第20話

 ビルが立ち並ぶ一角に隼大の職場はある。


 十五階までぎゅうぎゅう詰めのエレベーターで上がり、簡素な灰色のプレートが下がっている扉を開けると、広々としたオフィスが出迎えてくれる。朝日が差し込む室内は明るく、夜のひっそりとした雰囲気とは大違いだ。

 スタッフたちが、挨拶を交わす声、人の動く音、コピー機などの機械音がそれほど広くない社内に満ちていた。

 朝の社内は、比較的ゆっくりと過ぎる。

 ミーティングも以前は行われていたけれど、業務の見直しでなくなった。

 その代わりの業務は増えたけれど、ミーティングがなくなっただけでも、時間に余裕ができる。

 コーヒーを、淹れデスクの上に置く。ワークチェアに座り、モニターの枠に隙間なく貼った付箋を確認する。

 立ち上げた画面に必要なソフトやアプリを開いていった。

 個室とまではいかないが、両隣と前に仕切りが設けてある。その仕切りにも、メモが貼られている。

 昨日までなかったメモが机の上に置いてあり、順に目を通していく。


 そうしていると、後ろから声がした。

「よっ、はよ。企画会議、十四時だってよ」

 ワークチェアに腕をかけ、もたれるように話しかけてきたのは、同期の堂岡だ。

 顔だけを彼の方へと向けた。すぐ側にあるのは彫の深い顔。眉が太く、奥二重。鼻は高く、陰影がハッキリしている。精気のある顔だと隼大は評していた。

 社内でも杉山ほどではないが、人気は高い。しかし、隼大にしてみれば、人懐っこい大型犬。必要以上に馴れ馴れしいのは未だに慣れない。


「そんなに、イヤな顔すんなよ。清々しい朝だろ」


口の端を持ち上げて笑う。


「確かに清々しいな。こんなに近くなかったら、もっと清々しいよ」

「へ、せっかく伝えに来たのに、冷たいね」

「もうちょっと、距離をとってほしい、というお願いさ」


 しっしと、手で払う仕草をする。いつもなら、それで離れていくのに、手を軽くはたかれ、引っ込めた。

 途端に、グッと距離を詰められ、顎を引き彼から逃げるようにワークチェアの背もたれに体を押し付けた。

ギシッと軋む音がする。


「お前さ、噂で聞いたんだけど、今日、杉山と一緒に出社したんだって?」

「……!」

「お、その顔。噂は本当か」


「それがどうした」


意味ありげな顔つきをする堂岡をワークチェアから振り払いつつ言った。

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