第8話
エレベーターで四階まで上がる。しんと静かな廊下を突き当りまで歩いた。
玄関の扉を開けると、暗闇が隼大を捉えた。血の気がひき、泥に足を取られたように、動かない。杉山が後ろにいることが分かっている。進まなければ、と思うのに、動かない。不安が襲う。動かそうとすればするほどに、手足が冷たくなっていく。
ぐっと奥歯をかみしめた時だった。
先に進まない隼大の脇からするりと、杉山が入ってきた。
「ああ、電気これですね」
パチンと音がすると、廊下と玄関に電気がつき、一気に明るくなった。
眩しさで、目を細める。その目の前には、杉山の黒い髪があった。
「お邪魔していいですか?」
そう振り向く杉山を茫然と見ていた。
パピヨンに似た大きな瞳が、優しく隼大を見て弧を細める。
「あ、ああ」
「じゃあ、お邪魔します」
靴を脱ぎ、廊下を進む杉山の後姿を見ながら、やっと我に返った。そして、すぐ後を追った。
短い廊下の先は、すぐに突き当りだ。その右手がリビング。すでに電気がついている。
「ありがとう」
隼大は、壁にかかっているハンガーを取り、杉山にそれを渡しながら言った。
「なんで、わかった? 暗闇が怖いなんて一言も言っていなかったし、聞かなかっただろう?」
そう問うと、なぜだか、笑みの中に陰りがみえた気がした。
杉山は、受け取ったハンガーに脱いだジャケットをかけた。
「川浪さんはもう寝ますか?」
「質問に質問で返すな。寝ないで何するんだ?」
「よければ、付き合ってほしいんです」
「付き合うね。俺と君が?」
隼大の言い方に、ハッ気づいた杉山の頬が赤くなる。
「いや、その付き合うじゃなくて、話に付き合ってほしい方の付き合うです!」
慌てて訂正する杉山のおでこを、軽く小突く。
「バカか、分かってるよ」
ニッと笑うと、赤身のさした顔のまま、眉を吊り上げた。
「からかわないで下さい」
ふくれる杉山にシャワーを進めた。
時刻は、もう深夜を回っていた。
杉山がお風呂に入っている間に、着替えや毛布を用意しながら思考を巡らす。結局、聞いた答えをもらっていない。どうして、あんなに察しがいいのか。もしかして、人の思考をよめるのだろうか。
まさか――。
自分の考えを笑い飛ばした。
毛布をソファーに置き、着替えの服を置こうと脱衣所の扉を開けた。
「「あっ」」
ガタっと音がし、お風呂から上がってきた杉山と声がかぶった。
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