第38話 カブス公爵。


「忙しいのに悪いね。」



叔父であり陸軍大将であるカブス公爵は軽い挨拶をお互いに済ませると、そう言って私達にソファを進めました。

そして自らは私達の前にあるソファに腰を下ろしました。



「ルシファリオ。初めましてだね。昨年の誕生会には参加できずに済まなかった。」


「いえ。お忙しい身であるのはカブス公爵様も同じでしょう。ましてや国防を担うお方なのですから、そのような事はお気になさらず。祝文を頂けただけで十分です。」


「うむ。そう言ってくれると助かる。出来る事なら参加したかったんだけどね。」



事実、私のお披露目会の時には南東にある防衛拠点で防衛戦の総指揮官だったです。

小競り合いだとしても任務中に子供のお披露目会に来られる方が不思議です。



「それにしても、ルシフォリオは随分と優秀なのだね。方々から素晴らしいという評価ばかり聞くよ。私も鼻が高いよ。」


「ありがとうございます。ですがまだまだ若輩の身です。ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。」


「ふふふ。聞いていた通り、謙虚だね。ところで先の事は考えているのかい?」


「先ですか?」


「ああ。この先の事だよ。」


「カブス殿下。その件については・・・。」


「クラウディア、わかっているよ。別にどうこうしようという訳じゃない。純粋な将来設計を聞いているんだよ。他言しない事は誓うよ。別に王家に兄弟争いをさせたい訳じゃないから安心してくれ。で、ルシフォリオはどうしようと思っているんだ?」



カブス公爵様は心配と希望の混じった顔で私を見ます。

どうやら優秀な末弟というのが、カブス公爵様には似たモノをお感じになられたのかもしれませんね。

私は他人が言う程、自分が優秀であるとは思っていません。


ですが、他人の評価とは他人にどう見えているのか?

という事が重要なのです。

それを前世で痛い目をみた私はよく、よ~く知っています。



「そうですね。私は・・・。」



ですが、前世の記憶がある私が目標としている家族を探すという事は言えません。

言えば、キチガイか頭がおかしくなった等と思われるかもしれませんし、転移者・転生者へのこの国の扱いがまだ分からないのに、迂闊な事は言えません。



「・・・私はこの世界を旅したいと考えています。先ずはフリーア国内を見て回りたいですね。その後はあてもなく世界を回るのも良いかも知れません。」



カブス公爵様は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔になり、固まりました。

となりでも同じ様にクラウディア先生は固まっています。

それほどオカシイ事を言ってしまったのでしょうか?



「くっくっくっくっく。あっはっはっはっは!」



突然にカブス公爵様はお笑いになられました。

それも大笑いです。



「おい。ルシファリオ。冗談だよな?」


「いえ。クラウディア先生。私は本気ですよ?」


「なっ?!こんなに優秀で,

魔法だろうが剣だろうが体術だろうが知識だろうが何でも高い水準でこなせてしまうお前が旅人だと?!望めば何にでもなれると言うのに?!」


「いえ。クラウディア先生。私はこれでも王族の端くれです。普通の方と同じ様に何にでも、というのは些か無理があります。」


「いや。だがしかし・・・。」


「いや。クラウディアよ。ルシファリオが正しい。このフリーア王国において王族は次代の王を目指すか、次代の王に乗り臣下として生きるか、平民になり国を出て行くしか生きてはいけない。」


「ですが、ルシファリオは特例の存在になり得るハズです。臣下になり忠誠を誓えば、これほど将来有望なのですから・・・。」


「・・・生きていけるとでも言いたいのかい?」



カブス公爵様は鋭い目をクラウディア先生に向けました。



「・・・申し訳ありません。」



クラウディア先生は、グッと飲み込むように口を閉じて謝罪を口にしました。

問題ないと答えたカブス公爵様の視線には厳しさがなくなり、私の方へと向けてきました。



「ルシフォリオは賢い子だと思っていた。だが、まさか旅人と答えるとは思っていなかったよ。面白いじゃないか。」


「面白いですか?」


「ああ。面白いよ。」



そう言ってカブス公爵様は大笑いを再開しました。

どうやら、ツボだったようです。

色々と想像なさっているのかもしれません。



「一日も欠かさずに訓練し勉強して自分を高めている人間の将来設計がまさか旅人だとは誰も想像しておるまいな。」


「そうでしょうか?」


「ああ。想定外も想定外だ。この俺がそうなのだから間違いないだろう。同じ境遇の俺が想像しなかったからな。まぁ俺の場合は適度にしていただけだが。」



そう言われると、何だか私が奇人や変人の類のような気がしてきます。

私は奇人変人なのでしょうか?

異世界から来た人間なら、旅は、世界の情景が気になるものでしょう?

ねぇ?



「よし、良いだろう。その将来設計の後押しを俺がしてやる。」


「はい?」


「旅人になりたいのだろう?他の兄弟に変に絡まれる事が無いように、俺から口利きをしといてやる。って言っている。」


「ああ。なるほど。ありがとうございます。」


「うむ。だからこれからも精進しろ。世界は広いぞ。」


「はい!」



こうして無事?

カブス公爵様との会談は終わりました。

終始、クラウディア先生は何事かをブツブツ言っていたが気にしない事にして、私とカブス公爵様は会話を楽しみました。

中でも父上の昔の話は面白かったです。

かなりイケイケのやんちゃ坊主だったらしいです。

今の姿や行動からはみじんも想像できませんね。


私はこの世界で新たな理解者を手に入れた・・・のかもしれないですね。

少なくとも、楽しい時間を過ごせたのは事実です。

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