第13話 試験中。



「ぬっ!」



彼は本当に子どもなのだろうか?


子供の皮を被った悪魔か何かでは無いのか?


男は彼を見てそう思った。


11歳になったばかりであるハズの受験生。


いくら王族とは言え、彼の身のこなしや動きは、相手をしている試験官の男には常識から外れていると思ったのだ。


たしかに、この世界には英雄や勇者等、あり得ない存在、常識はずれの存在は居る。


しかし、その存在に相対する事が出来る人間はそう数が多い訳では無い。


しかも試験官の男はこのフリーア王国の王都において冒険者を営んできた元C級冒険者である。


C級とは冒険者においてはベテランの域であり、幾度となく死線を潜り抜けて来た強者の一人なのである。


ちなみに、この世界における冒険者は上からZ・SSS・SS・S・A・B・C・D・E・Fというランク制が敷かれている。


神の領域と呼ばれるSS級以上のランクは世界が広いと言っても早々存在しない。


Z級などは今まで一度も生きてそのランクに着いた者は居ないと言われている。


一人前と言われるD級が冒険者のほとんどを占める事からしても間違いでは無い。


B級であれば、国によっては貴族扱いされるほどだ。


C級と言えば、それなりの手練れになる。


戦力として考えるなら、大国の熟練の上級騎士レベルと見なされる。


そんな元とは言え、C級冒険者であった男を圧倒するレベルの剣撃を見せるてくる11歳の少年を見て驚くのは当然の事だろう。



「はっ!」



しかも、試験官である男は何とか捌いているだけであり、肩で息をしているのに対して、少年は涼しい顔で、更に剣術を繰り出してくるのだ。


それも、かれこれ10分位続けて剣術を繰り出してきているのだ。



「うむ!合格!合格です!!」



だから、試験官の男が堪らず、こう言ってしまうのは仕方がない事だろう。


その言葉を聞いた紫髪(パープルヘアー)・紫眼(パープルアイ)の美少年は『ふ~。』と息を吐き『感謝する。』と言って、試験官の男の前を去って行った。


となりで試験官をしていた試験官の男の同僚が近寄って来た。



「おい。ジョニー。どうしたんだ?あんな大声を上げて。」



「なんでもない。」



ジョニーは同僚に理由を話せなかった。

王族とはいえ11歳である子供に後れをとった事を同僚に素直に打ち明ける事は躊躇われたのだ。


プライドが邪魔をしたとも言えるのかもしれない。



「お前は自分の持ち場に戻れ。次!」



同僚を自分の場所へと追いやり、次の受験者を招き入れた。


心の葛藤を残したまま、次から次へと受験者の試験をこなした。


『やはり、彼が特別なだけだ。』


という思いを他の受験生の試験を繰り返しする事で確固たる意見に変えていった。


元C級冒険者である自分を圧倒出来る11歳の子供が居るというだけでも驚きだが、相手は王族である。


王族は特別な環境下に置かれており、師事出来る相手も普通では無い。


それこそ、師と仰ぐ相手は現役の高ランク冒険者であってもおかしくは無い。


逆に将来有望な王族が出現した事を国民としては喜ぶべき事だと思い直した。


ジョニーが受け持った受験生の試験を終えて、試験官達が集まる場所へ向かい、自分の席で評価の見直しチェックをしていると、今回の試験で魔術(魔法)を担当していた試験官であるバウアーがジョニーに話しかけた。



「ジョニーさん。例の王子の試験を担当されたとか、どうでしたか?」



「どうした?」



「いや、正直に聞いてみたいと思っただけです。好奇心ですね。」



若干だが迷いのある様な顔で質問してくる同僚のバウアーを見て、「もしや。」という思いが沸き起こった。



「もしかして、王子は魔術も凄いのか?!」



「魔術も?という事は、剣術も凄いんですか?!」



「何?!知識だけでなく実地も凄いのか?!」



そこに、筆記の試験官であったロバーリンが加わった事で、辺りは騒然とする。


どうやら、今年の受験生の中に知識もあり剣術もあり魔術もありの三拍子揃っている者が居る。


しかみ、試験官達はそれがただ凄いというレベルでないという事を、試験官三名の驚きの顔を見て推測出来たのだ。



「そうか、だが、知識が一番なのでは無いか?」



「いや、あれは剣術の方が凄いレベルだと思うぞ。」



「いやいやいや。あれは十年、いや百年に一度、出るかで無いかの天才魔術師だ。」



「それなら、知識においても同じく百年に一度出るかで無いかの大賢者だ。」



「いや、それなら、百年に一度出るかの天才剣士だろ。」



熱くヒートアップした三人の試験官は立ち上り、褒め称える行為へと変化していった。


それを遠巻きにして見ている他の試験官は、その受験生を直接見た訳では無い為、そこまで熱くなる理由を推測するしかなかったが、三人はそれぞれの道では知名度のある試験官である為、その受験生の実力が高いという保証に一役買う感じにはなっている。


余計に止める事が出来ない事態になったのだが、そこに一声一段高い声が響く。



「お主ら、何を騒いでおる?」



「学園長!聞いてください!」

「学園長!言ってやってください!」

「学園長!凄いのが居ました!」



騒いでいた三人が一斉に声の主へと振り向き声を上げた。



「うるさい!一斉に喋るな!!一人ずつ喋らんか!」



「では私から!」

「なら俺から!」

「僕が最初に!」



「だから!うるさいわい!」



校長は大声を張り上げる事で、どうにか三人の試験官を黙らす事が出来た。



「ではジョニー・バウアー・ロバーリンの順に話を聞いてやるから、順番に校長室へ来なさい。」



校長は短く指示を与えると、自分の部屋である校長室へと戻っていった。


三人の試験官は校長の指示した通りに順番に校長室へと向かっていったのである。


三人から事情を聴いた校長は喜色満面の笑顔になると、一人頷いたという。


ちなみに、校長は女性であり、エルフ族の中のエリートであるハイエルフと呼ばれる種族で、金髪蒼目であり、若さを保った美女で、エルフとしては破格のスタイルで出る所は出て引っ込む所は引っ込むという欠点の無い容姿をしている。


年齢が年齢の為、言葉遣いが爺くさい言葉を使う為、とても残念がられる存在でもある。

そして、学園長をするだけあり、癖のある存在なのである。


そんな学園長が目を付ける事になった受験生。

さぞ、困難が待ち受けているであろう事を試験官達は想像したのだった。

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