第17話 シード学園。


「そんな馬鹿な!何かの間違えでは無いのですか?!」



「間違いでは無い。どの試験官も、太鼓判を押し更に自身の受け持つクラブに入会させたいと言っておる。」



「それは王族の取り込み。王族に売り込みたい輩の過剰評価なのでは無いのですか?!」



クラウディアは物凄い勢いで、誇り高いハイエルフであり学園長であるベルタに詰め寄っている。


学園長ベルタはそのクラウディアを軽くいなして、距離を開けると、涼しい顔をしてクラウディアを見つめる。



「儂も直接見た訳では無いが、筆記の答案は見たが、あれはたしかに現実すれば凄いものであった。画期的な回答であったよ。じゃが、実技は試験官しかわからんのも間違いないが、あの様子では贔屓した感じではないのも事実じゃ。」



「しかし、いくら何でも、100点満点評価で200点は無いでしょ?!」



クラウディアが言う通り、評価シートにある点数はそれぞれ各項目に200点とある。


各100点満点なのに。



「それほど、規格外という事じゃろう。試験官共の意見では彼を100点とした場合、他の誰も100点にならない。下手をすると全員不合格になる。というのじゃから、仕方が無いだろう。」


学園長ベルタは困り顔でクラウディアを諭す。



「そうであっても、信じられません!」



その瞬間、学園長ベルタはニヤリと口角を釣り上げた。



「そうじゃろう。そこで、儂はお主に頼みたいのじゃ。」



「えっ?」



ポカンとするクラウディアに学園長ベルタは懇願するような顔でクラウディアを見つめる。



「この誇り高きシード学園の掲げる主義はなんじゃ?」



「はい。出自に頼らない厳格な評価・対応です。」



このフリーア王国の王都フリーダムにある学園はフリーア国立シード学園という。


建立依頼、このシード学園は身分・出自による差別を撤廃する事を主軸に置き公平な育成機関であり、優秀な人材を数多く輩出してきた由緒ある学園である。


クラウディアはその精神を骨の髄まで傾倒している者であり存在だ。


そして、このクラウディアは王族出身のボンバイエ公爵家の子女なのである。


ボンバイエ家はジャックロッサ・フリーアが公爵家は王族から離れた家とするべきという意見を持出して、後家名を起こした家だとされており、それ以後、王族から離れて公爵となった者は家を興す事になったとされている。


また、ボンバイエ家においては、生まれ持った身分より、生きて得たモノを重宝する一族であるという。


クラウディアはボンバイエ家の家訓とこの学園の主義を是としているのだ。



「うむ。その通りじゃ。そこで、儂がもっとも信頼するお主に担任をしてもらいたいのじゃ。わかるな?」



「はい。わかりました。私がかの者を厳しい目で審査し、評価致します。」



「うむ。頼むぞ。」



「はい!」



良い返事を貰った学園長ベルタは、下を向いた。


その笑顔はニヤケているが、クラウディアには見えない。



「どうなさいました?」



「うむ。クラウディアには苦労を掛けるなと思うての。」



「いえいえ。そんな事は気にしないでください。私は学園長の信頼が嬉しいのです。」



「そうか。そう言って貰えるとホッとするわ。」



学園長ベルタは笑顔のまま顔を上げてクラウディアを見る。


クラウディアは学園長ベルタが自分の言葉によって学園長が喜んでいると勘違いをしてしまったのである。


そしてクラウディアは学園室を出て行った。



「ふぅ。奴は真っすぐじゃな。」



悪い顔で笑う学園長ベルタは、部屋に差し込む夕日に目を向ける。



「あの盲目的な部分さえなければのぉ。」



学園長ベルタは、それ以上は口にしなかった。


学園長ベルタの胸中は、彼女のみぞ知るである。




◇◇◇◆◇◇◇




クラウディアは先の学園長ベルタとのやり取りを思い出し、改めてルシフェリオを見た。


あからさまに、言葉で注意を与えるが、それ以上はしなかった。


これからじっくり時間を掛けてメッキを剝がせばよい。


そう考えていたのだ。


絶対に不正はゆるさない。


この誇り高きシード学園において身分による差別があってはいけないのだ。


それを自分に言い聞かせる様に、改めて心に深く刻んだのだった。



「それでは、今日はこれで解散だ。今日は緊張で疲れたであろう。真っすぐ家に帰り体を休めて明日からの授業に精一杯励むように。」



「「「「「はい!」」」」」



クラウディアの解散宣言により、返事を返した生徒たちは各々帰り出した。



「先生。さようなら。」



「うむ。気をつけて帰るんだぞ。」



そんな生徒たちとの日常の挨拶のやり取りをしながらも、クラウディアは常に意識の中にルシファリオを入れていた。


当のルシファリオはそんな事になっているとは知らず、友となったばかりのカタリーナとジュネスと雑談を交わし、帰る準備をして席を立ち、クラウディアの元へと来た。



「クラウディア先生。これからよろしくお願いします。」



そう言ってクラウディアに対して頭を下げた。



「う、うむ。そうだな。よろしく。」



そう返すだけで精一杯になってしまったクラウディアは予想していなかったルシファリオの態度だったのだ。



「先生。さようなら。」

「さようなら。」



「おぉ。さようなら。また明日。」



一緒にいたカタリーナとジュネスの挨拶に我を取り戻し、何とか返事を返した。


怪しむ目で見るジュネスの視線に気がつかない程に動揺していたクラウディア。


疑問が頭を過ったクラウディアはそれを何処かに飛ばすように頭を振るのであった。

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