第29話 止まらない涙

 私は、シャルリナとともに部屋に戻って来ていた。

 先程まで、この部屋で談笑していたというのに、今は一転してとても悲しい気持ちである。


「ううっ……」

「シャルリナ、大丈夫?」

「……叔母様こそ、大丈夫なんですか?」

「それは……そうだけど……」


 私もシャルリナも、涙が止まらなかった。

 ゴガンダ様の死から、私達はまだ立ち直れていない。落ち着くまで、まだまだ時間はかかりそうである。


「と、とりあえず、座ろうか」

「そうですね……ベッドの上にでも行きましょう」


 ここに来るまでの間、私達は手をしっかりと握っていた。

 そうしなければ、崩れ落ちてしまいそうだったからだ。

 悲しみを共有できる人がいるというのは、少しありがたいことだった。一人だったら、私はこの部屋まで来ることすらできなかっただろう。


「ふう……そろそろ、泣き疲れてきましたね」

「そうだね……」

「でも、涙は止まりません。やっぱり、悲しすぎます」

「うん……」


 シャルリナの気持ちは、とてもよくわかった。

 もう泣きすぎて目が痛い。それなのに、涙は止まってくれないのだ。


「まさか、今日いなくなるなんて、思ってもいませんでした……こんなことなら、会っておけばよかった。そう後悔しても、遅いのですけど、どうしてもそう思ってしまいます……」

「会っておけば……」


 シャルリナの言葉に、私はあることに気づいた。

 そういえば、彼女は私がゴガンダ様の部屋から出て来た時にあの場所にいた。

 もしかして、彼女は祖父に会いに来たということなのだろうか。それが叶わなかったのは、


「私がいたから?」

「え?」


 私がいたから、彼女は祖父に会わずに帰ったのかもしれない。

 そう思った時、私はとても申し訳ない気持ちになった。

 あの時、私が話しかけなければ、彼女は祖父と会っていた。今のような後悔をしなくて済んだのである。


「あ、叔母様のせいではありませんよ。あの時逃げたのは……私が、弱かったせいです。人見知りして、勝手に逃げただけですから……」

「でも……」

「そんなことは気にしないでください。これは、私の責任です。私が……もっと強かったら……」

「ごめんね……シャルリナ」


 後悔の念が深まったのか、シャルリナの目からは大量の涙が流れてきた。

 そんな彼女の体を、私はしっかりと抱きしめる。謝罪の言葉は、彼女が祖父に会えなかったことへのものではない。彼女に、その後悔を深めさせてしまったことへの謝罪だ。

 私達は、それから泣き続けた。深い悲しみの中、彼女の温もりはとてもありがたいものだった。

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