第11話

「寝るか」

「はい」

 こんな穏やかな夜はいつぶりだろう。ソファから立ち上がり、側に置いてある毛布を杉山に渡す。

 テーブルの上に置いてある空になった缶を手に取った。


「あ、そうだ。歯ブラシ出しておいたから、勝手に使ってくれ」

「ありがとうございます」

具持った声だ。振り向くと杉山は、顔を毛布に埋めていた。もう眠いのだろう。

 それもそのはずだ。夜半を回り、もうすぐ二時。しかもアルコールも入っているのだ眠くて当然だろう。そのまま寝かしておいたほうがいいかと判断し、そっとリビングから離れた。


 リビングの電気を消すと自室に入った。

 煌々とつく明かり。

 アルコールがほどよくまわり、思考が散漫だ。

 足が地につかない。このまま寝ることができるのなら最高だろうと、すぐ側にあるベッドへと寝っ転がった。羽毛布団が身体を受け止めてくれる。

 

 目をつぶる。意識が遠のきそうで、また、浮上する。


 闇に落ちそうになった途端、いつもの焦りが来た。半分眠っていた意識が覚醒する。

 目を開けると、明るい室内に眉間を寄せた。ぼんやりした感覚はどこかへ行ってしまった。

 

 大きく息を吐いたあと、ベットの淵に座る。両腿に肘をつき、頭をうなだれるように下げた。

「やっぱり、寝れないのか」

 絶望感が襲ってくる。毎日のことだ。それは、分かっている。分かっているけれど、今なら寝れるような気がした。

 杉山が来たことで、いつもと違っていたからだ。


 怖さよりも、安堵のような、穏やかさが自分の中にあった。


 なのに、眠れない。

 隼大は目を強くつぶり、こめかみを揉んだ。


 息を吐き、立ち上がった。頭の奥に痛みが走る。

 身体は睡眠を欲している。

 意識はそれに従わず、起きている。寝る事を諦め、窓辺に寄った。

 カーテンを開け、窓ガラスに額を近づけた。

 暗闇の中にもアパートやマンションの明かりが見える。

 それは、あの明かりの向こうに、起きている人がいるということだ。闇だけではないことに、少し安堵した。


「薬を飲むか」


 隼大は窓から離れた。

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