第12話

 隼大はリビングへとつながるドアを開けた。

 扉の向こうは、豆電球が付いているだけで、暗い。

 思わず手がスイッチに伸びた。けれど、寝ているだろう杉山を思い出し、ハッと手を引っ込めた。

 立ったまま暫く 待つと、目が慣れてきた。



 リビングのソファを気にしながら、キッチンへと移動した。

 薬を飲もうとして、ふといつもと違うことが気になった。

 何に引っかかったのか、冷蔵庫を開けようとして伸ばした手を止めて考える。顔を上げると目の端に時計が映り、何に引っかかったのか分かった。


「おっと、今、何時だ?」

 目を凝らし、時計を見た。

 普段だと、夜中までには飲んでいる。今が、夜中の三時近いとなると、起床までの時間は約三時間。

「しまった。これでは、飲まない方がいいか」

 一度、睡眠薬を飲んでしまうと、目覚ましをかけていても寝過ごしてしまうかもしれない。

 

 このまま、起きていた方がいいか――。


 キッチンに来たものの、何をしに来たのかと、苦笑した後、踵を返した。

 その時、布ずれの音がした。

「か、川浪……さん?どうか、され……ましたか?」

 

 途切れ途切れの声が隼大を呼んだ。

「いや、何でもない。すまん。起こした」

「眠れませんか?」

「いつもの事だ」

「そうですか……」

 そのまま寝入ってしまいそうな声だ。

「薬は、飲まれ……ましたか?」

 隼大は、どう答えるべきか迷った。

 正直に飲んでないと言うべきか、はたまた、嘘をついて飲んだと言うべきか。

 起き上がる気配がして、慌てて隼大は「飲んだ。今から寝るところだ」と言った。

「そうですか。それじゃあ、……おやすみなさい」

 また、パタンと寝た杉山に、ほっと息をついた。嘘をつくことに罪悪感はあるものの、飲んでないと言えば、杉山のことだ、起きてきてしまうだろう。これで、良かったのだ。


 あと数時間しか寝れないのに、起こしてしまったことを悪く思いながら、自室に戻った。

 扉を開けると、今度は電灯の光が眩しく、目を細めた。

 

 けれど、電気を消す気にもなれず、電気はそのままに、ベットへと横になった。

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