第十五話:変異トロールと「力」の片鱗
大型トロール達の咆哮が、洞窟内に鳴り響く。
トロールは四人の侵入者を視認すると、すぐさま棍棒で攻撃にかかった。
「ブモォォォ!」
「ライカ!」
「はいです! 守って『
カリーナに振り下ろされるトロールの巨大な棍棒。
それを『純白たる正義』のバリアが遮る。
だが敵は一体ではない。
バリアの有効範囲をすり抜けたトロールが、ルーナとノートを狙った。
「こんのッ!」
スキルを発動して、棍棒を弾き返すノート。
その横では、ルーナの魔人体がトロールに攻撃を仕掛けていた。
「混乱させなさい! 『
球体関節人形の像が、迫り来るトロールの首筋に注射器を刺していく。
強力な幻覚を込められた注射をされたトロールは、攻撃対象を変更し、自分の仲間へと襲い掛かった。
「仲間が敵に見えるようにしたわ。ノート君はそのままトロールをひきつけて」
「わかった!」
トロールが自分の方へ向かうように振る舞うノート。
棍棒による攻撃は全てスキルで弾き返す。
そうして出来上がった隙に、ルーナの『怖く+蠱惑+困惑=月光』が幻覚を注射していく。
それを繰り返していく内に、数体のトロールが仲間へと攻撃を始めた。
「こっちへの攻撃は薄くなったけど、この後どうするんだ?」
「決まっているわ。カリーナさん、準備はいい?」
「えぇ、いつでもいけるわ!」
気づけばカリーナは魔法の発動準備が完了しており、何時でも撃てる状態になっていた。
「三人共、後ろに下がって!」
各自スキルを解除させて、大慌てで後退する。
カリーナの杖の先には、強大な電気エネルギーが集まっていた。
「三人が頑張ってくれたおかげで、一網打尽しやすくなってる」
同士討ちに意識を取られているトロール達に、狙いを定める。
「轟きなさい! アーク・ボルテックス!」
――轟ォォォォォォォォォ!!!――
凄まじい力を秘めた雷が、眩い光と共にトロール達に襲い掛かる。
感電したトロールは、凄まじい雄たけびを上げながら、その場で絶命していった。
「カリーナさんって、結構豪快な性格なんですね」
「ノート君、それ褒めてるの?」
「尊敬はしてます」
「ならよし」
そんな何気ない会話を遮るように、洞窟の奥から更なるトロールが姿を現す。
「「「ブモォォォォォォォォォォォォォ!!!」」」
仲間を殺された恨みか、トロール達は凄まじい咆哮を上げながら襲い掛かってきた。
「ライカとノート君はさっきみたいに防御に回って。ルーナは隙を見て攻撃。その間にアタシが魔法の準備をするわ!」
「了解!」
「はいです!」
「わかったわ」
再びバリアを展開するライカ。
スキルを使って、攻撃を弾くノート。
そして隙を見ては幻覚をトロールに植えこむルーナ。
三人が奮闘している間に、カリーナは次の殲滅魔法を準備する。
「こんのッ! 数が多い!」
「確かにこれは、予想以上の数ね」
ルーナを守るように、トロールの攻撃を弾き続けるノート。
二人は想像以上のトロールの数に、少々圧倒されていた。
だが決して苦戦している訳ではない。
ノートは順調に敵の攻撃を防ぎ、ルーナは確実に幻覚を植え付けていく。
その近くでは、ライカがバリアを展開してカリーナを守っていた。
数分の攻防が続いた後、再びカリーナの準備が整う。
「みんな、二発目いくわよ!」
再び後退する三人。
それを確認したカリーナは、溜め込んでいた魔法を解放する。
「アーク・ボルテックス!」
再び解き放たれた超高位の雷魔法。
ルーナの幻覚によって混乱していたトロール達は、瞬く間に雷に飲み込まれた。
「ブモォ!?」
短い断末魔を上げて、感電死していくトロール。
それを見届けたノートは、高ランクモンスターを容易く葬るカリーナの実力に感服していた。
「スゴイな、カリーナさん」
「ありがとノート君。それにしても、数が多いわね」
あと何体くらい残っているのだろうか。
全員がそんなことを考えていると、カリーナは洞窟の奥から強大な魔力反応を感じ取った。
「ッ!? ライカ、バリアを張って!」
「はっ、はい!」
カリーナの指示で大急ぎでバリアを展開するライカ。
次の瞬間、洞窟の奥から凄まじい熱量を持った炎が襲い掛かってきた。
「うわっ!?」
「これは、魔法攻撃?」
驚くノートと、比較的冷静なルーナ。
予想外の魔法攻撃には、ライカも驚きの表情を隠せていない。
「もしかして、ま、魔法使いさんがいるですか!?」
「まさか、そんな筈は無いわ」
ライカの言葉を否定するルーナ。
だがその一方で、カリーナだけは冷静に状況を分析していた。
「これは……最悪かもしれないわね」
「やっぱり魔法使いですか?」
「半分正解よ」
「半分?」
何故半分なのか、ノートがその理由を聞こうとした瞬間。
ドスンドスンと、洞窟の奥から大きな足音が聞こえてきた。
「まだトロールが残ってた!」
「そうね。でもただのトロールと思わない方がいいわ」
杖を握るカリーナの手に力が入る。
その警戒心はノート達にも伝わり、三人に気を引き締めさせた。
ドスン、ドスン。
足音は大きくなり、その主が姿を現す。
「ブモォォォォォォ!!!」
それは今までのトロールとは少し違った姿をしたトロールであった。
着ている服は袖の長いものであり、棍棒の代わりに巨大な杖を持っている。
まるで魔法使いのような出で立ちのトロールであった。
「なんだコイツ、なんか違う……」
姿の違うトロールにノートは些か動揺する。
だがそれ以上に、他の三人に走っていた緊張が凄まじかった。
「カ、カリーナさん。これってもしかしなくても」
「えぇ、変異種のトロールね」
「変異種?」
変異種が分からなかったノートに、ルーナが説明をする。
「簡単に言えば、突然変異してスキルとかを身につけたモンスターよ」
「てことは、さっきの炎も」
「きっと変異で身につけたスキルなのです!」
要するに厄介極まりないモンスターということだ。
ノートは改めて腹を括る。
そんな彼らが仲間を殺した敵だと確認した変異トロールは、手に持った杖を高く掲げた。
杖の先に巨大な炎が作られていく。
「ちょっと、あの魔法Aランクくらいはあるわよ!?」
変異トロールが発動した魔法の協力さに、カリーナは思わず声を上げる。
だがそんなこと気にも留めず、変異トロールは杖を振り下ろした。
「『純白たる正義』!」
――業ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!――
凄まじい炎が四人に襲い掛かる。
それをライカの『純白たる正義』が間一髪で防いだ。
「大丈夫ですか!」
「えぇ、ありがとうライカ」
ライカにお礼をいいつつも、カリーナは変異トロールの対策を必死に考えていた。
その間に、炎が止む。
間髪入れずに、変異トロールは両手で杖を握って、『純白たる正義』のバリアに襲い掛かってきた。
「ブモォォォ!!!」
ガキン! ガキン!
変異トロールの攻撃を弾く音が鳴る。
そしてカリーナはようやく作戦をまとめ上げた。
「どっちみちこの変異種を倒すのが最優先ね。ルーナ!」
「なにかしら?」
「アタシが魔法で変異トロールの動きを止めるわ。その隙にアルカナを使って、幻覚を植え込んで」
「わかったわ」
「ライカはアタシが合図したら一瞬だけバリアを解除して」
「はいです!」
「それからノート君!」
「はい!」
「ライカとルーナに攻撃がいかないよう、キチンと守りなさい!」
なんか自分だけ結構な無茶を要求されている気がする。
だが間違っても口には出さないノートであった。
それはともかくとして。
やるべきことを指示された三人は、各々の役割に徹し始めた。
「ブモォォォ!」
一度バリアから離れた変異トロールが、二発目の火炎魔法を放ってくる。
それを『純白たる正義』のバリアが防ぐ。
「耐えてください。『純白たる正義』」
その間にカリーナが魔法の詠唱をする。
ノートとルーナはいつでも自分の出番が来てもいいように、構えていた。
「よし、詠唱完了! ライカ!」
「はいです!」
カリーナの合図で、バリアが消滅する。
そこが攻撃の隙だった。
「凍りなさい! コキュートス!」
カリーナの杖から、凄まじい冷気が放出される。
それをまともに受けた変異トロールは、周囲の空間ごと氷漬けにされてしまった。
だがすぐに氷にヒビが入り始める。
変異トロールの力が強すぎるのだ。
「ルーナ!」
「わかってるわ。『怖く+蠱惑+困惑=月光』!」
ルーナの魔人体が、両手の注射器を構える。
そして氷を貫通して、中の変異トロールに針を刺した。
その直後に砕け散る氷。
中から出てきた変異トロールは、フラフラとしていた。
「幻覚で魔法の使い方を認識できなくしたわ」
「魔法が使えないなら、ただのトロールね!」
杖を振っても魔法が出てこない事に、混乱する変異トロール。
その隙にカリーナは攻撃魔法を仕掛けた。
「細切れになりなさい! スラッシュ・サイクロン!」
無数の真空刃を内包した竜巻が、変異トロールに襲い掛かる。
魔法による防御もできず、変異トロールは竜巻に飲み込まれてしまった。
「ブモォォォォォォ!?」
凄まじい雄叫びを上げながら、切り裂かれていく変異トロール。
杖を棍棒代わりに降ろうとしても、真空の刃がその腕を切断する。
そして瞬く間に、変異トロールの身体は粉々に切り裂かれてしまった。
「……流石にもう死にましたよね?」」
「これで生きてたら、それはもうゾンビよ」
ひとまず厄介者を駆除できたので安心する面々。
カリーナが探知の魔法を使って、周囲を確認する。
「うん。もう流石にいないわね」
「はふ~、やっと終わったのです」
「お疲れ様。ごめんなさいね、お爺様の無茶に付き合わせちゃって」
「いいのよルーナ。文句は後でドミニクに言っておくわ」
気が緩んで和気あいあいと会話をする三人。
それを眺めながらノートは、自分の無力さを噛み締めていた。
「(みんな、本当にすごかったな……)」
結局今回はほとんど役に立てなかったと、自分を責めるノート。
彼の心の底には、少し黒いものが渦巻いていた。
その時だった。
ノートは何か大きな存在が近づいてくる気配を感じ取った。
「えっ?」
トロールは全て倒した筈。
ノートは慌ててその気配がする方に視線を向ける。
それは、洞窟の天井だった。
三人の真上に、一体のトロールが張り付いていたのだ。
「ブモォォォ!!!」
棍棒を握りしめて、落ちてくるトロール。
「みんな!!!」
ノートが叫び、駆け出した時には既に遅く。
トロールは三人のすぐ真上にまで迫っていた。
そこから先の映像は、ノートにはスローモーションに見えた。
助けなきゃいけない。助けなきゃいけない。
何としてでもあの人達を傷つけさせてはいけない。
その為にはなにが必要なのか。
簡単だ、強い「力」だ。
あのトロールを一撃で葬れるくらいの強い「力」が必要なのだ。
助けたい。助けたい。
その為ならば……「力」に飲み込まれても構わない。
だからこの「力」で……押し潰す。
「うぉぉぉ!!!」
ノートは必死に手を伸ばす。
すると突然、落下していたトロールが吹き飛び、凄まじい力で壁に叩きつけられてしまった。
「ブモッ!?」
――怒轟ォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!――
凄まじい轟音と共に、洞窟の壁に叩きつけられたトロール。
短い断末魔を残して、その身体は粉々のミンチ肉になっていた。
何が起きたのか。全員が唖然となっている。
だがだがライカ達には見えていた。
落ちてくるトロールを殴り飛ばす、巨大な腕の存在を。
「ノ、ノート君。それって……」
ライカに言われて、ノートは自分の右横を見る。
伸ばしていた右手の隣に、ゴツゴツとした岩でできた、巨大な紫色の腕が浮かび上がっていた。
「これって、まさか……」
ノートがそれをまじまじと見ようとした瞬間、岩の腕は跡形もなく消えてしまった。
「消えちゃった」
「ノート君、今のきっと魔人体なのです!」
「俺の、魔人体」
突然のことに、ノートもいまいち理解が追いついていない。
その間にカリーナは、押し潰されたトロールの死骸を見ていた。
「こいつも変異種だったみたいね。それにしてもスゴイわ。まるで何百キロもの力で押しつぶされたみたい」
改めて洞窟の壁を見ると、潰されたトロールの死骸の周りは、丸く大きなクレーターのようになっていた。
岩山の一部を潰す程の圧倒的な力の証明である。
そのパワーを目の当たりにして、ノートは少し動揺していた。
「これを……俺が?」
出て来たのは圧倒的な「力」。
その「力」を前に、ノートは内心恐れを抱いていた。
そんなノートの手を取ってきたのは、ルーナであった。
「ありがとうね。助けてくれて」
「そんな。俺はただ、ガムシャラだっただけで」
「でも助けてくれた。お礼くらい素直に受け取りなさいな」
「そんなもんなのかな?」
「そうですよ。ノート君はもう少し素直になるべきだと思います」
ライカにも言われてしまい、少し自分について考えなおすノート。
だがやはり、自分の中に眠る得体の知れない「何か」が怖くて仕方なかった。
「さぁみんな。他にもトロールが残ってないか見に行くわよ!」
ひとまず思考は置いて、カリーナの後について行ったノート達。
洞窟内にはもうトロールは残っておらず、他のモンスターも特に巣は作っていない。
シドに頼まれていた鉱石を幾ばくか採掘して、ノート達は洞窟を後にするのだった。
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