第18話 双子の貴重な時間。


「ふぅん。あの二人ね?」

「その様ですわね。」



双子の王女は窓から様子を伺う様に見ている。



「さっそく、虫が付いたねぇ。」

「ええ。予想通りですわね。」



髪の毛の色と眼の色の違いがある双子の顔や体の作りは全く一緒である。


寸分たがわぬその姿を辛うじて見分けているのはその二つの特徴的な色のみである。



「しかし、ルシフェちゃんも友達なら同性の者を作ればよいのに。」

「しかし、それは難しいのでは?」



「なぜです?」

「ルシファちゃんだから。」



「あぁ。」

「ねっ。」



二人はお互い思いついた内容を共有出来たようで、頷き合う。


彼女達にとって、ルシファリオの事以外は些細な事である。


兄弟姉妹の関係というよりも絶対的なファンである。


だからこそ分かってしまうし、わかり過ぎる事で勘違いを起こす場合もあるのだが。


ルシファリオの友達関係に口を挟むつもりは無い。


二人にとってはルシフェリオが楽しむ事が唯一の願いだからだ。


しかし、異性関係にはどうしても気を張ってしまう。


かわいい、かわいい弟がどこぞのメス豚に引っ掛かるなどあってはならない。


そう考えているのである。



「デルドラ。あの娘達の事を調べてくれるかしら?」

「些細な事も見逃してはダメよ?」



「かしこまりました。」



デルドラと呼ばれた者は執事服に一切の汚れや皺を見せず、優雅なお辞儀を済ますとその場からスーッと消える。



「デオドラではやり過ぎかしら?」

「良いわよ。やり過ぎるという事は無いわ。」



「そうね。」

「そうよ。」



フフフと笑う二人の笑顔は少し怖い印象を人に与える。



「セリア。悪い顔になっているわよ。」

「アリア。貴女も同じよ。」


「それはダメね。」

「そうよ。直ぐに治さないと。」



二人は、いつもの様な自然な笑顔になる様にと口角を優しく上げて、口元に手を当てて目尻を下げてニコリと爽やかな笑顔を作る。


この笑顔を見せられた普通の男は、堪らず惚れてしまう事だろう。


事実、彼女達の従者は彼女達に心底傾倒し忠誠を誓っている。


元暗殺者である執事デオドラはその筆頭と言えるのかもしれない。


恐れ多くて思いを告げる気を起こさせない程に、強烈なカリスマ性を持っているのだ。


唯一その事に気がついているのは、母上であるシャルロッテのみであろう。


しかし、それもホンの上辺に気がついている程度である。



「「さぁ。行きましょう。」」



準備を整えたセリアとアリアは馬車を出て行く。


それに黙って従う従者とメイド。


いつもと同じメンバーで向かう先は、いつもと同じ場所。


いつもと違うのは唯一、順番だけ。


ルシファリオが先に王宮へ帰っているという状況だけである。



「お帰りなさいませ。」



すれ違う王宮に努める従者やメイド達に挨拶を返しながら、廊下を進んでいく。


向かうはルシファリオの住居スペースとなっている王宮の東北棟一階の奥から二番目。



「セリアにアリアじゃないか。」



呼び止めて来た存在がいた。


セリアとアリアは『ちっ!』と内心で舌打ちをかましてから、声の主へと振り返る。



「「ごきげんよう。」」



そう言葉を残してその場を後にしようとするのだが、相手はそれを許そうとしない。



「おいおい。兄である第十二王子カストロに挨拶もそこそこに去るのは失礼では無いか?」



いつもルシファリオに見せる人を魅了する笑顔では無く、冷たい感情が溢れ出る様な印象を抱かせる顔をカストロへと向ける。



「「・・・。」」



「いや。何。近況でも話さないか?と思ってな。」



二人の様子を見たカストロは背中に冷たいモノを感じながらも何とか取り繕うと、話しだす。



「そうでしたか。」

「私達は元気です。」



「いや。そういう・・・。」



簡潔な返事をする二人にカストロは、まだ何かを言おうとする。



「カストロ王子殿下。我が主人達は急いでおります。火急の要件が控えており忙しくしております。どうかお許しください。」



双子のメイドの一人であるデヒアがスッと双子とカストロ王子の間に割って入る。

それを見て、カストロ王子の従者である男が同じ様に間に入る。



「そうでしたか。カストロ殿下も忙しい身です。殿下。また今度にされては?」



「う、う、う。そうであった。すまぬな。失礼する。」



従者の男の意見を聞き入れ、素直とはいかなくとも、聞き入れてそう返し、身を翻した。


その様子を見て双子のメイドとカストロの従者は無言で頷き合った。


そして、カストロ王子の後を押しかける従者の男。



「デヒア。あの男まで?」

「デヒア。やるわね。」


先ほどと違い、優しい笑顔になる双子はメイドのデヒアに顔を向ける。



「はい。」



それ以上を伝える必要は無いと簡素な返事を返すデヒア。



「流石ね。」

「後でゆっくりその話を聞かせてね?」



「かしこまりました。」



満足そうな顔になる双子はクルリと身を翻し、ルシファリオの部屋へ向かう。


その後を、メイドのデヒアと従者のデザイアが続く。


そして、ルシファリオの部屋をノックするとルシファリオのメイドであるカリナが出迎えてくれる。



「ようこそお越しくださいました。」



「「ルシファちゃんは何処?」」



「奥の執務室でございます。ご案内致します。」



「「ありがと。」」



そのまま、カリナの後について入り、案内のままルシファリオの執務室へと入って行った。


メイドのデヒアと従者のデザイアの二人は執務室には入らず、その手前にあるリビングルームで待機する。



「「ルシファリオ。お帰り。」」



「ただいまです。セリア姉上。アリア姉上。」



こうして、双子の二人は最愛の弟ルシファリオとの貴重で大切な時間を過ごすのである。

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