第27話 模擬戦 その4


私達の本陣は山の中腹にある丘と呼べる場所です。


どの場所に本陣を設置するのかはいくつかのプランがありましたが、今回は敵側の情報により山の中腹にある丘の部分に設置しました。


私達は見張り役を泉前に二人、森に二人、ここに二人置いています。


私の班以外で見張りを二人ずつ置いているという状況です。


ツーマンセルで行動してもらっているのも、一人ではやられてしまう可能性が大きくなるからです。



「ここからだと、色々見えますね。」



やはり高い場所は見晴しがよく、森の中にでも隠れない限りは見えます。


泉にある敵陣には全員では7人ほどが見えます。



「三人は何処かに隠れている様です。」



「そうみたいですね。どこに隠れているのでしょうか?」



ここから見える場所には居ない様に思えますが、一人幻術士が居るので絶対とは言えません。


ただ、この付近に居る訳では無い様なので、今すぐにどうなるというモノではないです。


見張り役も気配に敏感な人を選んでいるので大丈夫でしょう。



「では状況の報告をお願い出来ますか?」



「はい。では私から。」



ジュネスが最初に報告をくれました。


内容は泉での敵の動きです。


泉には敵のアリソンさんが率いるD班の五人がやってきて陣地を設営したようです。


その後に私がブラームス君と戦っている間にテニス君が率いるB班が合流したようです。



「やはり、水系統の魔法や精霊が得意なアリソンさんを筆頭としたメンバーが泉の陣地の防衛ですか。」



「はい。」



今回、手に入れている情報にアリソンさん達が水系統の魔法が得意な班が構成されている事が分かった時点で一番の候補は泉であると考えていました。


なので、その対策が一番出来ていると言っても過言ではありません。



「しかし、本当に水の上位精霊と契約しているのでしょうか?」



「どうでしょうか?ただ、勇者が現実に居ましたから、居てもおかしくはないと思いますよ。」



同一世代にプレミア的なギフト系スキルを持つ者が多数存在するという事はよくある事です。


この世界のこの世代も多分に漏れず複数の存在が確認されています。


ブラームス君は勇者。


精霊の契約者であるのはアリソンさん。


同じクラスに存在するスペシャルギフト持ちがいます。


彼等は平民出身なので、平民にしかスペシャルギフトは授からないと思えてしまいます。


あくまでも確率の問題だとは思うのですが、訝しんでしまいます。



「レウコテアーという水の上位精霊との契約者だったね。」



「はい。個体名を持つ精霊ですから過去の上位精霊の様に強力な存在であると予想されます。」



この世界の精霊は個体名を持つ存在と持たない存在で大きく能力の差が出ます。


個体名は契約者が名付ける場合もあれば、既に名を持つ精霊もいます。


有名なのはウィンディーネやイフリートという個体名を持つ存在ですね。



「ただの契約なのですかね?寵愛や上位契約とかではないのですかね?」



精霊との関係性は、寵愛や上位契約というモノがあります。


寵愛は言わずもがな最上級であり、寵愛を受けし者はその精霊の力を十二分に発揮できます。


上位契約には幾つかの形がありますが、友愛・恋愛・親愛という名前を用います。


親和度によって精霊の力の発揮具合が変わります。


お互いの信頼や愛が必要なのが面白い所です。


私もチャンスがあれば契約してみたいと思いますが、誰もが出来る訳ではないそうなので出来るかどうかは運が必要かもしれませんね。


奴隷契約のような強制契約もあるそうなのですが、強制は嫌だと思ってしまうのは日本人としての記憶と教育の賜物ですかね?



「幻術士は敵陣にはいない。そうだったね?」



「はい。見える範囲での人数と気配の数は一致しています。」



つまり敵陣内には居ないであろうという事になるのだけど、これがまた難しいのです。


圧倒的に数ではこちらが有利だけど、不安材料がある為に守備隊を残す必要があります。


敵の隠れている数は三人ですが、姿が見えないか幻術を利用されると、5人では心許ない感じですね。


出来れば、幻術士も倒しておきたかったのですが、仕方がありません。


その幻術士と一緒に行動していると思われるのが、特殊職業の一つ【忍者】チヨさんです。


この世界は何でもありですね。


東方にある国の出身らしく、冒険者としてこの国に来ており、年齢が若かった事もあって応募して受かったという事です。


色々と事情がありそうですね。


あとのもう一人も特殊職業の一つ【武士】モリトキ君です。


この二人は恋人同士で一緒に冒険者として活動している仲間でもあります。



「厄介なメンバーが見えないのが嫌だね。」



「そうですね。」



幻術士に忍者に武士という構成は色々な意味で危険ですが、一度は手合わせをしたい相手とも言えます。



「では、プランはそのままで行動を開始しましょう。」



私は当初の予定通りに進める事にしました。



「攻めてきますかね?」



「私は来ると確信しているよ。」



私と私の班はここの防衛をする事になっています。


そしてそれ以外の全員で敵陣を攻めます。



「では、ダクトア君。アブレア君。デイトナさん。頼みましたね。」



「「「はい!」」」



三人に連れられてゾロゾロと班員達が続き山を下りていきました。



「私達も準備しましょう。」



こうして私達五人は迎え撃つ準備を始めました。

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