第16話 入学。
「・・・三年間を実りあるモノにしていきましょう。」
随分と固い文章になってしまいましたが、エルヴィンさんに頼んだのは私ですから、仕方がありませんね。
無事に挨拶を終え形式的な拍手をもらいつつ、私は自分に与えられた席へと戻りました。
ホッとした後の事はあまり覚えていません。
自分が思っていたよりもずっと緊張していた様です。
「学園長の話がなげぇ。」
ボソッと聞こえてくる愚痴は、地球での『あるある』でしたね。
格式や歴史を重んじる文化があっても、そこにいる若者にとってはただの長い話になってしまいます。
あれは、人望ある人が話をするから、皆聞くのであって、誰かも知らない人が話す話は長いだけですよね。
ありがたみがありません。
愚痴る人ばかりでは無い様なので、それなりに人望がある学園長なのでしょう。
「・・・。こうして、今年も王族の方が入学された訳だが、王族・貴族・平民等の身分はこの学園の中において関係は無い。お互いに切磋琢磨し成長してもらいたい。」
締め括りだけは覚えています。
切磋琢磨っていい言葉ですよね。
そして現在は、教室に居ます。
教室は大学の講義室的に檀上が一番低い位置にありそこから階段状にせりあがる感じのタイプのモノで、大学生時代を思い出させます。
そうでした、前世での妻とはその時に出会ったのですが、今さっきの様に思い出せます。
思い出に浸っていますが、周りは私を避ける様に席についています。
やはり王族というのが、気になる人が多いのかもしれません。
「ルシフェリオ王子。隣、いいですか?」
「はい。あっ。」
そんな時です、私に声を掛けて来た人が居ました。
「ふふふ。どうかなさいました?」
「いえ。失礼しました。カタリーナ嬢。どうぞ、お気になさらずお座りください。」
元妻の面影を持つ女性。
カタリーナ・フォン・バリオストロさんが声をかけて来たのです。
私は席を立ちあがり、カタリーナさんへと体を向けました。
「ありがとうございます。ご紹介したい人が居るのですが、よろしいですか?」
「はい。もちろんです。隣の方ですか?」
「ええ。ジュネス。ご挨拶を。」
「はい。お嬢様。初めまして、私はバリオストロ伯爵家でカタリーナ様の従者をしておりますジュネスです。よろしくお願いします。」
「これはご丁寧にありがとうございます。私はルシファリオ・フォン・フリーアです。よろしくお願いします。」
カタリーナさんと同じ様にカーテンシ―を決めるジュネスさん。
カタリーナさんとは違い平民の方の様で、偶々同い年という事で、伯爵領から一緒にこの学園にやって来たそうです。
カタリーナさんと同じ、それ以上に顔の整った人ですね。
蒼い髪に金髪という姿は西洋人を彷彿とさせます。
「ふふふ。思った通りの反応ですね。」
「えっ?」
「すいません。ジュネスと話していたのです。必ずルシファリオ様は私達に敬語を使い挨拶されるはず。と。」
「あっ、すいません。王族らしい挨拶は苦手なのです。」
本来の王族は敬われる立場である為、下の者には敬語を使いません。
使う事すら悪というレベルらしいのですが、私はそれを苦手としています。
私の今は王族という立場を得ていますが、特別な事を成した存在でもありませんし、そもそもド平民であった前世の記憶があるので、どうしても敬語で話してしまうのです。
「いえいえ。そこがルシファリオ様らしくて良いのです。ただ、こうして学友となったからには、友人としてお付き合いをしたいと思います。」
「もちろんです。」
「では、私達はこの学園に居る間は、敬称無しで呼び合いませんか?」
あれ?
ジュネスさんの提案は何処かで聞いた事があったような?
「それは良いわね。」
それに両手を合わせて同調したカタリーナさん。
「それでしたら、よろしいですよね?」
「ええ。構いませんよ。それに、学園長もおっしゃっておられましたね。この学園に居る間は、王族・貴族・平民という階級は関係ない。と。」
「ふふふ。ありがとうございます。」
眩しい笑顔をする二人。
元妻の面影を持つカタリーナさんの笑顔に見惚れつつも、何故かジュネスさんの笑顔が気になる私。
浮気心という事は無いハズなのですが、どうもジュネスさんに気を取られてしまうのは何故なのでしょうか?
カタリーナさんに気をとられるのは、妻の面影を見るからだと説明がつくのですが・・・。
「では早速、呼ばせてもらいますね。ルシフェリオ。」
「あっ、ジュネスズルいわ!私も呼ばせてください。ルシフェリオ。」
この二人は仲がとても良いのですね。
微笑ましい関係なのでしょう。
「カタリーナ。ジュネス。二人ともよろしく。」
「「はい。」」
こうして、私は入学初日に友人を得ました。
元妻の面影を持つカタリーナとそのカタリーナの従者であるジュネス。
二人とも、女性であるという点を除けば、上々な出来では無いでしょうか?
「とりあえず、座りましょう。」
ジュネスの言葉に従い席につき、少し雑談を交わしていると、教室の扉が開きました。
そして、ツカツカっと壇上へ立つと、その女性は声を上げました。
「諸君。入学おめでとう。私はこのクラスを担当する事になった、クラウディア・フォン・ボンバイエだ。よろしく。」
ピシッと背筋を伸ばし、綺麗な青髪を短くショートボブにしている先生はハキハキと挨拶して、その後を進めた。
「最後に、このクラスは王族がいるが、学園長の言った通り、この学園内において出自による差別はしないし、させない。そこは絶対だ。忘れない様に。」
キリっとした顔で、視線だけを私に寄越して、そう言い切った。
「成績のみ。実力のみ。そこしか評価しない。それ以外は全く関係ないと思え。良いな?」
「「「「「はい!」」」」」
良い。
非常に良い!
私は、目を輝かせて返事をした。
これは、学園生活が楽しみだ。
神※※※※※様に感謝を。
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