第39話 暴れる王子。
「ルシファリオの奴め!俺より目立ちやがって!!」
大きな声を張り上げ、部屋の中にある装飾品を壁へと投げつける。
荒れ狂う一人の王子がそこに居た。
近くに居る従者達は、主人の怒り具合に恐れをなし、止める事も出来ずに茫然としていた。
中には、相槌を打つもの迄いるような状況である。
「アイツは、不正をしたに決まっています。」
「そうです。卑怯な奴です。」
「如何にもそういう恥知らずな事をしそうな輩ではありませんか?」
怒り狂う主人に同調し怒りの増幅を測り、自分に八つ当たりされない様に必死である従者達。
メイドにいたっては、恐ろし過ぎて『ひぃい。』と声をあげるばかり。
その様子を見てこの部屋の主人はさらにイライラを募らせる。
「そんなに私が怖いか?あぁん?!」
「ひぃ。お情けを。お許しください。カストロ殿下。」
「やかましい!黙っていろ!!」
「ひぃ!」
カストロ王子はメイドの頬を片手で掴み、持ち上げる。
持ち上げられたメイドは怖れを含んだ目をカストロへと向ける。
いままでの経験から何をされてしまうのかを悟っているメイドを、壁へと放り投げる。
メイドはドカッと音を立てて、壁にぶつかり、そのまま床へとズリ落ちる。
「つまらん!」
カストロ王子は、ルシフォリオ王子が自身の言う事を聞かずに、有名になる事が気にいらない。
王位を狙う訳では無いが、それでも自分の優位を保ちたい。
せめて下の弟だけでも。
そう思うカストロ王子の他の王族は、優秀な者が多い。
ある意味で、王族の中で劣等生であるカストロ王子にとって唯一年下のルシフォリオ王子が居る事で、今まで心の平安を保っていたのである。
その年下であるルシフォリオ王子が優秀である事で目立ってしまうという事はカストロ王子にとって喜ばしくない方向へ進んでいるという事である。
「忌々しい奴めが!!」
荒れ狂うカストロ王子を従者の一人であるレキシドがカストロ王子へと近づくと耳打ちした。
「カストロ殿下。このままではゆっくりする事もままなりませんな。」
「うむ。」
「本日もあの場所へお出かけになられますかな?」
「しかし、問題ないか?」
「はい。準備は怠っておりません。いつでも大丈夫でございます。」
「ふむ。この城の中の者には出来ぬからなぁ~。よかろう。今日も行くとしよう。」
カストロ王子の返事を聞いたレキシドはニヤリと口角を上げる。
「かしこまりました。あの者達も喜ぶ事でしょう。では直ぐに準備を終わらせておきますので、一度失礼します。いつも通りで構いませんか?」
「うむ。いつも通りで良い。」
尊大に返事をするカストロ王子を見て蔑む視線をレキシドは見せるがそれも一瞬であった。
レキシドは深く頭を下げると部屋を出て行く。
その一部始終を見ていたギリングは主人の機嫌が治ったと思い傍へ寄る。
「殿下。よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「レキシドとは何をされていらっしゃるのですか?」
最近のカストロ王子は夜になるとずっとレキシドと共と出掛けて行く。
他には供を連れずに行くのだ。
カストロ王子とレキシドのみが知る秘め事となっている。
「お主には関係ない事だ。気にするな。」
「ですが、概要だけでも教えていて欲しいのです。カストロ王子の母君がお越しになられたりした時に困ります。」
「ふん!あの女が来るわけがない!だが、まぁ夜の訓練だとでも言えば良かろうが?それとも何か、俺がする事を全てお前に伝えねばならぬのか?」
怒気を含んだカストロ王子の物言いにギリングは怯む。
自分だけならまだしも、他に向かうと厄介であると判断したギリングは取り繕う。
「滅相もございません。私は馬鹿ですので、返答の答えを頂きたかっただけでございます。申し訳ありません。」
「ふん。まぁよい。全員出て行け。俺は疲れたから休む。」
「ではいつもの通りでございますか?」
「もちろんだ。カルーラを連れて来い。」
「かしこまりました。」
淀みなく答える事が出来たギリングはメイドを連れてそそくさと部屋を出た。
直ぐに、カルーラを呼びに行き、伽に向かう様に伝えると同僚のバリスタに街へ出る事を伝え、一人カストロ王子の所有するエリアから出て行く。
そのまま外へ向かう事無く、城の倉庫へと向かった。
王城内にはいくつもの備えとしての倉庫がある。
地下や別棟や各エリアの角部屋や中央など、数えるとキリがない程に用意されている。
裏切りや反逆などを繰り返し経験してきた歴史あるフリーア王国の備えである。
常軌を逸したと思えるほどの準備がなされている。
魔法鞄のある世界だけにスペースをさほど取らずとも用意しておけるのだが、敢えて見せる事も必要であるとし見える様にしてもある。
表に出ているのは10万の兵を動員出来る程の武器防具に道具である。
裏には更にため込んでいる。
非常食の食料も含めて100万の兵が一年以上の籠城に耐える事が出来る程だ。
もちろん弓で使う矢もあり得ない程用意されているのだ。
その中の一つの倉庫にギリングは向かった。
倉庫に着くと、真っすぐ奥へと向かい山と積まれた矢の裏手へと右に三歩分ほどズレた所の壁をノックする様に一定のリズムで音を出すとその壁がズズズ―っと奥にズレた。
そこへギリングは入って行き左へ姿を消した。
ズズズ―っと壁は元の位置に戻った。
倉庫の入口からは手前の矢の山により見えないその場所は、今はもう何も無かった。
静かに時間だけが過ぎて行った。
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