第6話 誕生会。
「それでは、我らがケンドア王の御子息、本日10歳となられる第13王子ルシファリオ・フォン・フリーア殿下の御入場です。」
会場に響き渡る声を合図に私は歩を進めました。
私が会場の中に姿を現すと、『おぉ~。』という声が上がりました。
歓迎されている様ではありますね。
私は王族が並ぶ場所へと向かい、父上であるケンドア・フォン・フリーア様と第一王妃であり正室であられるサルマニア・フォン・フリーア様に頭を下げました。
「ルシファリオ・フォン・フリーアよ。10歳の誕生日おめでとう。父として嬉しく思う。」
「ありがとうございます。私ルシファリオ・フォン・フリーアは国の為、王族の一員として、自己研鑽を怠らず、邁進してまいります。」
「うむ。今日はそなたの誕生日会だ。存分に楽しむが良い。」
「はい。王様そして王妃様。今日はこの様な会をお開き頂き、ありがとうございます。」
「ふふふ。純白の礼服が良く似合っていますよ。ルシファリオ。」
母上達が選んだ服は純白の上着とズボンにシャツで、金色と紅色と緑色の小物がアクセント加える礼服でした。
「はっ。ありがとうございます。」
「さぁ、主賓席へお行きなさい。」
私はもう一度、ケンドア王様とサルマニア第一王妃様に頭を下げました。
形式的な挨拶とは言え、やはり必要な事です。
第一王妃サルマニア様の言葉に従い主賓席となる場所へと歩を進め、席に着くと会場の方へと向き直りました。
父上が、それを確認すると盃を手にし、立ち上がります。
「本日は、我が息子ルシファリオ・フォン・フリーアが10歳を迎えた。大変、喜ばしい事である。誕生日会を開けた事、そして沢山の来客を迎えられた事に感謝する。今日はゆっくりと楽しんでいって欲しい。では、乾杯!」
父上の合図によって会場中の者が杯を掲げました。
「「「「乾杯!」」」」
「「「「ルシファリオ・フォン・フリーア殿下。おめでとうございます!」」」」
誕生日会という宴会がスタートを切ったのです。
主賓である私の所へ、沢山の貴族の方が挨拶に来ます。
正直、覚えるのは困難だと私は思います。
しかし、名前を憶える事が出来なくとも、顔だけはしっかりと覚える様に事前に言われていたのでしっかりと憶える様に努力します。
10歳の者の誕生日会とは王族においては、社交界へのデビューであり、挨拶の意味を持ちます。
それまでは外界との接触を極力しない様にと後宮から出る事はないのです。
色々な意味があるそうなのですが、私にはイマイチよくわかりません。
もしかすると生存率や権力闘争から護る為の処置なのかもしれませんし、子供である10歳まではそう言ったモノから遠ざけて子供らしくさせたいというおもいからなのかもしれません。
ただ、長い歴史の中で慣習となっている事ですので、正確な意味を知る者はもういないかもしれませんね。
父上とは年に数回程度お会いするだけですので、正直言うと、私の父親という概念からは遠いので、家族という感じにはなれません。
血が繋がる人であり祖先の一人という感覚でしょうか?
なので、父上と申しても、思い出も感傷もないというのが本音です。
この誕生日会の前に他の兄弟・姉妹と顔を合わせました。
総勢25名に及ぶ兄弟・姉妹です。
私が一番の末っ子となります。
父上と王妃達の六名を入れて31名になります。
10歳を迎えるまでは基本的に繋がりを持ちません。
精々が同腹の兄弟・姉妹と自身の母のみなのです。
もちろん母上専属のメイドや従者が身の回りの事をしてくれますが、それ以外とは挨拶をする程度になります。
なので、初めて会う様な兄弟・姉妹や王妃様も居る訳です。
で、そこで初めて自己紹介をし合います。
第一王妃様から順番に紹介され最後に第四王妃様の御子息である第十二王子が最後に紹介されました。
僕の二つ上だそうです。
家族を覚えるのも大変ですね。
それなのに、更に貴族達を覚えるとか・・・。
もう何人の方の挨拶を受けたかも覚えていません。
「十三王子ルシファリオ殿下。どうも初めまして、私はジェスター王国との国境付近にあります土地を納めておりますクヌート・フォン・バリオストロ子爵と申します。お見知りおきを。こちらが、娘のカタリーナ・フォン・バリオストロです。」
皆、同じ様な挨拶ばかり、自身の立場と名前と自身の子供を紹介してきます。
「よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げた黒髪の少女。
「私は?!」
彼女が顔を上げる事でマジマジとその少女の顔をみてしまいました。
私は自分の目を疑いました。
私の前に立つその少女の姿が、あまりにも似ているからです。
「どうか、なさいましたか?」
「い、いえ。申し訳ない。私は、ルシファリオ・フォン・フリーアです。よろしく。」
私は辛うじて挨拶を返しました。
似ているその少女。
私の愛する妻だった人の顔にそっくりなのです。
たしかに、幼さの残る少女であるのだから全く一緒という訳では無いのです。
ですが、私の記憶にある、愛する妻の顔に似ている少女。
この私が見間違うハズはありません。
「では、またお会い出来る時を楽しみにしております。」
そう締めくくられ、クヌート子爵に連れられて行くカタリーナ嬢を目で追ってしまうのですが、残念ながら、それをそのまま許される状況ではありません。
私の逸る気持ちを他所に、挨拶の列はまだまだ続くのですから。
◇◇◇◆◇◇◇
ようやく、挨拶の列への対応も終わり、少しの自由が得られました。
あの後はどの様に挨拶したのか、どの様な方と挨拶をしたのか、正直覚えていません。
失礼な事であると思いますが、どうしてもカタリーナ嬢の事を考えてしまったのです。
会場の中を探してみたのですが、とうとう終わりまで見つける事は出来ませんでした。
「・・・感謝する。」
父上の言葉で締められた誕生会。
この日は、日々の日課を怠ってしまいました。
こんな事が起こるモノなのですね。
愛する妻に似た女性に会えた事。
神※※※※※様に感謝を。
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