第2話 転生。
彼は自らが死んだ事を悟っていた。
体から抜ける感じがしたのと、目の前に居る家族の姿を見ているからだ。
この世に未練が無いのか?というと正直分からないと言える。
たしかに憎いヤツは沢山いる。
ムカつく奴も沢山いる。
しかし、そんな事は当の昔に諦めた事だ。
今は、自慢の家族に囲まれて死後の世界とやらに向かう方が彼にとって何倍も大切な事で重要な事だった。
ただ、自身の両親に対しては申し訳なかったと思う気持ちもあるのは事実だった。
彼が視界に彼の自慢の家族を納めながら、どんどんと上空へ上がっていく内に地球からドンドンと離れていくのが分かった。
そして、彼の自慢の家族と一緒に在る場所へと行くであろう事は頭の片隅で理解していた。
そしてある場所へと辿り着いた。
何故分かるのか?
それはそこに彼自身が漂う様に停滞しているからだろうか?
すると、彼の頭の中には彼が歩んできた人生が走馬灯のように流れ出した。
それが終わると、不意に声が届いた。
『汝は随分と苦しい人生を送ったようじゃな。何か次に望みはあるか?』
その言葉が指す意味を彼は理解させられた。
理解したのではない。あくまでもさせられたのだ。
「嫌です。私の家族の記憶だけは無くしたくありません!!」
彼は悲痛と思える声を上げた。
『ふむ。気持ちは分かる。が、その記憶がある事が決して幸せに繋がる事と同義では無いぞ?そしてその記憶は都合よく他を忘れていても、何かのタイミングで思い出してしまうものぞ。その他の嫌な記憶も思い出してしまう事になってしまうのだぞ?』
「そうだとしてもです。全てを忘れ、次の『生』に行く事は出来ません!」
『ふむ。つまりは記憶を持っておきたい。それがお主の望みであるという事か?』
「はい。どんなに辛くても、私は私の家族の記憶を失いたくありません。どうかお願いします。」
『う~む。』
「どうか。どうかお願いします。私から家族の記憶だけは奪わないでください。」
奪う行為では無い事を彼は分かっている。
分かっているのだが、奪われるという気持ちになる。
『記憶があっても、家族に会える訳では無いのだぞ?それでも忘れたくないと申すのか?家族はもうお主を覚えておらぬのに、本当にそれで良いのか?忘れた方がお主にとって良いのではないのか?記憶と共にここに留まれば、家族の持っていた記憶と共にここで幸せに暮していけるのだぞ?』
記憶と記憶が暮らす世界。
それがあると教えてくれている。
しかし、彼はそれを良しとはしなかった。
「それでもです。私は憶えて居たい。家族を忘れずに次へと向かいたい。家族が幸せに暮している確証を持って初めて、忘れる事が出来ると心の底から思えると思うのです。」
『くっくっく。人とは難儀な生き物じゃな。よかろう。お主の望みを叶えてやろう。今この時の記憶も忘れるでないぞ。我の名をその魂に刻み込め。我の名は※※※※※。良いな?』
「はい。ありがとうございます。」
彼は何か暖かいモノに包まれる様な気がした。
次の瞬間、先ほど迄とは違う所に居る事が分かった。
そして彼の意識は眠りについたのだった。
◇◇◇◆◇◇◇
『まったく。あの家族は相当であるな。』
ぽつりと呟くような一言。
しかしそこに嫌味や負の感情は感じられない。
慈しむような、嬉しそうな感情がこもっていた。
それをその存在は否定してない。
むしろ好ましく思っている様子であった。
『偶には、こういう事があっても良かろう。』
その言葉は暖かい感情に包まれていた。
◇◇◇◆◇◇◇
私は、ルシファリオ・フォン・フリーア。
フリーア王国の13番目の王子。
それが私の肩書きらしいです。
第五王妃の息子であり、13番目という事もあり、王室の中でも扱いの悪い立場である事は間違いないです。
父である王にもお会いした記憶がないのです。
しかし、間違っても王子であるので、王子の中では扱いが悪いという程度です。
なので、生きてはいけます。
継承争いも、僕の所迄回ってくる事は無いだろうと言う事で、毒殺の危険も少ないのです。
代が変わる時までに、ある程度の年齢になっていないと、母と一緒に放逐されるであろうという事ぐらいです。
それもそんなに遠い話では無いかもしれないですが。
何せ、父親であるゲルドア・フォン・フリーア王は、齢50歳となられます。
このフリーア王国においては、王は崩御するモノでは無く、禅譲するモノであるからです。
齢60歳になったら前例に従い禅譲されるだろうと言われています。
次期王には、長男であるゼンブリ・フォン・フリーアか次男のゼンテン・フォン・フリーアがなる見込みです。
まぁ、後十年もあるのだから、どちらになるのか分からないのは事実です。
ただ、三男以降にはよっぽどの事が無い限り、回ってくる事は無いだろうと思います。
まぁ、絶対はないでしょうけど。
さて何でこんな話をするのか?という事ですが、私は転生者であるからです。
神※※※※※の差配なのか、先日5歳の誕生日を迎えて、僕が今居る場所で、ささやかな誕生日会を母上がおこなってくれた後に僕は高熱を出し倒れました。
そして、私は転生者である事を思い出しました。
そう、43年という前世の記憶を持っている転生者なのです。
『家族を探す。』目的を持っている者なのです。
43年の人生で得た名前は神崎茂男。
忌まわしき過去も自慢の家族も憶えています。
逢えるか逢えないかわからない、家族を探すのです。
その前に。
赤ちゃんであった時に、記憶が無くて良かったと、ホッとしています。
神※※※※※に感謝を。
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