ。うん、楽しくて楽しくてたまんないわ」


 本当に、心の底から楽しんでいるのであろう。うっとりとした表情を浮かべながらワタルは宮本を見つめる。




「楽しいか?」


「はい?」


「俺をいじめて楽しいか?」


「いじめ? そんなことはやらないさ。いじめなんてやったらお前と同類になっちまうじゃねえか。お前にされた事に対する借りを返してるだけだよ……『利子をたっぷりと』つけてな」


 そう言ってワタルは宮本の顔面を踏みつつ彼の足目がけて思いっきり剣を振り下ろす。

 ボキィ! という鈍い音と共に宮本の右足が『人体の構造上絶対に曲がらない箇所』が『不気味な方向に』曲がり、激痛に思わず彼は叫ぶ。




「ンン~。実にNICEナイスな叫び声だな。心にしみでスカッとするぜ」


「ハァハァ……クソッ! 今回は貸しにしとくからな!」


 宮本はポケットから握りこぶし大の青い石を取り出し、地面にたたきつけて割る。その瞬間、彼の姿がフッと消えた。


「……この石、まさかあの時の?」


 ワタルは残された破片を見てふと気づく。以前シェラハに助けてもらった時、彼女はこれよりもずっと小さいが似ている石を使って、魔都まで瞬間移動した事があった。

 おそらく魔族と比べれば魔力の低い人間にも扱えるように改良したものだろう。




「……逃げられたか。まぁいい。またブチのめせばいいだけか」


 ワタルは戦線に復帰し戦いを再開した。




【次回予告】


命だけは助かった宮本。だが逆に言えば『命しか』助からなかった。自信、プライド。


そのほかありとあらゆる精神的な優位性をズタズタに引き裂かれ、宮本は復讐の鬼という次元に収まらない、もはや復讐することしか脳に無い悲しい生き物へと堕ちていた。


第6話 「復讐しか頭にない悲しい生き物」

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