第十四話:洞窟と炎
工房で紅茶を貰い、一休みしたノート達。
無事エネルギーは回復したのだが、ノートは少しウンザリしていた。
「来て早々に、下りるのか……」
来た方向とは逆とはいえ、またあの道のりを行かなくてはならないと考えると、ノートはどうにも足が動かなかった。
「安心しなさい。下りはアタシが運んであげるから」
「本当ですか!」
「その代わり野営道具は持ってね」
「はい! 喜んで!」
それなら下り道はスムーズだ。
ノートの胃から痛みが急速に引いていく。
「それにモンスター除けの魔道具も借りたし、楽なもんよ」
「なんですかその便利アイテム!」
そんな物があるなら最初から使って欲しかった。
自分達の苦労はなんだったのか、とノートはカリーナを恨めし気に見る。
「しかたないです。修業は厳しいものなのです」
「限度があると思うんだ」
ライカは納得しているが、ノートはもっと段階を刻んで欲しかったと考える。
そんな中、三人の後ろにルーナが現れた。
「私も一緒にいくわ」
「あら、いいの?」
「数は多いに越したことはないでしょ」
「やった。ルーナちゃんも一緒なのです!」
ルーナを歓迎する二人に対して、ノートは大丈夫なのかと疑問を抱く。
「ふふ。魔道具職人の助手が大丈夫なのかって思ってるでしょ?」
「えっ、いやぁ、その……」
「こう見えて私、元は冒険者志望だったのよ。少しくらい腕に覚えはあるわ」
「それにルーナちゃんにはアルカナもあるのです!」
「そういうことよ。ノート君も安心しなさい」
「カリーナさんがそう言うなら」
仮にもカリーナはSランクパーティーの幹部だ。
彼女が同行を快諾するという事は、それなり以上の実力を持っているのだろう。
しかしそうなるのと、メンバーの中で自分だけが無能という事になるので、ノートは些か傷ついていた。
「さぁ、ふもとの洞窟に向けて出発するわよ!」
カリーナの号令で気を引き締めたノート。
風魔法で作られた疑似足場を使って、スムーズにデスマウンテンを下り始めた。
◆
そして翌日。
途中で野営をしつつも、一行は無事ふもとまで到着した。
「滅茶苦茶スムーズに下りれたな」
「モンスター除けの魔道具が仕事してくれたのです」
「有能過ぎてなんか腑に落ちない感じもするけどな」
やっぱり最初から使って貰いたかった気持ちが湧いてくる。
とはいえ、それでは修業にならないと返されるのは明らかなのだが。
「洞窟の入り口はこっちよ」
ルーナに案内されて、ノート達は先を進む。
到着したのは、三メートルはあろうかという巨大な洞窟の入り口であった。
「でっけぇ入り口」
「大型のトロールが出入するくらいですからねぇ」
この中に危険なトロールが群れを作っているというのだ。
どのようにするのか、ノートは少し頭を回す。
「カリーナさん、トロールってどんな特徴が――」
「さぁみんな。さっさと行くわよ」
「いやちょっと、カリーナさん!?」
せめて計画くらいは立てさせて欲しい。
ノートは慌ててカリーナを引き留める。
「なによノート君」
「なによじゃないですよ。大型トロールの群れですよ! 少しは計画とか作戦とか立てないと!」
「それなら大丈夫よ。最高の計画があるわ」
「そうなんですか?」
「もちろん。群れを見つけたら教えるわ」
「いや先に教えてくださ――あーちょっと置いてかないでください!」
先々と洞窟の中に入っていくカリーナ達を、ノートは慌てて追いかけていった。
洞窟の中は広く薄暗いので、持ってきたランタンに火をつけて明かりにする。
入ってすぐの地点では特におかしな要素はない。
ゴツゴツとした岩肌と、吹き抜ける風の音が聞こえるくらいだ。
「ちょっと寒いですね」
「洞窟なんてそんなものよ」
ライカとルーナが他愛ない会話をする。
その一方でノートは、いつでも戦闘が始まってもいいように、スキルを発動する準備に入っていた。
「(トロール。確か以前ギルドで見た情報だと、危険度はBランクだったはず)」
ノートはかつて見たトロールの情報を頭から引っ張り出す。
トロールは元々気性の荒い性格だ。
筋力が強ければ、皮膚も硬い。一筋縄では討伐できない厄介者。
それの大型種が群れを作っているとなれば、ギルドのクエストだとSランク相当だろう。
「冷静になればなる程、ヤバさが分かってきた……」
無理に説得してでも、ドミニクの協力を仰ぐように進言するべきだったか。
ノートは引き返せなくなった時点で、そんな事を考えていた。
「みんな、ちょっと静かにして」
カリーナの一声で、三人が黙る。
すると静かな洞窟の中から、何かの鳴き声が微かに聞こえてきた。
「近いわね」
「随分奥まで来たし、間違いなくトロールの群れね」
「む、武者震いするのです」
本当に引き返せなくなった。
危険なモンスターが近い事もあって、ノートはとうとう観念する。
「できることをしよう。生き残るのが最優先だ」
腹を括って洞窟の奥へと進むノート。
トロールの低い鳴き声も大きくなってきた。
ランタンの光とヒカリゴケの光によって、異形の影が映し出されていく。
間違いない、トロールだ。
「で、出た」
ノートは反射的に両手の平を構える。
それを横目に、カリーナは魔法の杖を振った。
すると空中に拳大の炎の塊が出現した。
「ライカ、バリア張って頂戴。アタシ達を守る様な感じで」
「了解なのです! 『
ライカの背中から白騎士の像が出現し、炎とノート達の間に巨大なバリアを展開する。
いったい何をする気なのだろうか。ノートはカリーナに尋ねる。
「カリーナさん、どうするんですか?」
「こうするのよ」
するとカリーナは魔法の呪文を唱え始める。
それに合わせて炎の塊に大量の魔力が集まり始めた。
突然の魔力反応に気がついたトロールが、数体姿を現す。
「うわっ、出た!」
「安心しなさい、全部消し炭にするから」
「へ?」
「洞窟って狭いでしょ。なら同時に一網打尽も簡単ってこと」
拳大であった炎は、気づけば数十倍に膨れ上がっている。
そして……
「炸裂しなさい! ギガ・ヴォルケーノ!」
――業ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!――
凄まじい高温を内包した炎が、洞窟の中を埋め尽くす。
トロール達は逃げる隙もなく、魔法の炎に飲み込まれてしまった。
一方のノート達は『純白たる正義』のバリアに守られていて無傷。
しかし、突然発動された超高位の魔法を見て、ノートは唖然としていた。
「カ、カリーナさん……まさか計画って、これですか?」
「そうよ。簡潔でしょ」
「……スケールがスゴ過ぎて、ついて行けてないです」
一分程経過したところで、炎が治まる。
同時に『純白たる正義』のバリアも解除されて、カリーナが作り出した惨状が露わになった。
「うわぁ……」
いまだ残る炎の熱気もさることながら、文字通り黒焦げにされたトロールの死骸を見て、ノートは軽い不快感を覚えた。
臭いも酷い。だがそれ以上にスゴイ。
Bランクモンスターがこうも容易く倒されてしまったのだ。
だがそこでノートは、ふとある事を思った。
「って、こんな高火力使って大丈夫なんですか!? 鉱石に影響が出たりとか」
「あぁ、それなら心配ないわ」
ルーナが説明をする。
「ここにあるのは魔法鉱石。特殊な加工方法を使わないと溶かす事すら不可能なのよ」
「そうなんだ。なら大丈夫か……」
「多分影響は無いわ。多分ね」
ルーナの含みを感じる発言に、本当に大丈夫なのだろうかと、ノートはカリーナを見る。
当のカリーナはどこ吹く風といった様子で、先に進もうとする。
「さぁ三人共、残党狩りにいくわよ!」
「はいです!」
「ノート君、行くわよ」
「う、うん」
まぁ残党狩りなら大丈夫だろう。
幸いにしてカリーナの魔法もある。
ノートが少し気を緩めた、次の瞬間であった。
「……どうやら、向こうから来てくれたみたいね」
激しい足音が複数、こちらに向かって来る。
四人はそれぞれ、戦闘態勢に入った。
「『純白たる正義』!」
「出なさい『
ライカとルーナの背中から魔人体が出現する。
カリーナは杖を構え、ノートは両手の平を構えた。
足音は激しさを増していき……そして。
「「「ブモォォォォォォォォォォォォォォォン!」」」
巨大な棍棒を手にした、大型トロールの群れが姿を現した。
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